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世紀末サバイバルライフ  作者: 九路 満
本州上陸 編
36/54

1.新境地(2)

 空になった二つのグラスに無勢がウイスキーを追加で注ぎ、隣の部屋に置かれた大きなテーブルの前に案内された。テーブルの上には幾つも地図が広がられておりおびただしい書き込みが地図の至る所に書かれている。

「これは?」

「宝の地図だ。……なんてな、基地の周辺地域の地図だ」

 すぐに撤回するぐらいのギャグなら言わなければいいのだが、どうも無勢と言う男は真面目な話が苦手なように感じられる。地図に書き込まれたメモは主に住宅街や繁華街など人が近寄りそうな場所を中心に書かれている。地図を見るに基地から半径数十キロの探索は終わっていそうだが、無勢が出した地図の一箇所、指差した小さな住宅街には何のメモ書きもされていなかった。

「ここか?」

 無勢はウイスキーを飲み何度か小刻みに頷いた。

「それで、なにが問題で俺にお役目が回って来たんだ?」

「……最近現れた集団がその住宅街を中心に生活をしている」

「集団って。まさか奴らの仲間か?」

「いや、遠距離から確認しただけだが、恐らく日本人の生存者達だ」

「よくわからないな。なら普通に接触すればいいだろ?何が問題なんだ」

 背中を向けた無勢の肩が妙に震えている。様子を伺うと急に大声で笑い出した。

「悪い悪い。一般人のお前にいきなり危険な事をさせる訳がないだろ?お前には見つからない様に住人の人数確認と様子を探りに行ってもらいたいだけだ」

 この野郎。

「お前……。その性格直さないとその内、痛い目に遭うぞ」

「だから悪かったって。それに本当に危険じゃないとも言い切れないんだ。何せ人手不足が酷くてな、ロクに調査が出来ていないんだ。だから今回は確認だけでいい。それに、上官が是非手を貸して欲しいって言ったのは本当だぞ」

「ったく。わかったよ、俺にできる事なら手伝うよ。……ところで他の部隊員を全く見かけないが出掛けてるのか?」

 新しく日本地図を手にした無勢がテーブルの上にそれを広げた。これにもまた地図の本州北部の都市部を中心に書き込みがされていた。

「俺が所属する特殊部隊。通称【ツチノコ】は俺を入れて総勢三十人の小さな部隊だ。今は数人に分かれた班を編成して別々の地域の捜索に出ている」

「……なんだツチノコって?」

「さぁな。俺が入る前からずっとこの部隊名だからな。隊長に会ったら聞いてみろ」

 何故こうもネイミングセンスが壊滅的な奴が多いのか。生き物をモチーフにするならもっと山猫部隊だとか、雪豹部隊だとかあるだろうに、なぜツチノコなのか理解に苦しんだ。

「……俺は部隊員にはならないからな」

「何言ってやがる。俺らは厳しい訓練を受けて隊員になったんだ。そう簡単に入れると思うなよ」

 ほっと胸を撫で下ろすのを無勢が物言いたげな目で見ているが、そこは触れずに地図に目を落とした。

「だいぶ広く捜索しているんだな。何か発見はあったのか?」

「本来は部外者には言えないんだが。……まぁお前には手を貸してもらうし、何よりまだたんまりと恩もあるから教えてやるか」

「恩は十分返してもらったからチャラだ。だが情報はくれ」

 無勢は地図の中に書き込んでいる丸印、東北地方最南端のとある場所を指差した。

「今、部隊は奴らの情報収集に注力している最中でな。この印の場所に奴らが集まって同じ様な事をしているらしい」

 会話をしながら無勢が胸ポケットからタバコを出して口に咥えると、火をつけようとしたので、その手を止めて首を横に振ると言わんとする事を理解した無勢はタバコを元に戻したので話を続けた。

「なら何かしらの行動を起こすのか?」

「いや、今のところは監視だけだ。その後のことは、この基地のトップが決めるだろうが、今の所は不明だ。また何かわかればお前には教えてやるよ薫ちゃん」

「薫ちゃんはやめろ。……情報は助かる。それと住人の調査の件、期限はいつまでだ?」

「予定では五日後に上司である隊長の班が帰ってくる。出来ればその時、顔合わせと一緒に報告も上げてくれ。だが、無理はしなくていいからな」

 それまで柔和な表情で話していた無勢が最後の言葉の時には真剣な表情に変わった。表情がコロコロ変わり、なかなか本心が見えない不思議な男だ。だが短い付き合いながらもこれまでの経緯含めて、一定の信用は出来る男だと思っている。

