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世紀末サバイバルライフ  作者: 九路 満
本州上陸 編
53/54

3.出立(5)

「予定変更だ」

 盗聴器に耳を傾けていた無勢が、険しい表情を浮かべて言った。

「何だその顔はお前らしくもない」

 ルームミラー越しに無勢が目を合わせて答える。

「恐らく俺たちがここを出て行こうとしているのがバレた。車両保管庫からどんどん車が出ている」

「他に考えられないのか?訓練や調査の可能性はないのか?」

「まずあり得ないだろうな。車両燃料の使用に関しては基地内で厳しく管理されている。余程の事情がなければ一度に大量の車両の使用認められない」

 無勢は話ながら武器を手に取り不具合がないか確かめる。

「変更ってどうするんだ?」

「トラックには俺たちとは別れて、外周のフェンスを突き破って基地の外に出てもらう」

「なら俺たちはどうする?」

「囮として奴らの注意を惹きつけ時間を稼ぐ。ここでの最後の任務が済めば、俺たちもこことはおさらばだ。一度止まってサンドをトラックに乗せる。蓮見トラックに連絡して停車しろ」

 返事のない蓮見は渋い顔でサイドミラーを睨みつけている。「聞いてるのか蓮見」と再度無勢が声をかけてようやく反応した。

「無勢さん。恐らくですが既に見つかっています。後ろみてください」

 サイドミラーで後方を確かめると、遥か後方から数台の車両が近づくのが見えた。

「無勢。確かにこっちに近づく車両がいる。こりゃあ停車せている余裕はないぞ」

「クソッタレが。普段は何かといちゃもんつけて仕事が遅いくせに、こんな時は仕事が早い連中だ。薫ちゃん本当にすまない。この状況で助かるには先手必勝が必須だ。先にこちらから仕掛けて何とか隙を作るからタイミングをみてサンドを連れて先に脱出してくれ」

「謝るなよ。お前が悪い訳じゃないだろ無勢。それにトラックを逃す為にもまずは時間稼ぎだ。出来るな?サンド」

 サンドは少しぎこちなく微笑むと大きく頷く。それを見た後に無勢は無線に向かい話しかけた。

『こちら無勢。緊急事態発生の為プラン変更。そちらの車両は第二脱出地点に迎え。ここからは俺たちの護衛は無い。十分注意して無事に脱出してくれ』

『了解。そちらもどうか気をつけて。オーバー』

 通信を終えたトラックは速度を上げると進路を変更して俺たちの車両から離れた。無勢は車にいくつも積んだ銃器の中からアサルトライフル一丁を手に取り渡してきた。

「おいおい。こりゃあヴァルだろ」

「よく知ってるな。消音に優れてるそいつを持ってた方がいい。9ミリだから薫ちゃんが持ってる弾を使えるしな。そろそろ始めるか」

 無勢は後部の天井のルーフを開ける。2人程度なら余裕で身体を出せる大きさだ。サンドミラーで後方を確かめたが追跡車との距離はまだ数百メートルはある。

「サンド出番だ。後ろから追ってくる車両のタイヤを狙え」

 俺がそう言うとサンドは「わかった」と言い狙撃ライフルを手にしてルーフから身体を出して銃を構えた。それと同時に無勢はサンドの隣で双眼鏡を覗く。「開始の合図は頼んだぞ」声をかけると無勢は親指を立てて答えた。

「車両は現在3台確認できる。サンド先頭車両の前輪タイヤから順に撃て。発砲のタイミングは任せる。はじめろ」

 サンドは深呼吸を数回繰り返し息を止め狙いを定める。小刻みに揺れる車両から数百メートル離れるしかも走行中の車のタイヤを狙うなど恐らく俺でも難しい。そう考えていると車内に発砲音が響いた。

「初弾前輪にヒット。1台離脱確認。その調子だ」

 無勢の声が既にサンドが狙撃においては、俺を軽く凌駕していることを告げた。一定の間隔で発砲音が車内に響きその都度、無勢を告げる声が聞こえた。計4発の弾丸を全て前輪タイヤに着弾させ、サンドは追跡車両を排除した。

「敵車両ロスト」

 無勢が言うと2人はルーフから車内に身体を戻した。俺は前方や建物が並ぶ側面に注意を向けるといつもと違う違和感を覚えた。そして建物の窓からこちらに視線を向ける人影が目に入った。

「ハスミー進路変更だ」

「どうかしましたか?」

「いつもならこの通りには人が行き交っているはずなのに1人も出歩いていない。それに今、誰かが隠れてこちらを見ていた急いで道を変え——」

 車の側面に猛スピードで大型車が追突してきた。激しい衝突音と共に俺たちの車両は、コントロールを失い横転した。口うるさくシートベルトの装着を促しておいてよかった。霞む視界の中そんなどうでもいい思考が頭の中を巡る。

