45話【終わらせにきた】
一と乕若の連携が一ノ瀬を追い詰める。
——刀、爪…刀、刀、爪…爪、刀。
少しでも集中が切れたらこの首は飛んでいきそうだ…
しかもあの神々廻とか言うやつが来てから連携力も上がってやがる…
王来王家班長と来栖は何やってんだ…
一ノ瀬は2本のアサルトナイフで捌いていく。
「…さっきの擬似能力は使わないのか?」
「使わなきゃならない”タイミング”が来たなら、もう一回使ってやるよッ!」
一ノ瀬は向かってくる一に踏み込んでナイフを振り抜き刀を弾いた。
さらに追い打ちをかける様にもう一方のナイフを振り下ろした。
「ッ…!」
一は一ノ瀬の動きに合わせ、振り返り後ろに刀を投げ飛ばす。
「”天”!」
瞬間、空間が閉じるように歪み、気づいた時にはバランスを崩しながら後ろに投げ飛ばした刀に追いつき掴んでいた。
「…なるほどな…そう避けるか」
「ハァ!!!」
空を切った一ノ瀬に休む隙を与える間もなく乕若は強襲を仕掛ける。
「ッ!!!獣風情が!!」
一ノ瀬は身体を捻りながら横に逸れ、ギリギリで乕若の爪を躱す。
「仕方ねぇもう一回使ってやるよ”擬似能力”」
一ノ瀬は弐と書かれた赤い柄のアサルトナイフを構える
「させるか!!」
しかし、それに合わせるように一は刀を一直線に一ノ瀬目掛けて投げ飛ばす。
「てめぇがな!!」
一ノ瀬も咄嗟にもう一つのアサルトナイフで弾いた。
しかしその弾いた刀をいつの間にか一が掴んで立っていた。
「”天”」
キィィン
…と鉄のぶつかり合う音が響いた。
振り下ろされた刀に合わせ一ノ瀬はナイフで受け止めていた。
「…よく止めたな。さすがに驚いたよ」
「何処がだよ…」
一ノ瀬は刀を絡め取り、前蹴りで一を蹴り飛ばす。
「…漸く判ったんだよ、てめぇの能力」
「なに?」
「初め、それを見た時は空間移動系の能力か何かだと思ってた。だが、思い返してみたら、この前の村崎の技に当たったり、そもそも空間移動なら自由自在に空間内を移動しまくりゃ斬り合う必要すらねぇ」
一ノ瀬は落ちた刀に目を向けた。
「ヒントはその刀にあった。てめぇはさっき俺のナイフが当たる直前に刀を何もない後ろにぶん投げて能力を使った…空間能力なら刀を投げる必要はねぇ、あの瞬間で避けるには刀を投げる必要があった。その上、後ろを振り向く必要もあった…」
一ノ瀬は刀を踏みつけた。
「ハッキリ言おう。てめぇの能力は直線上に瞬間移動する能力。ただし何か物体が直線上に当たるまで瞬間移動し続ける…じゃねぇのか?だから村崎の擬似能力で生まれた圧という壁に突っ込まなきゃならなかった…だろ?」
「……さすがに何度も剣を交えれば、俺の能力も暴けるか…戦闘の際に分析とは恐れ入るよ」
一は小刀に手を伸ばす。
「だが、少し訂正させてもらう。直線上ではなく、目線先だッ!!!!」
一が一ノ瀬に目線を合わせた瞬間、一ノ瀬の懐には既に一が小刀を今にも振り抜こうとしていた。
「ッ!!」
一ノ瀬は咄嗟に踏みつけていた一の刀を蹴り上げ、掴みながら一目掛けて振りかぶる——
「あーあー、垂水の髪めちゃくちゃにしてくれちゃって…覚悟はできてるかにゃ?」
垂水は突然現れた熊野御堂に対して大声で叫んだ。
「ハハハ。この班になってからそんな覚悟とっくに捨てましたよ」
熊野御堂は手に持っていた通常よりも刀身が短いレイピアを構えた。
「そんな短い細っちいので垂水とやる気?近距離も近距離じゃん。…状況わかってる?」
垂水はすぐに乱れた髪を纏めて刃にしていく。
「ええ、こちらはド近距離…そしてそちらは中遠距離…先ほどからこのビルから見ていましたので十分に理解しておりますとも」
熊野御堂はレイピアを構えた腕を後ろに引くようにし、構え、そして勢いよく突き出した。
その瞬間数十メートル離れた垂水の新たに束ねた髪がまるで貫かれた様に弾けた。
「ッ!!?」
「ですが、それは常識の範囲の話。私のこのレイピア…
“見えるものが真実では無い”には通用しない話です」
「…なにそれ、擬似能力ってやつ?」
「ええ、そうですよ。最近支給された物なんですよ。あ、能力は言いませんよ?手の内明かすとかしないんで」
「聞いてないし」
「ハハハ。…さて、あちらは…まぁ大丈夫でしょうね」
熊野御堂は神室の方を横目に見て呟いた。
「それじゃ、あの女性のお相手は私にお任せを。あの人に援護しろと言われてるので」
熊野御堂は時陰に言った。
「あの人?」
「援護って…誰に言われたんだよ?」
贄山の言葉に竜崎は疑問をぶつけた
「そりゃ勿論——」
一の小刀と一ノ瀬が振りかぶった刀。
両者の手に持った刃は互いの身体を斬る——
…事はなく、互いの腕は両者の間に割って入った1人の何者かに掴まれていた。
「ッ!?貴方は…」