「わかってる。お互いにな」

 無勢は微笑むと双眼鏡とサプレッサー付きハンドガン一丁を先程の部屋から待って来て机の上に置いた。

「約束通り双眼鏡は返すぞ。それとこのハンドガンは支給品だ」

「覚えてたのか、ありがとう。それとホルスターはないのか?出来れば右利き用のバックサイドホルスター」

「お前には遠慮ってもんがないのか。……そこの棚に入ってるのから好き物を持っていけ」

 教えられた棚から良さげなホルスターを探して右後ろの腰にホルスターを付けた。ホルスターにハンドガンを入れて、抜いては構えを何度か繰り返し問題が無いのを確認してハンドガンをホルスターに戻した。

「……お前本当に一般人なのか?今渡したばかりなのに、ハンドガンの扱いが自然すぎるんだよ」

「趣味がサバイバルゲームだからな」

「よく言うな。その内しっかりと話聞かせろよ。それとそのSFP9の装弾数だがーー」

「十七発だろ?それと俺の話は、まぁ、追々な」

 そう言うと無勢は、喉まで出ていたモノを飲み込みため息を吐いた。用も済み帰宅する為に最初の部屋に戻ったが、再開してからずっと言えていなかった話をした。

「俺が居ない間、あいつ達に目をかけてくれてたんだろ?……面倒かけたな」

「あぁ?目なんてかけちゃいなかったぞ。まぁ全員よく働くからこっちは随分助かってるがな」

 無勢は窓際に向かい窓を開けると胸ポケットから出したタバコに、火を着けて深く吸い込み煙を外に吐いた。

「……なら良かったよ。特にサンドはお前に懐いているし面倒じゃなきゃたまに相手してやってくれ」

「いいのか?お前の弟分じゃないのか?」

「だからだよ。しっかり鍛えてやってくれ」

「わかった。……あぁ、それと調査に出る前に寄ってくれ、歩いて行くには遠いから乗り物を用意してやる」

 俺が小刻みに頷いて手で帰宅の挨拶をすると、無勢も笑って手をヒラヒラと振った。そして俺はその場をあとにした。帰り際に通った建物の一階では変わらず多くの人達が慌ただしく動き回っていた。そんな中を淡々と歩く自分に少し後ろめたさも感じたが何が出来るわけでもない為そのまま外に出て住まいに歩いて向かった。

 ここに来てまだほんの数日だが既に人に対しての疲れが出そうだ。別に誰かに何かをされた訳でもないのだが、そもそもの性格に加えて長らく大勢の人と接する機会が無かったことが、苦手意識により拍車をかけている。だが、サンドやナナシ、カリモさんやマルにとってはこの環境の方が健全だろう。何故なら人間はそもそもが集団で行動をする生き物なのだから、そう考えると俺はイレギュラーな個体、失敗作なのではと不安になる。

「おじちゃん!」

 声に釣られて振り返るとナナシが駆け寄り抱きついて来た。その後ろからマルとカリモさんが続いて駆けて来た。

「薫君、用は終わったの?」

 息を切らしながらカリモさんが話しかけてきたので、抱きついているナナシの頭を一撫でしながらカリモさんに答えた。

「ええ、もう終わりましたよ。二人も農園の仕事は終わりですか?」

「そうなのよ、今日は人手が多かったから随分早く終われたわ」

 ナナシが手を握りしめてグイグイ引っ張るので目を向けると満面の笑みで嬉しそうに口を開いた。

「みんなで一緒に帰ろ。おじちゃん」

 俺はもう一度ナナシの頭を一撫でしてから答えた。

「帰ろうか」

 二人の話によるとサンドもまもなく基地に戻る時間だと言うので、全員で車両置き場へ歩いた。そして車両置き場で少し待っていると入出ゲートから入ってきた車両の助手席から顔を出して手を振るサンドの姿が見えるとナナシがそれに応えて大きく手を振りかえした。

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