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世紀末サバイバルライフ  作者: 九路 満
本州上陸 編
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2.弔い(5)

 太陽が真上に昇りると着込んだ服の中に熱がこもる。スコープを覗きこむ瞳の横を額から流れた汗が伝い、ライフルを握る手にも汗が滲み出す。

『こちらロンゲ。今から建物内の捜索に入る』

『こちらおっさん。了解した。周囲を警戒する』

 二人が入った建物の周囲を見るが、やはり屋外には何の気配も見られない。その為、建物の窓に照準を合わせて屋内の確認をする。だが窓には木板らしき物が打ち付けられており建物内の様子を確認する事が出来なかった。諦めて照準を二人が入った建物に移したその時、乾いた発砲音が続けて鳴り響いた。

 慌ててスコープで建物の入り口を見張るが、一向に二人は出てこない。そこに更に銃声が続けて鳴り響く。

『こちらおっさん。どうした?無事なのか?』

 呼びかけている間も絶えず銃声が耳に届いた。スコープで集落全体を見回すと、建物から次々と住人らしき人達が手に刃物やハンマーなどの武器を持って現れた。

『おいおい、やばいぞロンゲ。建物からぞろぞろ人が出て来てるぞ。急いで戻ってこい』

『こちらロンゲ。こいつら、まともな人間じゃねぇ。迷わず撃ち殺せ』

 建物に照準を戻すとそこには襲撃者を迎撃しつつ、入り口から出てくる二人の姿が在った。刃物を振り上げて襲い掛かる襲撃者相手に、無勢は蓮見の前に立ち塞がる様に位置どりをする。そして素早い射撃で襲撃者を退けている。二人に襲い掛かる襲撃者の数は優に十人を超えている。そこに更に他の建物から出て来た者達が集い始めていた。俺はライフルの引き金に指を掛け、二人が後退する動線の邪魔になる者に照準を合わせて引き金を引いた。弾が標的の胸に着弾すると、標的は膝を地面についた。しかし、すぐに立ち上がると、二人に目掛けて走り出した。俺はすぐに照準を頭部に合わせて引き金を再度引く。弾が標的の頭部に着弾すると、地面にその内容物を撒き散らし標的は前のめりに倒れた。

『おっさん。こいつら身体に何発ぶち込んでも動きを止めないから、頭を狙え』

『早く言えってんだこの野郎。退路を確保してるがそう長くは保たないぞ。早く撤退しろ』

 次々に現れる襲撃者の対応で無勢は応答する暇もない。無勢はアサルトライフルを単発で射撃して、弾を節約している。一斉に襲い掛かる襲撃者の足を的確に勝ち抜き動きを止めてから、頭部を撃ち確実に一人ずつ片付けている。そして弾が切れると後方の蓮見が新しい弾倉を装着したアサルトライフルと入れ替えた。

『おっさん。このままじゃジリ貧だ。一度ハスミーをそっちに帰すから二人で一度離脱してくれ』

 インカム越しに聞こえる無勢の声に混じり激しい銃声が聞こえる。

『お前はどうするんだ。死ぬつもりか』

『このままじゃ二人とも針のむしろだ。なぁに、俺一人ならどうにか逃げられる。悪いがコイツの援護射撃を頼む。おいっ、ハスミー!俺が注意を集めるからお前は全速力で走れ』

 無勢の合図で全速力で走り出す蓮見。俺は有無も言う間すら与えられず無勢の指示通り蓮見の援護に回った。無勢は蓮見が走り出すのと同時に、反対方向に移動しながら発砲を続けて襲撃者達の意識を自分の方へと集めた。おかげで大半の襲撃者は狙い通り無勢に襲い掛かった。しかし、数人の襲撃者に目をつけられ蓮見の後を猛追する。

『こちらおっさん。ハスミー、聞こえるか』

『は、はい。聞こえます』

 激しい呼吸音と共に蓮見の応答が届いた。

『そのまま止まらずに俺の所まで戻ってこい。後は俺が援護してやるから、絶対に振り向くな』

 覗き込むスコープに映る蓮見の走る速度は決して遅いものではない。しかし後を追っている大柄な追跡者が見る見る内にその距離を詰める。

「何だありゃ。本当に人間か?」

 あまりの異様な光景に思わず考えが口から漏れた。追跡者に照準を合わせるが、身体の中でも小さい部位である頭部を確実に狙うのは難しい。加えて相手が高速で移動しているのなら尚のこと至難の業だ。こんな相手に確実に弾を当てることができる奴はそうは居ないだろう。そう考えるとサンドを同行させていればよかった、なんて考えが自然に頭に浮かび上がり自分を戒めた。

