27話【足りないもの】
異能対策室の会議室。
昼下がりの陽がブラインドの隙間から斜めに差し込み、机の上に幾筋もの光の帯を落としていた。
比嘉の向かい側に座る阿比留がノートパソコンをカタカタといじった後、比嘉に画面を向けた。
「こ、これ…に、2ヶ月ほど前にある雑居ビルの監視カメラのえ、映像なんですけど観てください」
その画面には榊昴らしき男と白いフードを被った男が話している様な映像だった。
「誰だこいつは」
「さ、さぁ…そ、そこまでは分からなかったんですが、ど、どうも真能連盟とは関係がない人間…っぽ、ぽいんですよね」
阿比留の吃りながらも自信のある口調は更に続いた。
「し、真能連盟は全員が同じ黒いローブを羽織っているんです」
「それがなんだっていうんだ?」
「い、いいですか?宗教において同じ服装の統一は、な、仲間の証。く、黒いローブは真能連盟の証なんです。た、ただこの男は違う…もしかしたら真能連盟の裏でつ、繋がってる奴かも…!」
「服装だけでそれは決めつけじゃないか?」
比嘉はそう言うものの画面をしっかり観察する。
隅から隅まで目を通し、その都度目を細めたり、首を傾げたりなどの動作をしていた。
そしてじっくりと画面を観た後、比嘉は「この白フードを探っとけ」と命令した。
比嘉は言い終わり、会議室を出ようとしたがふと足を止めて言った。
「そういや、”カルペ・ディエム”の方はどうなってる?」
「し、調べてますよ。た、ただ目ぼしい情報は何一つって感じです」
「そうか、白フードと並行して”カルペ・ディエム”の方も引き続き頼んだ」
「りょ、了解」
比嘉が会議室を後にし、静けさだけのその部屋で阿比留も自分の専用室に戻ろうとノートパソコンを閉めようとした時、白フードの者に主眼を置いた。
阿比留の心の中では一つの可能性が過っていた。
だが、「き、気のせい気のせい」と自分に言い聞かせ、会議室を後にしたのであった。
──同じ日の午後。
今にも雨の降りそうな曇り空の下で王来王家燕は、イノベーション事務局の本庁舎を一人で訪れていた。
理由は単純明快。
事件の顛末を伝えるため。
ただそれだけだった。
本庁舎に脚を踏み入れたその隣から聞き覚えのある声が聞こえた。
「王来王家さん…!」
財前都姫が元気に早歩きで駆けてくる。
燕は駆け寄ってくる財前に対し、以前よりは表情が少し明るく見えたその反面、未だ曇った眼をしている様にも感じた。
「来るなら言ってくださいよ!」
「ごめん、たまたま時間が出来たからさ」
そのまま燕は財前に事の顛末を伝えた。
榊昴を身柄を確保することが出来なかった事。
その後の榊昴の行方が分からなくなった事。
榊昴の用心棒に釈迦堂罪武が擬似能力を持って対峙してきた事。
【No Trace】と出逢った事。
そして榊昴の捜索が打ち切られて事。
長い話に財前は一言では言えない様な複雑な表情をしていた。
だが、全て聞き終えた後に財前から出た言葉は「ありがとうございます」だった。
「全部知れて良かったです」
「…榊の件が事実上終わっても、まだ安心は出来ないわ。真能連盟は榊だけじゃないの」
「はい、分かってます。なので私も次は襲撃されても撃退出来るように戦うつもりです」
財前は腕をガッツポーズしながら言った。
そんな財前に燕は止めなとだけ言った。
それに対して財前の笑いは以前とは違いいつもの明るいそんな声色だった。
ここに居る2人は紛れもなくこの瞬間だけ元上司部下だけの関係じゃない、仲の良い友人の様な少しの賑わいがあった。
「そろそろ戻ります。榊昴の件、魏藍さん達にも伝えておきます」
「ありがとう、頼むわ」
「はい!あ、それと魏藍さんからですけど、来週異能対策室の面々は全員揃ってイノベーション事務局に来い
って言ってました」
「全員ね、分かったわ」
本庁舎に戻る財前の後ろ姿を見送った燕は1人佇んでいた。
ー私は弱いー
そんな中で最初に口から出てきた言葉はそれだった。
異能犯罪者と対峙するたびに過っていた言葉。
異能対策室に所属し、異能犯罪者と対峙したその時から心の底で思っていた自分への言葉。
擬似能力を所持するより、榊昴と対峙してその言葉は重く、そして脳裏から離れる事のない自責の念へと変わっていた。
擬似能力を持とうとも、技術が無ければいけないのか。
経験がないからいけないのか。
自身に対する問いは大きく大きく膨らみ、そして出た答えは一つだった。
ー覚悟が足りないー
異能対策室への向き合い方。
異能犯罪者への向き合い方。
擬似能力への向き合い方。
それら全てにおいて覚悟と信念が足りない。
これでは守れるものも守れない。
【No Trace】
真能連盟
カルペ・ディエム
様々な組織が動いている。
覚悟がなければ…そうしなければ仲間も友達も何も守れない。
変わらなければ。
燕は心の中でそう感じ、イノベーション事務局敷地内から外に出た。
その目には決意が満ち、力強い足でその場を後にした。




