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異能対策室〜王来王家燕〜  作者: イクサ


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42話【神室&時陰vs佐田原&垂水】


地下闘技場。

かつて神室はここで優勝候補として日々戦っていた。

九条兇然と遭うまではここのリング上に立つ毎日だった。


拳が擦り切れようと、骨が折れようと東京のはみ出し者達の流れ着くあの場所で生き抜いてきた。


あの時感じた感覚、死と隣合わせのあの感覚を神室は今、再び浴びていた。


神室は血を吐き出し、膝を付いていた。


———肋の何本かは折れてる。

———身体の至る所が動かない。


「本当に人なのか…お前は今そう思ってるな」


神室の思考を読んだ様に佐田原はそう言った。


「そうっすよ…」


口から血が混じった唾を吐きつつ神室は佐田原を睨んだ。


「人が出せるパンチの威力じゃねぇっす…なんなんすかあんた」


佐田原の灰色に変色した筋肉質の腕。

神室が言うには当たり前の様に人の腕の皮膚として認識することは出来ない。

そんな拳は神室を殴った際に付着した血が鮮やかに見えるほどだった。


「まるで…動物とでも戦ってるのかと思ったっすよ…」


「まぁ実際そうだろう。…そうだな、いいだろう教えてやる。俺の異能は獣異能ビーストスキル臨界点の(クリティカル)・エレファント”。名の通り象になる異能だ」


「…獣異能?象になる異能?なんすかそれ…動物になるってことっすか」


「そうか、お前は知らねえのか獣異能ビーストスキルを。まぁけどそれも当然か。獣異能ってのはこの世における異能者の中でもかなり特殊な異能だ。普通の異能犯罪者達でこの異能者はほぼ居ねえだろ」


佐田原は続ける。


獣異能ビーストスキルっつうのはな、その名の通り獣になる異能だ。人によってなる獣の姿は様々。効果は簡単、その獣の特性や獰猛性を身に宿す。たったそれだけだ」


「それが獣異能ビーストスキル…」


「だがな強力な分、獣異能ビーストスキルっつうのは危険な異能なんだ。さっき特殊っつったろ?それの1つが呪いだ。獣化っつう呪いがあんだよ」


佐田原はそう言いながら自分の灰色に変色した腕を見た。


「呪いっつうのは名の通りの獣化…つまりその獣の姿から人間の姿に戻ることができなくなんだ」


「な、なんすか、それ…」


「当たり前だよな。獣の姿になるってのは何も変身してなるわけじゃねぇ。この身体を変化させてるんだ。獣の骨格に、肉質に、体質に無理矢理にな。その負荷はデカいんだ。…だから呪いってのはそう言うことを言うんだ…」


「じゃあアンタのその腕は…」


「ああ、そうだ俺は呪いに勝てなかった…いや少し違うか。今も俺は呪いと戦っている。獣になる種類や存在、その種の強さによって呪いの強さも変わる。俺の異能は生物として強い分、呪いも強かったみてぇだ…呪いに勝つと克服って言ってな、人によっちゃ呪いによる獣化の負荷を受けなくなった奴等もいる。要は獣化の心配が無いってわけだ」


「そうなんすね…よくわかんねぇっすけど、じゃあそいつらは喜んで良いってわけっすか」


「いや?そうでもねえ。呪いを克服したからと言っては自由に異能を使い放題ってわけでもねぇ…S細胞をふんだんに使ってるとはいえ身体を無理矢理、獣の骨格に変化させてんだ、心臓や脳に負担がねぇわけじゃねえんだ」