 照準を蓮見のすぐ後ろに迫った追跡者の足に合わせて呼吸を整える。そして呼吸を止めて引き金を引く。

 無勢の応戦する銃撃音に混じり、俺が撃った一際大きな銃声が響く。弾は狙い通り追跡者の足に着弾し、体勢を崩した追跡者は地面に転がった。本来なら即座に次弾で頭部を破壊するところだが、まだ二人、蓮見の後ろに追跡者がいる為、そちらの排除を優先する。先程と同じ様に照準を追跡者の足に合わせ引き金を引くと、二人目も同じ様に地面に倒れた。続けて残る一人の足を撃つと、追跡者は倒れることなく蓮見を追い続ける。恐らく当たりどころが良かったのだろうが、それでも大量の出血を伴っており、常人ならば悶絶してなくてはおかしい傷だ。どうもこれまでに経験した事とは違うモノを目の当たりし過ぎるあまり、心に雑念が生まれてしまっている。

 その為、一度目を閉じて精神を整え直した。そして同時に呼吸を整え追跡者の頭部に照準を合わせる。追跡者は蓮見の真後ろまで迫っており、この一発を外せば恐らく蓮見は殺される。だがそんな考えすら捨て去り唯狙う先、追跡者の頭部の動きに合わせ引き金を引いた。

 着弾した弾丸は追跡者の頭部を貫通し、辺りに血の赤を撒き散らすと、追跡者は数歩程力なく歩いて崩れ落ちた。そして走り続ける蓮見の前方、後方の安全を確かめる。前方障害無し、後方追跡者無し。止めていた息を吐き出し新鮮な空気を大きく吸い込んだ。そして急いで双眼鏡に持ち替えて反対方向に移動した無勢を探す。

 屋外を探すがなかなか見つけられない。集落内を見回してようやく無勢が居そうな場所を見つけた。襲撃者達が建物に群がっている。だが無勢の姿は確認できない。恐らく一度に襲い掛かられ難い屋内を選んだのだろうが、いかんせん内部の様子がわからない為、憶測でしか判断ができない。唯一確かなのは銃声がしている間は無勢は生きてるという事だ。その銃声も最初に比べて数が減っている。恐らくは弾を節約しているのだろう。

 そのまま監視を続けているとようやく茂みから蓮見が姿を現した。

「大丈夫か?何があったんだ」

 息を切らせて話せない蓮見は腰に手を当て呼吸を整えた。

「よく分かりません。無勢さんに部屋の外で待機する様に言われてその通り通路を警戒していたら、突然部屋から発泡しながら無勢さんが出てきて、そこからは無勢さんの指示に従うのに必死で……」

「あの状況なのに怪我せずに戻れるなんて上出来だな。ところで弾倉は無勢に渡しているのか?」

「無勢さんが盾になってくれたおかげです。持てる分だけ渡しましたがそれほどは持っていないと思います。早く助けに行かないと」

 気が早る蓮見を静止して、インカムで無勢に呼びかけるが応答がない。だが銃声が聞こえていることから生きているのはわかる。今は返答ができないだけか、あるいはインカムが壊れたか。そんな風に思考を巡らせているとインカムが反応した。

『俺はちょっと手が離せねーから、お前らは一度基地に戻れ。それでもって応援を呼んでこい』

『それまで耐えられるはずがないだろ』

『どうにかここから離脱するからちゃんと応援連れて迎えに来いよ。それとハスミーを頼んだぞ。アウト』

 その後何度呼びかけても無勢が応答することは無かった。蓮見は車にある銃弾を補充すると今にも飛び出しそうな勢いだ。

「厳しい言い方になるが、君が行っても何の役にも立たないのはわかるだろ」

「それでも……このまま放っては行けません」

「死んでしまうとしてもか?」

 蓮見は俺の目を真っ直ぐ見つめて震えながらも大きく頷いた。

「ハハハッ。いい覚悟してるよ。だけどその覚悟はまたいつか使うべき時に残しておきな。……俺が行く。ハスミーは荷物を車に乗せて車で待機してくれ。そして俺がインカムで連絡したらいつでも車を動かせるようにしといてくれ」

 今持っているライフルを蓮見が持つアサルトライフルに持ち替え、持てるだけの弾倉を腰に巻いたホルダーに差し込む。それまで背負っていた荷物は蓮見に任せて身軽になった。急いで準備を済ませたが次第に銃声の間隔が空いてきたので気が早る。双眼鏡で再度集落を確認すると、無勢が建物の二階から窓を突き破って飛び出した。辛うじて下に車が止まっていた為、ダメージは軽減されていたのだろう。即座に立ち上がり違う建物に侵入した。その後を今だに多くの襲撃者が追いかけている。双眼鏡を蓮見に渡しアサルトライフルの安全装置を外した。そして急ぎ集落に向けて出発しようとすると、蓮見に呼び止められた。

「これ、一つしかないんですが持っていってください」

 そう言って手渡してきたものをズボンのポケットに入れ俺は無勢の救出に向かった。

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