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世紀末サバイバルライフ  作者: 九路 満
本州上陸 編
35/54

1.新境地(1)

 朝起きると布団の右側にナナシが潜り込んでいる。みんなと合流した日からなので、これでニ日連続だ。そして左側にはマルが潜り込んでいる。これもまたニ日連続だ。夜な夜な潜り込んでいるので、夜更かしはダメだと説教の一つもしたい所だが、合流初日の号泣からの密着具合に比べれば幾分かマシになっているので少し様子を見ることにした。

 二人を起こさない様にそっとベッドから降りてリビングに向かった。マルを入れた俺たち五人で一つの住宅を当てがわれているが、それぞれに個室もあり、ガスもある。水は山の水源から引っ張っていて、限度こそあるがある程度は自由に使用を認められている。さらには基地には独自の発電システムまで完備されていてるおかげで電気のある生活ができ、食料は缶詰は勿論、自作の農園で育った野菜に果物。挙げ句の果てには何処から連れてきたのか牛、豚、鶏が揃っていて文句のつけようも無い。基地には総勢約千人の生存者が集まって生活をしており、その多くは軍人とその家族だ。

 無勢の計らいか、そうで無いかは分からないがここを仕切っている軍人の彼らと比べても遜色ない生活を俺たちも送ることができている。

 二階の自室から一階のリビングに降りて誰もいないリビングで日課の柔軟体操をする。それが終わると水道からヤカンに水を注いでキッチンのコンロで沸騰させる。以前までの当たり前を今改めて経験するとこれまでの生活のせいでイヤに感動してしまう。次に自分で持ち込んだコーヒー豆を挽く。別段自分で挽いた物が一番なんてこだわりは無いがそれでも豆を挽いた時のこの香りはとても良いものだ。豆を挽き終わるタイミングでカリモさんがリビングに現れた。

「おはよう薫君。いい匂いね」

「おはようございますカリモさん。やっぱり名前はやめておっさんにしませんか?何だか身体がむず痒くなって……」

「あら、なら花梨君にする?」

「いや、……薫でいいです」

 鼻歌混じりで朝食の用意を始めたカリモさんにそれ以上何も言えずに諦めた。次にサンドが大きな欠伸をしながら部屋に入ってきた。

「おはようおっちゃん」

「ああ、おはよう。大きな欠伸だが夜更かしでもしたのか?」

「うん。少し装備品の手入れをしておきたくてついね」

「いつも言ってーー」

 遮る様にサンドが早口で割って入る。

「早寝早起き。だよね。わかってるよ」

 微笑むサンドをみて少し口うるさい自分を戒めた。そうこうしている内にカリモさんが作ってくれた朝食がテーブルに並んだので俺は淹れたてのコーヒーを三人分カップに注ぎ入れた。カリモさんには砂糖少々、サンドには砂糖多め。ナナシには採れたてのミルクを貰ったので煮沸してコップに注いだ。カリモさんが一階の階段から叫んで呼ぶと眠たそうに目を擦ったナナシと大きな欠伸をするマルがリビングに入ってきた。

「おはよう。みんな」

 ナナシの朝の挨拶に三人とも挨拶を返す。しっかりとした口調で言葉を話せるナナシを見た時には驚いたと同時に嬉しかった。全員が食卓に着くと何故かみんなが俺を見るので仕方なく俺が食事の挨拶をした。

「えーーっと。……いただきます」

 それを聞くとようやくみんなも食事の挨拶を口にして食べ始める。まる昭和のお父さんにでもなった気分になる。食事を進めていると思い出した様にサンドが話を始めた。

「そうだ!昨日言われていたんだけど、ロンゲさんが今日顔出してくれって言ってたよ」

「わかった。サンドは今日もパトロールに付いていくのか?」

「そうだよ。カリモさんとナナシは農園の手伝いだったよね?」

 口に食べ物が詰まって話せないカリモさんに代わってナナシが答える。

「うん。今日は玉ねぎの収穫するんだ」

 楽しそうに話すナナシの様子から無理強いされてはいなさそうでひん安心したものだ。まだここに来て間もない事もあり無勢からはこの二日休めと言われた事もありのんびりさせてもらった。おかげで久しぶりにゆっくりとさせてもらえた。