佐田原は淡々と語った。

少し語りすぎたかと思ったのが別の話をし始める。


「それよりも面白い話をしてやる。お前、2000年代、いやそれよりも前からある話で人面犬って知ってるか?あの時代の都市伝説の1つだ」


「知ってるっすけど、それが…?」


「じゃあ海外の未確認動物はどうだ?ビッグフット、ゴートマン、リザードマン、モスマン…」


「だからそれがなんなんすか?…話が見えねえっすよ」


「それら全てが”獣化の呪いに負けた奴ら”だと言ったら?」


沈黙が流れた。

突飛な話に神室はすぐに声を出す事はできなかった。

都市伝説、それもUMAと呼ばれる物達。

あの時代はそう言うのの特集やテレビ番組なども多かった。

だが全てネタとして、エンタメとして扱われていたものだ。


それらが全てが獣化の呪いの成れの果て…


「信じられねぇか?まぁそうだよな。俺もガキん時はあー言うのを観て楽しんでたよ。こんなの作りもんだろ。こんな動物いねぇだろ。テレビの前で、本の前で、ネット前でそう言っていた。この力が発現するまではな…」


「なんで、アンタがそんな事知ってんすか?確証はあるんすか…」


「あるさ。何度も見てきた。羊の能力もゴリラの能力も蜥蜴の能力も他の奴らの成れの果てをな」


「…俺はそんなの今の今まで知らなかったっすよ?アンタとここで戦うまでは…!」


「…そりゃそうだろさっきも言ったが、普通に獣異能を持った異能者はほぼ居ねえ。世に出てくる獣異能を持った異能者は現れ次第【No Trace】に所属している…いやされてるからな」


「されてる?なんすか、まるで無理矢理見たいな言い方…」


佐田原は構え直した。

神室の言葉に耳を貸さず、灰色の両腕を構えた。


「さ、地下格闘家なんだろ?もっと楽しませろよ?

じゃねぇとお仲間、死んじまうぜ?」


その言葉を聞き、神室は時陰に目を向けた。

その目に入ってきたその光景を見て、神室はすぐに拳を構え直した。





———血が流れる。

人ってこんなに血が体に流れてるんだ。

こんなに流れても生きているんだ。

人体って不思議。


そう思えるぐらいに時陰の全身から血が流れ出る。


「お姉さん、意外とタフで困るにゃ〜。…流石に血流しすぎて意識も朦朧としてるんじゃないの?」


垂水怠美。

その群青色の髪が揺れる。

…いや畝り、暴れている。

まるで自我を持つ様に、人に寄生する生命体とでも思わせるぐらいに垂水の意思に反しているのか、それとも意思なのかは分からないが、勝手に動いている。

それも幾つものの束になり、神話上に出てくるメデューサを彷彿させる様にその髪の束の一つ一つが動いている。


そしてその束の髪先が刃物になっている。

文字通りの刃物。包丁の刃か、ナイフの刃かそれは分からない。

だが紛れもなく刃だ。


その刃一つ一つに血が付着している。


「垂水の異能”髪刀かみそり”髪を束ねて刃にする異能、このバリエーション”女王髪刀メデューサ・レイザー”…これでまだ立ってるお姉さんなかなかタフだにゃ。すごいすごい」


