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異能対策室〜王来王家燕〜  作者: イクサ


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40話【第4小隊と第7小隊】



「佐田原王芭…貴方が何のようですか」


佐田原王芭。

榊昴の一件の時に出会した男。

【No Trace】第4小隊の隊長…

突然のその男の登場により、燕達は一斉に警戒した。


「そりゃこっちのセリフだ。お前らこそうちにちょっかいかけて何のつもりだ?」


「乕若深雪さん…の事ですね?彼女は当初は重要参考人として追っていました」


燕は佐田原の圧に呑まれながらも冷静さを振り絞りながら答えた。


「当初は?」


「はい。ですが今は彼女を追うよりも先にしなければいけない事があります。…それは乕若深雪さんへの誤解の解消にも繋がることです」


「そうか。だがそんな誤解を解く必要はもうねえ。お前らも乕若を追ってる狐面の奴も俺達が叩き潰すからな」


佐田原はコートを脱いだ。

舞う様に飛び、ゆらゆらと地面に落ちていった。

そのコートの下には灰色に変色した異形な両腕をボクシングのような体勢でゆっくりと構えた。


「班長。先に行ってくださいっす。この人は俺が相手するんで」


神室が燕達の前に立ち、佐田原をジっと視る。


「神室くん…」


「一ノ瀬さんの所早く行った方がいいっすから…この人1人に全員で掛かる必要もないっす」


「…俺1人にか。だとよ?どうする?」


神室の言葉を受け、佐田原は自分の背後に声を掛けた。


そこには息を切らしながら不規則なリズムで走ってくる群青色のツインテールをした女性——“垂水怠美”が居た。


「ハァ…ハァ…な、何が…?てか、隊長早いよ〜…垂水は走るの苦手なんだから置いてかないでほしいのににゃ〜」


「お前はもっと体力つけろ」


「…2人っすか。けど変わらないっすね。行ってください班長」


そう言った神室の隣に影が立つ。


時陰が神室の隣に立っていた。


「時陰さん?何してんすか?!」


思わず神室は声を荒げていた。


「言ってください!班長!」


時陰は神室の言葉を無視しながら言った。


「時陰さんも行くっすよ!相手は対異能者用組織の異能者っす…!異能者とやり合った経験がそんなに無い時陰さんじゃ危ね——」


「私も異能対策室なんです!もう守られてばっかの世間知らずのOLは終わりです…!」


声を荒げた時陰に神室は思わず息を呑んだ。


「時陰さん…分かったわ。ここは2人に任せる」


燕達は2人の決意を汲み取った。

2人を信じ、2人に任せ、

その場から去る様に走り出した。


だが佐田原と垂水はと言うと、追うことはなく、ただ目線だけが燕達を追っていた。


「…追わないんすね」


「あぁ。追う必要がないからな」


「どういう意味っすか…」


「別に何でもいいだろ?そんなのは…さ、そろそろ仕事の時間だ」


「………」


「お前も格闘家かなんかなんだろ?せいぜい楽しませてくれよ?」


「…ただの戦闘狂ってことっすかね…」


拳を扱う者たちの視線がぶつかり弾け合う。

まるで火花が散る様に。



「お姉さんさぁ、手、震えてるよ?だいじょぶそ?」


垂水はだらっとした格好で震える時陰についつい疑問を投げかけた。


垂水の指摘は最もだった。

まともに戦う事がなかった時陰の銃を持つ手がカタカタと震えていた。

垂水の指摘に何か反論することもなく、時陰はただただ歯を食いしばるしか出来なかった。


「垂水さんはお姉さんみたいな人と戦いたくはないんだけどにゃ〜…ま、仕方ないか。【No Trace】の人達、お姉さん達に痛い目にあってもらいたいらしいし」


垂水のダウナーな表情ながら常にニコやかな顔が不気味に見える。

時陰は少し後退りのような動きまでしていた。

距離を測ったのではない。

戦いを間近にし、恐怖によって脚が竦んだからだ。


「ありゃ?怖いかにゃ?…安心してよ。お姉さんのことは殺せないでおくから」


垂水の言葉に時陰の顳顬こめかみから流れる水滴が地面へと零れ落ちた…




神室と時陰に背を押される形で、燕達は先へ進んだ。

一ノ瀬の行方を追う――ただそれだけ。


辺りの建物は静かだった。

近くで何かが起きてるのか…

近くに何かが居るのか…

巡る思考を他所に、自分達の必死に走る足音と息を吐く音だけが耳には残っていた。


だがそいつら突然現れた。

通路の中央に、男女が2人。

立っている。待っている。

通すつもりはない——ただそれだけは、はっきりしていた。


近づくほどに、相手の輪郭が割れていく。

着物姿の女と眼鏡をかけたスーツの男。


2人に接近して、いよいよ燕達は足を止めた。


「あら?乕若ちゃんこの辺にいるって言ってたのに全然違うじゃない」


着物姿の女が隣の眼鏡を掛けたスーツ姿の男に言った。


「”あの人”俺達にちょっと嘘言いましたね…これじゃ門番じゃないですか…ハァ…」


「…ったく、今度は誰なんだ?」


流石に竜崎もイラついた様に2人に聞いた。


「それにこの人達がいるって事は、佐田原さん…あの人、手を抜きましたね?全く遊んでるんですかね」