 食事を終えてそれぞれが家を出た。マルもナナシの付き添いで家にはおらず一人になってしまった。自室に戻り持ち込んだ装備品を身につけて外出の準備を進める。窓から見える景色はフェンスに囲まれた広大な基地内。その外には森林が広がっている。

 腰のホルダーにナタとカランビットナイフを。肩にはアサルトライフルを担いで家を出た。外に出ると似た様な住宅がいくつも並んでいて、住人達の住まいになっている。しかし、今の時間にはどの家も人気はなく全員が生活の為に何かしらの仕事をしてこの場所は回っているそうだ。それを踏まえれば、無勢に呼び出されたのは俺にも仕事が振られると言うことだろう。

 住宅地を抜けて無勢が普段居る、この基地の司令本部がある二階建ての建物まで歩いて向かう。道中訓練中であろう迷彩服を着た集団が走っているのが目につく。基地内では車両の類が動いていないのを見ると燃料の節約にも勤しんでいるようだ。まさか太陽の下をこんな無防備に歩ける日がまた来るとは彼らには感謝だ。だが果たしてこのまま平穏な日が続くのだろうかと言う疑問も同時に頭の隅にはあった。大抵の場合、ある程度の集団になれば何かしらの問題と言うのは起こるものだからだ。別にそれはこの場所に限ったことではなく、良くも悪くも、それが人間と言う生物だからだ。

 ようやく建物に着いて中に入ると忙しなく動き回る人で一杯だった。その中の一人を捕まえて無勢の居処を聞くと二階の一室だと説明されて向かった。建物の中には軍服を着た人から白衣を着た研究者らしき人、私服らしき物を着た人など様々な人がいる。階段を上がり説明された部屋に着きドアをノックすると、中から入るように指示する声が聞こえたのでドアを開けると、幾つも机が並べられているが部屋には無勢が一人で机に向かって座っているだけだった。

「おーー、来たか薫ちゃん」

「薫ちゃん言うな。それで用ってのは?」

 椅子から立ち上がった無勢は机の引き出しからウイスキーとグラスを二つ出した。

「そんなに急ぎなさんな。とりあえず一杯付き合え」

 そう言ってウイスキーを注いだグラスを一つ手渡してきた。

「一杯付き合うのはいいが、お前仕事中じゃないのか?」

「馬鹿野郎。そんな事言い出したらこの基地に居る間はいつだって俺は仕事中なんだよ」

 笑ってそう言うと無勢は持ったグラスを俺が持つグラスに当て、乾杯すると一口飲んだ。

「随分疲れてるな無勢。あの頃より少し痩せたんじゃないか」

「そりゃあ、休みなく働けば流石に……な。お前こそ体調はどうなんだ薫ちゃんよ」

「ゆっくり休ませて貰ったおかげで元気いっぱいだよ。少なくともお前よりはな」

 渡されたウイスキーを一口飲んだが、味は中々悪くない。恐らく結構な高級品だろう、こんな世界になってからの方が圧倒的に酒は良い物を飲んでいるのだから悲しくもなる。無勢は残りのウイスキーを一息に飲み干した。

「……それで用なんだが……」

 何度もため息を繰り返し言いにくそうに顔をしかめる無勢。

「お前にはみんなの面倒を見てもらった借りがある。だからお前の頼みなら断らないよ」

 そう言うとより無勢の顔は更に曇ったがようやく話を始めた。

「悪い。何とかしようとしたんだがどうにもならなかった。お前に探索してもらいたい場所があるんだ」

「探索……ね。俺はお前さんらと違ってただの一般人だぞ?その俺に頼むか?普通」

「俺もそう言った。それで通そうとしたんだが。だが、……悪い、部隊内には以前お前に会った時の話をしてしまっていたんだ。それで俺の上官がえらくお前を気に入ってな。お前にやらせたいと……」

「要は部外者の俺なら痛手はないからダメ元でも良いからやらせようってとこだな」

「……そんな所だ。すまん」

 別におかしな話ではない、今の彼らの戦力は数少ない限られた兵だ。それを失うリスクが高いところに赴かせるぐらいなら、まずは数に入っていない駒を使うのは最もな手だ。

「お前が謝る事じゃないだろ。それに俺の仲間も今はここで世話になっているんだ、他人事じゃないさ。それじゃあ早速、話を聞かせてくれるか?」

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