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異能対策室〜王来王家燕〜  作者: イクサ


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4話【異能対策室】



燕が異能対策室の班長に任命されてから半年。

その日、彼女は政府科学技術・イノベーション事務局を正式に退所することになっていた。


「王来王家さん…寂しいです。」

財前の言葉に、燕はわずかに微笑んだ。


「ありがとう。都姫がサポートしてくれて、本当に助かってたよ。これからは、私の代わりに異能研究開発技術部を支えてほしい。」


「はい!…でも、少し重いです。」

財前が苦笑いを浮かべる。その姿に、燕の微笑みも変わらなかった。


その様子を見ていた魏藍が、燕に声をかけた。

「王来王家、これでお別れだな。達者でな。」

魏藍のいつも通りの声に、いつも通りの態度、だがそこには燕への信頼が詰まっていた。


魏藍の言葉に、燕は真剣な眼差しで応えた。

「はい、魏藍さん。お世話になりました。後はお願いします。」


魏藍は笑いながら頷いた。

「言われなくてもだ。新しい人材も続々と入ってくるし、擬似能力の完成ももうすぐだ。」


「でも、被験体がいなければ進まないですよね?」


「お前がいるだろ?異能犯罪者をこっちに送ってくれれば、それでいい。」


「私はただの非異能者ですから、そんな簡単にいくかはわかりませんよ?」


「わかってるさ。でも、お前なら異能対策室を必ずこの世界に必要な組織へと成長させてくれる。俺たちの研究にも、きっと役立つ…そう確信してる。」

その言葉には、魏藍自身が抱える過去の痛みと、未来への希望が込められていた。彼がかつて失ったもの、そして新たに築こうとしているもの。そのすべてが、燕に対する期待へと凝縮されていた。


「勝手ですね。」

燕はそう返したが、その目には感謝と信頼が宿っていた。

彼女もまた、魏藍の期待を裏切るつもりはなかった。


「いつものことだろ?」

魏藍が笑みを浮かべると、燕も肩をすくめて軽く笑った。


そして燕はその最後のやり取りを胸に刻み、小さく行ってきますと呟き、静かに政府科学技術・イノベーション事務局を後にした。



東京都千代田区・警視庁本部庁舎

ここは異能戦争の被害を辛うじて免れ、奇跡的に建て直しを免れた場所だ。その中に、新たに設立されたのが「異能対策室」。既存の捜査課とは異なり、捜査第0課という特別な位置づけで、異能犯罪だけを扱う特異な組織だ。


異能対策室は最上階に設置されている。重厚な扉がいくつも連なり、ひんやりとした空気が漂うその空間に、燕は静かに立っていた。彼女の前には、一際目立つ大男が待っていた。首から顔にかけて無数の古傷が刻まれ、その存在感だけで空間の圧が変わる。


「お前が、王来王家燕か。」

その声は低く、力強く響いた。燕は一瞬息を飲んだが、すぐに姿勢を正し、応答する。


「は、はい!よろしくお願いします!」

声が少し上擦った自分に気付き、燕は内心で軽く舌打ちした。


「緊張するな。兇然から話は聞いている。仕事ができる、優秀な人間だってな。」

大男は薄く笑みを浮かべた。「俺は比嘉公太郎(ひがこうたろう)だ。この異能対策室の責任者をやっている。お前も名前くらいは聞いたことがあるだろ?」


その問いかけに、燕は即座に返した。

「はい、16年前の異能戦争で、九条長官と共に戦争を終わらせた10人の一人と伺っています。」


比嘉は大きく笑い、満足げに頷く。

「そうだ。知っていてくれて助かる。」


比嘉公太郎――かつてSATの隊長として名を馳せ、今や警視監の地位にいる男。その風格と経歴は、異能犯罪に立ち向かうこの場所で、重くのしかかる。

「まあ、説明するまでもないが、ここは異能犯罪のみを扱う特別な組織だ。通常の犯罪は他の刑事課や捜査課が対応する。お前もその辺は理解しているな?」


「はい、承知しています。」

燕は真剣な表情で頷いた。


「それで、お前が所属するチームだが――」


「所属するチーム?異能対策室に所属するのでは…?」


燕が首を傾げると、比嘉は眉を上げ、少し苛立った様子で答えた。

「兇然のやつ、説明してなかったのか。仕方ねぇな。

異能対策室には4つのチームがある。それぞれが異なる役割を担っている。」


燕はペンを取り出し、比嘉の説明に耳を傾けた。

「まず、1stチーム【Strike(ストライク) Bulled(ブレッド)】通称SB。ここは異能犯罪者と直接交戦し、事件を解決するのが目的だ。だが、SBが担当するのは第3級から準1級までの異能犯罪者による事件だけだ。」


