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世紀末サバイバルライフ  作者: 九路 満
本州上陸 編
39/54

1.新境地(5)

 〔あーー、あーー、こちらサンド。おっちゃん聞こえる?〕

 目的地を目前にして、少し離れた場所に立たせたサンドとインカムの感度を確かめる。

 〔聞こえてる。そっちはどうだ?〕

 〔問題ないよ〕

 感度チェックを終えてサンドは自転車を漕いで近くに戻ってきた。最初こそ不満そうにしていたが、自転車を漕ぐ姿を見る限り、まんざらでもなさそうだ。かくいう俺も十数年ぶりに跨いだ自転車での移動は案外悪くないと思えた。住む環境もあるのだろうが、歳を取ると自動車や公共機関の乗り物、または徒歩での移動ばかりで自転車に乗る機会になかなか巡り会わなかった。自転車は保管場所が必要になるのに加えて、以外とパンクなども起こして修理にも手間がかかるせいもあるだろう。

 だからなのか長く自転車とは接点のない生活が続いていた。何せ久しぶりな事もあり上手く漕げるか不安だったが、サンドの前なので平静を装って自転車に跨り、若干の緊張の元ペダルを漕いだらすんなりと走らせる事ができて肩透かしを食らった。

 昔何かで読んだが一度子供の頃に乗れたなら、長く自転車に乗っていなくても大抵の場合は難なく乗れると書いていたのを本当なのかと懐疑的に思っていたのだが、見事にそれを体験できた。

 目的地の住宅街に近づき、監視できる場所を探す。地図で確認してみると道路横の雑木林が高台になっていて、住宅街を見渡せそうなので自転車を道路側から見えない様に木の影に隠して、住宅街の方角に向かって雑木林の中を進んだ。俺が先を歩いて後ろはサンドに任せた。また、サンドには俺が良いと言うまでライフルには触れない様に言いつけている。少し歩くと木々が途切れて崖に出た。地図の通り高台になっていて、木の影にも身を隠しながら住宅街全体を監視できる好条件な場所で安心した。これで地図にまで細工をされていた日には、本当に無勢の事をどうにかしてしまうところだ。

 監視の場所も決まったので木陰で少し休憩を取ることにした。サンドは肩にかけた俺のお下がりのライフルとは別に、大きなガンケースを背中に背負ってここまで歩いた事もあり少し疲れが見える。リュックから水を二本取り出してサンドに一本投げ渡すと見事にキャッチした。

「それが無勢から貰った銃か?」

「そうだよ。重さはさほどないんだけど、大きいから運ぶのが大変だよ」

「文句は自転車を当てがった無勢に言え」

「ロンゲさんにはお世話になってるからとても言えない。でも勝負に勝った時には何かとんでもないものをねだるよ」

 汗を拭って無邪気に笑いながら渡した水を美味しそうに飲んだ。

「ああ、そうしろ。……それと話は変わるが、万が一、何かが起きてもお前は絶対に人を撃つな。標的は俺が指示を出したものだけにしろ。これは命令じゃなくて俺からの頼みだ」

 神妙な顔をして少し間が空いたがサンドは大きく二度頷いてくれた。リュックから無勢に返してもらった双眼鏡と葉山さんから借りている単眼鏡を取り出す。二つを眺めて双眼鏡をサンドに渡した。

「これをお前にやる。俺の大切なものでな、出来れば大切に使ってくれ」

「大切なのにいいの?」

「大切だからだよ。それ持ってついて来い」

 体勢を低くして崖から住宅街を目視で見回す。

「いいかサンド。いくら上手に身を隠してもレンズの反射で簡単に見つかったら元も子もない。だから監視は基本、目視でしろ。もし双眼鏡を使うにしても、対策をしっかりしてから使うんだ」

 それからサンドに監視のイロハを教えながら住宅街を探った。住宅街全体を見てみると、使われていそうな建物は密集しており、外に出て活動している人数は今確認できているので八人。その全てが三十代から五十代ほどのガラが良いとは言えない風貌の男達ばかりだ。中でも一際横柄な態度で道を闊歩し、他の男達に指示を出す脂肪が蓄えられていそうな巨漢の男が目を引いた。剃り上げたか定かではないが、髪の毛一本残っていない頭部が反射した光がレンズ越しに目を攻撃してきた。