そう言う垂水の顔は怒りの表情をしていた。


———生まれてから血とはほぼ無縁だった。

他人から流れる血は何度も見てきたけど、自分からこんなに流れるのは無かった。


だからこそ恐怖に支配される。

時陰はカタカタと震えている。

それは恐怖に呑まれて震えているのか、血が出過ぎて震えているのか最早定かではない。


身体を動かす前に体を斬られた。

一歩踏む出す前に体を斬られた。

引き金を引く前に体を斬られた。


…恐怖に勝つ前に体を斬られた。


気づけばいつの間にかこんな状態だった。


時陰は自分には早かったと思った。

普通の異能犯罪者でも恐怖はあるのに、異能犯罪者と対峙するこの人達と戦うのはアリが象を倒すような事。


無謀だったのかもしれない…


「お姉さんさぁさっきから一切喋らないし、戦いもしないし、垂水も飽きてきちゃうよぉ?…殺す気なかったんだけど、さすがにこれは死んじゃうかにゃ…?」


垂水は髪の1つの束を時陰に向かって放つ。

その刃先は時陰の心臓目掛けて一直線に向かう。



時陰の視線は神室に向いた。


神室の2倍の筋肉はある佐田原目掛けて一心不乱に拳を放つ神室。

戦力差は明らか。

それでも攻撃と防御を繰り返す神室。


…諦めてないんだ。神室君は。

勝とうとしてるだ。

倒す気でいるんだ。


いえ、みんなそうだったね。

班長も竜崎さんも神室君も村崎さんもみんな戦ってる。


変わろうとしたのにまだこんな考えなのは悪いくせだね。


…時陰の身体からの震えは残っている。

だがその震えは恐怖ではない、血が足りないからではない。

武者震いだ。


時陰はゆっくりと銃を構え、そして”銃の柄を叩いた”。


「擬似能力解放」


「?!…今更遅いよん!お姉さん!!」


時陰目掛けて放たれた髪の束で出来た刃は時陰の心臓に目掛けられていた。

だが、時陰が銃を構えたその瞬間妙な現象に遭っていた。


「………は??」


放った髪の束の刃は四方に散っていた。

髪が散っていた。

まるで何かの圧に当たったかの様に髪は散り散りに弾けていた。


「…衝撃制圧ショック・バレッド。私の銃に付与した擬似能力です」


「弾なんか…出てないじゃん…ッ!!!なにそれ!!!」


「…実弾を撃つのは私には出来なかった。だから弾丸じゃなくて、空気圧を放つ銃を作ってもらったの…!これが私の武器」


垂水の顔は怒りに満ちていた。

自分の髪、即ち女性の第2の命とも言える大事な髪を扱った異能。

その1つの束が散り散りに千切れたのだからその怒りは尤もだ。


だが時陰はそれには気に留めず、自分の銃に目を向けていた。


(…上手く機能したけど…私、引き金引いたっけ…?)


銃口から煙を吹く銃を見て時陰はそう思っていた。





「時陰さん心配いらないみたいっすね…」


時陰と垂水のやり取りを佐田原に攻撃しながら見ていた神室は安堵に浸った。


「…垂水のやつ、油断しやがったな…」


「これで心置きなくアンタに集中出来るっすよ…!」


神室は自分のポケットから白いグローブを利き手の右手に通した。


「なんだ、手加減されてたのか?」


「手加減なんかしてねぇっすよ…さっきからずっと本気だったっすよ?…ただ自分の力だけで渡り合えるか試してただけっす」


「じゃあそのグローブはなんだ?」


「…どれだけやってもアンタに自分の力だけじゃ敵わないっす。だからこれを使うことにしたってだけっすよ。擬似能力解放っす」


そう言い神室は勢いよく飛び出し、右手でストレートを放つ。


だが佐田原は片腕でそれを軽々と受け止めた。


「…やっぱ軽いパンチだな。何が変わったんだ?」


「よく見るっすよ。その腕を」


神室に指摘された佐田原は受け止めた左腕を見る。


「…なんだこりゃ?紋章か?」


そこには神室の拳大の大きさで星とは程遠い均等にギザギザに描かれた円の紋章が刻まれていた。


「それは爆羅ばくらいんっす」


爆羅ばくらいん?んだそりゃ」


「気をつけるっすよ。その紋に再現はないんで!」


そして神室は再び佐田原に向かって飛び出した。

フットワークを活かし佐田原に拳を当てていく。


当然、佐田原は何かを察した様に躱して行く。


しかし神室のフットワークの速度が佐田原の巨体を上回る。

佐田原に比べると小柄な分、リカバリーが早い。

躱される度に詰めより、右手の拳で殴りつける。

何度も同じ様に拳を当て続ける。


(…こいつッ!早くなってやがる…!?)