竜崎の問いも無視で男は喋り続ける。


「仕方ないわね。アタイ達が人肌脱ごうかしら」


「珍しいセリフを言いますね”宮代”隊長。俺1人でもいいんですけどね」


「貴女達は何者ですか…佐田原と言ってましたね?貴女達も【No Trace】…ということでしょうか?」


燕達は再び警戒した。


「よく分かってるじゃないの!…そうよ。警察庁対異能排除特殊異能部隊【No Trace】第7小隊隊長の宮代葛の葉」


「同じく第7小隊副隊長をしています。十倉極楽です」


「また【No Trace】か…」


竜崎はいい加減厄介だと言いたげな様子でそう吐露した。


「改めて思うけど一ノ瀬班長…とんでも無いのに絡んでくれましたね」


来栖がぼそっと言葉を溢した。


「私達は貴女達と争う気はありません!」


「えぇ。アタイ達も別に争う気はないわ」


燕の声を大にして言ったその言葉に意外にも素直に返した宮代に一同は少し驚いた。


「え?なら何故!?」


「争う、争わない。そんな次元の話じゃないんですよ」


「どういうことだ」


「異能対策室と【No Trace】…同じ異能犯罪に取り組む2つの組織の面々が殺り合ってしまった…警察という組織である以上それはタブーです」


「それは誤解が生んだ出来事です。だからそれを止めようと——」


「誤解だから済む話でも無いんですよ。我々【No Trace】はこの先日本に危険をもたらす組織の壊滅させるために日々動いているんです…貴方達が狙った乕若さんはその任務の中枢メンバーの1人なんですよ」


「つまりアタイ達はそれを邪魔したアンタ達にお灸を据えなきゃいけないってわけさ」


「随分と勝手な身分だな?【No Trace】ってのはそんなに偉えのか?」


「ええ。そうですよ。言ったでしょう?我々はこの先危険をもたらす組織の壊滅をしなければいけないのです。一刻も早くにね」


「アンタ達風に言うと公務執行妨害って所だね」


宮代と十倉の言葉に燕は何も言い出せなかった。

正しいと感じたからだ。

【No Trace】の実態がどうこう分かるものではないし、知り得ることでも無いが、同じ組織という事なら自分達がした行為によって起こることも理解できていた。

組織の中心人物の1人に攻撃を加えた。

自分達がしたわけでも無い、別の班の班長が独断でした事…そんな子供じみた言い訳を出す事もなく燕は理解していた。


だからこそ燕は臆せず2人に向き合った。


「ですが、大事になる前に私達は自分達への責任を取るつもりなんです!一ノ瀬篝文という方へ話を訊くために!」


「…アンタ達がその一ノ瀬という人間と話をして結果一ノ瀬と結託して乕若ちゃんや(はじめ)君に手を出さないとは限らない」


(ッ…この人見た目や話し方に反して冷静ですね…流石は隊長を務めるだけありますね)


——そう。

どれだけ理屈を並べても互いの実態を知らず、互いの思惑を知らずに居れば私達が危害を加えないとも限らない…

あくまで一ノ瀬さんに話を訊くのは九条長官襲撃の件…

それだけだと”乕若深雪は重要参考人ではない”という結論に向けることは出来ない…

乕若深雪を追わない理由にはならない…


…多分それはこの宮代って人も分かってるはず。

乕若深雪が何故川崎に居たのかそれが判明すればいいだけ…だけど事はそうもいかない。

実態が分からない組織ということはそれだけ任務が秘匿されるということ。

任務の内容を言えない以上、追ってくる人間達が居るなら追わせないようにする…組織の自然な発想ね。


「ごちゃごちゃ考えてんな?班長」


「竜崎さん…!」


「ここであーだこーだ考えてるぐらいなら、相手の土俵に乗るのも一つだろ」


竜崎は腰に提げた日本刀に手を掛けながら燕の前に立つ。


「俺達だって事件に向き合ってここに居んだ。相手の立場がどうとか、相手の組織の邪魔したとかそんなん関係ねぇ。俺からすりゃあんた達の方こそ邪魔してんだって言えんだわ」


「紫苑も同感。…戦争が起きて世界が変わったっていうのに未だに警察同士でそんなくだらない足の引っ張り合いしてる。ウンザリね」


竜崎の隣に立った村崎も狙撃銃を構えた。


「村崎さんも…」


「班長と来栖はさっさと先に行け…さっきのあいつらの話を察するに一ノ瀬はこの先に居そうだしな」


「…分かりました。ここは2人にお任せします」


燕は振り返る事もせず走り出す。


「さすがに俺は佐田原さんとは違うんで、行かせませんよ!!」


十倉は勢いよく燕と来栖に向かって飛び出す。


が、すぐに体を逸らし、追うのをやめた。


十倉の視線は村崎の方へと向いていた。


「…このまま動いてたら撃たれてましたね…」


村崎は無言で狙撃銃のスコープを覗いていた。

確実に当てる。そんな意思が銃口の先から十倉へと抜けていた。


「アンタ…アタイ達と戦った事後悔するわよ?」


「どうだかな?俺はあんたが上にこう報告してると思うぜ?異能対策室は【No Trace】よりも優れた警察組織だったってな?」


「あら、面白いセリフね。是非言ってみたいわ」


そう言った宮代の周囲は黒く凍てついたのであった。





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