「あれって……」

 サンドが食い入る様に巨漢の男に見入っている。

「知り合いか?」

「知り合いと言うか、知ってると言うか。多分全員、以前僕たちが逃げ出したランドにいた奴らだよ」

「見たところロクな奴らじゃなさそうだが。どうなんだ?」

「その通りだよ。それほど立場は強くない奴らだったんだけどそれでも立場が弱い僕たちに対してはやりたい放題だったからね」

 何処にでもいる弱い者には強いクソ野郎だと言う事だろう。

「なら報告はそう上がるとするか。大体奴らの規模はわかったし帰るか」

 立ち上がり帰り支度を始めると遠くから方からエンジン音が聞こえた。サンドと顔を見合わせてから音の出所を探すと道を一台のワンボックスカーが住宅街に向かって走っている。

 急いで単眼鏡で様子を確かめると、住宅街に居座る奴らも車が近づくのに気がついた様で道路に警察が逃走車をパンクさせる道具、スパイクベルトを道路に広げて待ち構えている。

「サンド、ちなみに奴らはどの程度ろくでもない奴らだ?」

「少なくともあのでかい奴は僕が知っているだけでも二人の人を殺めてる」

 その答えを聞いては選択肢は一つになってしまった。

「無勢。あいつは本当に疫病神なんじゃないのか? クソッ、サンド! インカムのスイッチ入れておけ、それと俺が良いと言うまで絶対に撃つなよ」

「何処行くんだよおっちゃん」

「助けに行くしかないだろ。それより絶対に撃つなよ」

「わかったよ」

 武器以外の荷物をサンドの側に残して崖に沿って降りれる場所を探しながら走った。少し傾斜が緩い場所を見つけて滑落に注意しながら崖下に降りた。

 降りた場所は住宅街の外れで周囲に警戒しながら道路まで走る。

 〔おっちゃん。車がパンクして停められた〕

 インカムからサンドの慌てた声が聞こえた。

 〔奴らに襲われてるのか?〕

 〔それが、車の運転手が銃で応戦してて近づけないみたい。……いやっ、回り込んだ一人が運転席からドライバーを引き摺り出したっ。おっちゃん撃たせて!〕

 〔ダメだ!もう着くから絶対に発砲するな!〕

 道路に出る直前に肩にかけたアサルトライフルを手に持ち変えた。そして前方に向かい銃を構えて道に出た。道路では確かに奴らが地面に倒れた人を取り囲んで力の限り、手に持った棍棒を振り下ろしており、辺りの地面に血が飛び散っている。アサルトライフルの銃口を空に向けて数発発泡して奴らの注目を集めてから銃口を奴等の方に向けた。

「手を挙げて、その人から離れろ」

 奴らは困惑した表情を浮かべながらも倒れている人から後退りする様に離れた。しかしただ一人、巨漢の男だけは手も上げずに俺に向かいゆっくりと歩いてきた。

「誰だお前。そんなオモチャで何しようってんーー」

 この手の手合いには言葉が通じないのは今までの人生で経験済みなので有無を言わさず片膝を撃ち抜くと喋るのをやめて地べたを転がり回り、ひたすら豚の様に泣いている。それを見た他の者達は先程までの半信半疑な態度から銃が本物であることが分かり恐怖に怯えて、更に俺と倒れた人から距離を取った。

 周囲に注意を払いながら倒れた人の元に向かい様子を見ると微かながらに息はしているが見るからに危険な状態だ。

「お前達、全員動くなよ。これを見ろ」

 銃から手を離し、俺と奴らの間の地面を指差して注目を集めてサンドに命令した。

 〔撃てっ〕

 合図と共に銃声が響き指差した地面に着弾した。

「動いたら撃つ。俺たちの姿が見えなくなるまでそのまま動くな」

 気を失って動けない運転手をレンジャーロールで肩に担ぎ上げ移動を開始した。去り際に車の中を覗くと震えながら頭を抱える女の姿があった。

 〔車内にもう一人いる。もし動く奴がいれば足を撃て〕

 窓をノックすると恐る恐る女は顔を上げてこちらを伺った。

「時間がない。最低限の必要なものだけ持って一緒に来い」

 女は震えながら小刻みに頷きリュックを一つ背負い降りてきた。車から降りた女の年齢は恐らく二十歳前後。可愛らしい顔立ち、そして女性らしい体つきに加えてそれを強調するような服装が目についた。離れて見ている奴らも車から降りた彼女を見るや否や顔を前に乗り出すほどだ。奴らが変な気を起こす前に去る必要が出たので、小走りでその場から離れた。

 〔奴らは動いてないか?〕

 〔今の所は大丈夫。……運転手の人は?〕

 更に弱まった呼吸を感じてはいるが変な責任を感じそうでサンドには言えない。

 〔とりあえず大丈夫だ。お前は奴らの監視に集中しろ〕

 〔……了解〕

 肩には瀕死の男が一人、横には場違いな服装の女が一人。そして向かう先には傷心のサンドが待っている。それを考えただけでも頭が痛くなった。

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