彼は一拍おいて続けた。

「次に、2ndチーム【Hawk(ホーク) Eye(アイ)】、通称HE。こいつらは異能犯罪者を追跡・尾行したり、ハッキングなどで事件を解決する。できる限り交戦を避けて、事件に迫るチームだ。ここも第3級から準1級の事件を扱う。」

燕は、正確にメモを取りながらも、その目は真剣だ。


「そして、3rdチーム【Control(コントロール) Squad(スクアッド)】通称CS。ここは1級以上の異能事件を扱うプロフェッショナルチームだ。お前は、ここで班長として指揮を執ってもらう。」


「私がCSの班長にですか…?」

驚きと戸惑いが燕の表情に浮かぶ。


「なぜ、私がそんな危険なチームの班長を?」


「兇然の命令だ。文句なら、あの長官に言いな。」

比嘉は軽く肩をすくめてみせるが、その声には余計な感情がこもっていない。


「九条長官の命令なら、わかりました。お受けします。」

燕は覚悟を決めた様子で頷く。彼女の背筋がまっすぐに伸び、その決意が表に現れる。


比嘉は深く息をつき、最後の説明を始めた。

「さて、最後のチームについてだが、4thチームは【Dirty(ダーティー) Dog(ドッグ)】通称DDだ。…覚えておくだけでいい。そいつらは他のチームとは関わらんし、連携を取ることもない。」


「え?仕事内容も教えてもらえないんですか?」


「詮索は無用だ。とにかく、そいつらとは関わることはない。それだけ覚えておけばいい。」


燕は一瞬考え込んだが、深く問い詰めることは避け、軽く頷いた。

「わかりました。詮索しません。」


「いい判断だ。さあ、これで説明は終わりだ。チームのメンバーはもう集めてある。今日は顔合わせだ。挨拶だけしておけ。」

「はい、承知しました。これからよろしくお願いします、比嘉警視監。」

燕は深々と頭を下げたが、比嘉は大きく笑い、手を振った。

「警視監なんて堅苦しい呼び方はやめろ。肩書きなんて、ただの役職だ。」

「わかりました。では、比嘉さんとお呼びします。」


燕は一礼し、重厚な扉に手をかけた。目の前には「異能対策室3rd」と書かれたプレートが掲げられている。

燕は扉を開け、静かに足を踏み入れた。



部屋にはすでに4人の男女が揃っていた。緊張した空気が漂う中で、最初に声を発したのは、髭を蓄えた中年の男だった。彼は気怠そうに腕を組みながら、ちらりと燕を見て口を開く。


「王来王家班長だな。俺は竜崎正剛(りゅうざきせいごう)ここに来る前は警備局で働いてた。よろしく。」


彼の話し方は淡々としており、無骨な性格が滲み出ていた。それに続き、赤い髪をした青年が陽気に笑いながら声をあげる。


「俺は神室(かむろ)れいじっす!九条?っておっさんに、異能者と戦えるって聞いたからここに来ました!よろしくっす!」


彼の口調は軽快で、何も考えずに突っ走るような印象を与えた。その様子を見て、薄紫色のロングヘアの女性が静かにため息をつきながら口を挟む。


「野蛮ね、あなた。」


その冷淡な言葉に、神室はすぐに反応する。


「なんだと?根暗女が!」


彼の挑発的な言葉にもかかわらず、薄紫色の髪の女性は神室を無視して燕の方に向き直り、静かに挨拶をする。


村崎紫苑(むらさきしおん)。狙撃部隊に所属してた。どうぞよろしく。」


「村崎さん、あなたこそ淡白すぎますよ。」


黒髪のショートカットの女性が、呆れたように苦笑しながら彼女に言葉をかける。次いで燕に姿勢を正して明るく挨拶した。


「初めまして、王来王家班長!私は時陰(ときかげ)めろうです。ここに来る前は普通のOLでした!不安たっぷりですが、九条長官に指名された分、しっかり働きたいと思います!」