「全員。生きてるか?」

 安否を確かめる無勢の問いかけに俺と蓮見が答えた。しかしサンドの応答がない。衝突の衝撃で身体中痛みが走るが、堪えて後部座席を振り返とサンドを抱きしめる無勢の後ろ姿が見えた。

「2人とも大丈夫か?」

「僕は何とか」

 問いかけるとようやくサンドの声が聞こえてホッと胸を撫で下ろした。そしてサンドから離れた無勢の顔には頭部から流れ出た真っ赤な血がベッタリと付いている。

「俺も大丈夫だ。全員無事なら今すぐ車から出て戦闘準備をしろ。急げ」

 どう見ても軽傷ではないことはその場の全員が分かっていたが、無勢の真剣な眼差しを見て誰も何も言えなくなっていた。逆さまに転がった車から這い出ると先ほど俺たちの車に突っ込んできた車は、そのままの勢いで建物に衝突したのだろう。運転席と助手席部分が完全に潰れている。

「蓮見!追突してきた車両の後部を確認しろ。俺は周辺の警戒をする。薫ちゃんはサンドを守りつつ俺の背後を警戒してくれ」

 無勢の指示で蓮見は追突車両まで駆け寄り車内を確かめ「生存者なし」と叫んだ。すると無勢は「馬鹿野郎。敵に場所がバレるだろうが。叫ぶんじゃねー」と大声で叱責する。

「無勢。本当に大丈夫か?それとも緊張をほぐすためのギャグから?」

「あー。……ギャグだギャグ」

「だとしたらそんな場合じゃなさそうだぞ。南から敵車両接近だ。視認できるだけで4台」

 敵車両が猛スピードでこちらに向かっている。それを視認した無勢は、「移動する付いて来い」そう言うと時折フラつきながら建物を縫って走りその場から離れた。

 そして車両用通路から離れて古く放置されているコンテナに入ると、敵が近くにいないか息を殺して様子を伺った。恐らく先ほどの連中は斥候部隊だろう。しかし運に救われた。敵が少人数な上にそれほど追跡能力に優れていない連中だから、何とか一時的に避難できた。だがもしも襲ってきたのが手練の連中なら間違いなく俺たちの命はなかった。恐らくそのことは無勢も理解しているだろう。

 無勢は救急キットから取り出した消毒液を、頭から被ると蓮見に言って包帯を頭にグルグルと巻き付けた。

「さてさて想定してた中でも随分と嫌な方に状況が進んじまってる。どうしたもんか。……どう思う薫ちゃん」

「そうだな。正直な所ここを離れるだけなら何とかできそうだが、時間を稼がないと敵の標的がトラックに移る。それだけは何としても阻止しないとな」

「そうだな。それが1番大事だ。だから薫ちゃんはサンドと一緒に先にここから離脱してくれ」

「お前達はどうするんだ?華々しく犠牲にでもなるのか?」

 無勢はタバコを口に咥えて答える。

「俺はしぶといんだ。それにこのまま隠れてるとトラックに注意が集まる。時間がない中、打てる手はもうそう残っていない。わかるだろ?」

「わかってるからこそだ。1番全員が助かる可能性が高いのは、ここに残る4人で囮になることだ。本当はわかってるだろ無勢」

「できねーよ。それをすると薫ちゃんはもちろんのこと、サンドの命までかけることになる。それだけは」

 無勢は顔を伏せて答える。

「僕なら大丈夫だよ。僕だってナナシやカリモさんを守りたい。例え命をかけても。おじちゃんやロンゲさんに言われてそうするんじゃない。他でもない僕自身がそうしたいんだ。だからみんなで生きて帰ろうよ」

「だとよ無勢。……まぁ俺はお前がくたばっても笑っていられるが、俺の家族はそうじゃないみたいなんでな。生きて帰るしかないだろ、全員で」

「……馬鹿な上に頑固な奴らばかりだなぁ。ならいけるとこまでいくとするか。全員で帰る為に」

 無勢は咥えたタバコを2つに折るとそのまま地面に捨てた。

「無勢さんゴミを捨てないでください。いつもいつもダメですよ」

 蓮見は無勢の捨てたタバコを拾い胸ポケットにしまった。

「本当にお前は真面目だなぁ蓮見。お前もいいのか?こんな馬鹿な上官について来て」

「何を言ってるんですか。あなただからみんな着いていくんです。もちろん私も」

「そうか。……それじゃあ、行くとするか」

 無勢が立ち上がると、それに合わせて全員が立ち上がった。そしてコンテナを出る無勢の後について外へと駆け出した。

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