佐田原はすぐに神室の動きを観察した。

思慮深く、見極め、そして神室の拳が放たれるよりも先に神室を殴り飛ばす。


「痛ってて…さすがに読まれちゃうっすよね…」


「急な動きが変わったのは隠し技としては褒めてやる。だがこの紋章も何も意味がねえ。隠し技も見切ったらどうと言うことはねえ」


「ま、そうっすよね。何度も通用するとは思ってないんで」


だが神室はすぐに起き上がった。


「それより、アンタ幾つ拳を受けたっすか?」


そう言われた佐田原は自分の身体を見た。

左腕に2つ、左脇腹に2つ、左の腹筋付近に1つ

そして左の胸に1つ紋章が刻まれていた。


「こんだけ刻んで何もねぇんだ。だからどうしたとしか言えねえな?」


「そうっすか。…アンタのその象の皮膚に俺の拳の威力が通用するとは思ってないっす。けど、この爆羅ばくらいんは果たしてどうなんすかね!」


そして三度目の突撃を行う。


「またか次はパンチを打つ前に叩き潰してやるよ」


神室は何も言わずに突っ込む。

しかしその右手は拳ではなく佐田原を掴む様に開いていた。

そしてその動きも佐田原にパンチを打つための動きではなく、佐田原に掴みかかるための動きだった。


突っ込んできた神室を叩き潰すために放った佐田原のパンチは空を切った。


「喰らえ!!!」


神室の右手は佐田原に刻まれた左脇腹の印目掛けて放たれていた、そして掴んだ。

いや、掌で押し飛ばすように右手を刻まれた印に当てた。


その瞬間右手を当てられた佐田原の左脇腹が爆発した。


「ッ!!?…なん…だ!?」


「これが擬似能力、爆羅ばくらいんっすよ。俺の右の拳を当てた所に印を刻む。そして俺の右の掌を刻んだ印に当てることで爆発させる」


「…ぐッ…だが、この程度の爆発は正直俺を斃せるどうり道理にはならねえよ」


「だと思うっす。爆羅ばくらいんの真骨頂はこっからっすから」


「なに?」


その瞬間佐田原の全身に刻まれていた紋章が次々に爆発していく。

一個爆発することにその付近のが爆発。


そして計6発の爆発が佐田原を襲ったのであった。


連鎖爆羅れんさばくら。一度印が爆発するとその付近の印を連鎖的に爆発させる。さらにその連鎖した印の付近に印があれば…ってわけっす。どうっすか?象でもさすがに効いたんじゃないっすか?」


佐田原はゆっくりと仰向けに倒れた。




爆発の衝撃音は時陰達にも聴こえていた。


「ちょちょ、ちょっと!?隊長!!?何倒れちゃってのさぁ!?」


「…すごい、神室君。…私も頑張らないと」


時陰はすぐに銃の柄を叩き、前に突き出す。


「…ったくお姉さん、なんで立ってられんの…その出血キツイじゃないのかにゃ?」


垂水は間髪入れずに、時陰を左右から挟む様に髪の刃を放つ。


だが時陰はもう一度柄を叩き左右から迫る髪に向かって1回ずつ引き金を引く。


空気の圧が飛ばされる衝撃音が垂水の髪を弾け飛ばした。


「…その銃厄介だにゃ…垂水禿げちゃうじゃん」


「それはごめんなさい。けど、私も頑張らないといけないから…!」


そして時陰は再び銃の柄を叩く。


「…お姉さんの銃、”それ”やらないとダメなんだね」


「はい。擬似能力は必ず発現するための行動が必要です。この銃は柄を叩く事。これがこの銃におけるリロードになります」


「説明してくれるんだありがたいにゃ〜…けどいいのかにゃ?それ弱点にもなるよ」


「え?」


気づいた時には時陰の周囲は髪の刃に囲まれていた。


「まだまだ垂水の刃はあるからね。さっきのだけで終わったと思ってない?お姉さん」


冷静に言う垂水の声はドスの聞いた声色に変わっていた。


「お姉さんの銃は柄を叩いた数につき1回の衝撃波でしょ?今、お姉さんは1回しか叩いてないからこれは防げないっしょ?」


「…気づいたのなら、何故さっき直ぐにそれをしなかったのですか…?」


「お姉さんの擬似能力を見極めるため。垂水達第4は戦闘が役割だからね、こういうのは癖でしちゃうんだにゃ」


(まずい…調子に乗っちゃった…自分が少しでも戦えるって思ったけど、この人たちは【No Trace】…私達よりも異能犯罪者と対峙した回数は明らかに上…戦いの仕方は私なんかが太刀打ちできるレベルじゃないよね)


時陰はゆっくりと銃を下ろした。


全てを諦めた様に…

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