彼女の快活な挨拶に、村崎は再び冷静に口を開く。


「貴女は随分と元気ね。」


「はい!元気だけが取り柄ですから!」


村崎の皮肉めいた言葉にも、時陰は朗らかに応えた。その無邪気な反応に、普段は無表情を保つ村崎も一瞬だけ眉間に皺を寄せた。


4人の自己紹介が一通り終わると、燕の背後から比嘉が静かに前に出てきて言葉を投げかけた。


「どうだ?兇然の奴が自らスカウトした面々だ。尖った奴ばっかりだが、腕は確かだ。不安か?」


比嘉の問いかけに、燕は少し考えてから、薄く微笑む。


「少し不安もありますが……それ以上に可能性を感じますね。何とかなるでしょう。」


燕は4人に向かい直し、毅然とした表情で挨拶を始めた。


「初めまして皆さん。このCSチームの班長を務めることになりました、王来王家燕です。これから共に異能犯罪事件に取り組む仲間として、どうぞよろしくお願いーー」


しかし、燕の挨拶を遮るようにして竜崎が口を開いた。

「そういうのはいい。あんたは班長だ。俺たちに何をさせるか、しっかり指示を出してくれればそれでいい。礼儀は二の次だ。」


その言葉に続くように、村崎も無表情で同意を示す。

「銃を撃つのが紫苑の仕事。挨拶より、早く事件に関わらせてほしいわ。」


2人の実直な態度に、神室と時陰は苦笑し、少し気まずそうな表情を見せる。だが、比嘉はすぐにその場を収めるために声を上げた。


「意気込みがあるのは悪くないが、今日は顔合わせだ。事件については、後日俺から話すことになる。準備はその時にしっかり整えてもらう。」


竜崎と村崎は、それを聞くとあっさりと身支度を整え始めた。

「なら、俺は帰らせてもらう。仕事がないならここにいても無駄だからな。」


「紫苑も帰る。」


2人は燕と比嘉に軽く頭を下げ、さっさと部屋を出て行った。時陰は彼らの背中をじっと見つめ、少し不満げに呟く。

「自由で勝手な人たちですね……。」


燕は肩をすくめて同意を示す。

「そうね……神室さん、時陰さんも、今日はもう自由にしていいわ。明日に向けて準備をしてもらえれば大丈夫よ。」


神室は少し驚いたように眉を上げた。

「いいんすか?じゃあ、自分はジムに行ってトレーニングしてきますっす!」


「私は……それなら帰って休もうかな。では、王来王家班長!明日からどうぞよろしくお願いします!」


2人もそれぞれ気まずそうに燕と比嘉に一礼し、部屋を出た。神室と時陰が去るのを見届け、燕は微笑みながら軽く頷く。


「これは大変なチームになりそうだな。」

比嘉が軽く皮肉めいた声で呟く。


「ですね。でも、やり甲斐がありそうです。」

燕は肩の力を抜き、軽い笑みを浮かべた。それを見て、比嘉は少し顔を緩めながら、手を振って退室の準備を始めた。


「じゃ、俺も戻るとするか。まだやることが山積みだ。」


「警視監の立場って本当に忙しいんですね。」


「まぁな。最近になって少し気になる事件が起きていてな、そいつを追わなきゃならないんだ。」


燕はその言葉に反応して、顔をしかめた。

「気になる事件……?」


比嘉は気にするなと言わんばかりに軽く笑い、手をひらひらと振る。

「今は気にしなくていい。いずれCSチームが関わることになるかもしれねぇ。その時に詳しく話すさ。それじゃ、お前も今日は好きに過ごせ。明日から、頼むぞ。」


「はい、よろしくお願いします。」


燕は深く一礼し、比嘉が部屋を去るのを見送った。部屋に残された燕は、一瞬だけ静かな空間に身を委ねた。新しい場所で、何ができるのか。


彼女の脳裏には、自分が描く理想の未来が浮かんでいた。異能者が非異能者を脅かさない世界――それは果たして、この異能対策室で実現できるのか?


「私にできることは……。」


燕は視線を落とし、再び自分の中に決意を宿した。


あの日、私は決意した。

この日本の均衡を変える。必ず――。


静かな部屋にそう思いながら一人残った燕。

ふと窓の外を見た。既に外は夜になっていた。

東京の夜景が広がり、無数の光が街を照らしている。その煌めきの中に、これから自分が踏み込む道の厳しさを感じ取る。


しかし、それを振り払うかのように、机の上にあった資料に視線が落ちた。

そこにはこれまでの異能犯罪の記録が詳細に記されている。

この異能対策室を形作るために置かれた過去の資料の1つなのだろう。

被害者の名前、事件の経緯、そして犯人のプロファイル。それを燕は静かに読み込む。


「これ…最近の事件のだ。」


読み込んでいくと、それは2036年に入ってからの数ヶ月内で起きた一部の事件の資料だった。


そして読み込んでいく燕はある事に気づいた。


「異能犯罪の件数が多くなってる……?」


異能犯罪の増加は、資料見ると明らかだった。

2035年以前と2036年に入ってから、一月における犯罪の数が目に見えて多くなっている。

だが、それ以上に彼女を悩ませるのは、その背後に潜む何か。統計上は増えているはずなのに、その動きが予測できない。まるで、異能者たちが無秩序に動いているかのように見える。しかし、本当にそうなのだろうか。


燕は思考を巡らせる。

まるで何かに煽動される様に、増えている犯罪の背後には何か大きな動きがある気配がした。まるで、今は表に現れていない巨大な何かが、水面下で蠢いているかのように。


言い表せないその感覚に、彼女は深く息を吐き、椅子にもたれかかった。

燕の視線は、再び窓の外へと向けられた。


東京の夜景綺麗だった。

異能者が跋扈する世界と思わせないぐらいに。


燕は聞こえるか聞こえないかぐらいの音量で綺麗と呟いた後、ゆっくり資料を閉じ、静かに明日へと備えた。


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