「比嘉さん……!」
比嘉公太郎が2人の腕を掴んでいた。
「2人ともそこまでだ」
そう言ったあと更に続けて言う。
「乕若、お前も動くな」
「……ッ!」
一ノ瀬の背後からその首を狙う乕若は足を止めた。
「何しに来たんですか…比嘉さん」
「この無意味な戦いを終わらせに来たんだよ」
比嘉の言葉に一は小刀を持った手をゆっくりと降ろす。
「まず初めに【No Trace】のお前達には俺の部下が申し訳ない事をした。特に乕若、お前はうちの事件の捜査上重要参考人にされていた…」
「…いいわ、別に。あの場に居たらどんな警官でも私をおうと思うし」
「そうか」
「おい比嘉さん…あんた、どう言う事だ?なんでそいつらを知ってる…!」
「同じ警察組織だ。知らない方がおかしいだろ」
「そう言う事言ってるんじゃねえ!あんた、乕若深雪が重要参考人にされた時何も知らねえ顔してたじゃねえか!」
「…あん時は何も言えなかったんだよ」
「比嘉さん…それが犯人隠避の罪になるのが分からねえわけじゃないだろ…」
「一ノ瀬…俺がこうやって来たのはそれについても含めて理由があんだよ」
「なんだと…」
「その話は俺じゃなくてあいつらの方が適任かもしれんがな」
比嘉はそう言うと1人の男が燕と来栖を連れて歩いて来ていた。
「王来王家班長、来栖…そいつは誰だ?」
「初めまして、異能対策室Dirty Dog、通称DD班の班長一ノ瀬篝文くん。俺は黒羽骸。
警察庁対異能排除特殊異能部隊【No Trace】の顧問官だ。よろしくね」
一ノ瀬の質問に男は丁寧に答えた。
「顧問官?…なるほど、要はこいつらのまとめ役か。そんな人間がここまで何の用なんだ?」
「その答えは彼女らが知ってるよ」
黒羽はその場から一歩後退りながら燕と来栖を立たせた。
「王来王家班長、なに戦いやめてんだ。こいつらは敵だ。来栖、お前も前線に出たんだったらDD班らしさを出せ」
「一ノ瀬班長、貴方にお訊きしたいことがあります」
燕はそう言うとスマホを見せる。
「これは、私が異能対策室に任命された時の警察庁長官室の部屋にある防犯映像です」
そして燕は動画の再生ボタンを押した。
その映像は長官の九条兇然とその前に立つ王来王家燕、魏藍衝平が会話してるその後ろの扉から1人の男が入ってくる場面から始まっていた。
1人の男が苦しみだし、倒れる瞬間その影からもう1人の男が飛び出し、ナイフで九条兇然を斬りつけようとした。
だが九条の体術によって防がれた。
その時、投げ飛ばされた後、視線を九条に向けるために顔を上げた所で動画は停止された。
「これは俗に言う九条長官襲撃事件の映像です。犯人は影に潜む能力を持ち、警官の1人の影に潜んでいた。この時外では異能犯罪者による襲撃があり対異能警察部隊がこれの鎮圧に動いていた。この男はそれを伝えるために長官室へと来ていた。そして、犯人は長官室に入った瞬間影から飛び出し九条長官を斬りつけようとしたが失敗に終わった」
「…何の話をしてんだ王来王家班長」
「貴方は口から上の部分を覆う様にいつも狐の仮面をしてますよね。何故誰も疑問に思わなかったのか。恐らくそれは潜入意識によるもの。収容できない、脱走した、などの理由で異能犯罪者を処理する班の班長…だからこそ顔を隠している。みたいな意識が自然と生まれてしまう」
「…来栖、王来王家班長は気が触れてるみてえだ連れて帰ってやれ」
「一ノ瀬班長…来栖さんはこの男の顔を貴方と断言しています」
燕は淡々と話し続ける。
「なに…?…来栖、お前」
「まずは一ノ瀬班長、仮面を外してくれますか」
燕の言葉に一ノ瀬は言葉を止めた。
そして少し時間が経ってたから、ゆっくりと仮面を外し始めた。
その顔は映像の男と一緒だった。
「…やっぱり、九条長官襲撃は一ノ瀬班長なんですね…」
「…それで、九条長官の話をしに来たのか?今は事件の解決が先だろ!」
一ノ瀬は声を荒げながら言った。
「…そうですね、九条長官襲撃の件は後で聞かせてもらうとしてまずは事件の解決が先ですね」
「…一ノ瀬班長、乕若深雪を追う理由はなんですか」
来栖は少し静かな声で一ノ瀬に聞いた。
「今更何言ってんだ、こいつは重要参考人。この事件の犯人の可能性が大いにある女だ。それに現場にもいたんだ、追わない方がおかしいだろ!」
一ノ瀬の言葉を聞いて燕は乕若に身体を向けた。
「では、乕若深雪さん、貴女があの現場に居た理由を教えていただけませんか?」
「…なにしてんだ、そいつは口を割らねえんだよ。だから力づくの行為を行ってんだろ俺たちは」
「乕若深雪さん、答えられますか?」
燕の言葉に乕若は黙ったままだった。
それに対して一がゆっくりと口を開いた。
「そこからは俺が話そう」
「…一一人さん。お願いします」




