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世紀末サバイバルライフ  作者: 九路 満
北の地 編
31/54

5.惜別(3)

 爆発音が響き黒煙が立ち昇り、町と街を繋ぐ旧道が通る山間では複数の車両のエンジン音がこだまして聞こえた。佐志から奪ったレシーバーのスイッチを入れると英語での通信がひっきりなしに飛び交っている。この時ほど勉強を疎かにして後悔した事はなかった。全くもって何を話しているかわからない。辛うじて聞き取れる単語で判断せざるを得ない。何やら頻繁にゴー、ゴーと叫んでいるのは恐らく奴らが来るってことで間違いはなさそうだ。なにせ多くのエンジン音がどんどん町に近づいているからだ。奴らの姿が見える前に急いで、旧道を挟む山林を駆け上がり、道路を見下ろせる場所まで移動し息を潜めて単眼鏡を覗き奴らが現れるのを待った。

 数分も待つと奴らの乗った車列が二百メートルほど続く直線道路の先のカーブからゆっくりと姿を現すと低速で近づいて来るのが見え始めた。車列の前を二人乗りしたバイクが五台ほど先導している。所々でバイクの後ろに乗っている奴が降りては地雷を回収して背負ったリュックに収めていた。

 肩に掛けたアサルトライフルを手に持ち変えて奴らが近づくのを待つ。奴らの車列の先頭が訳百メートルの射程に入りゆっくりと銃を構えて安全装置を外す。そして地雷に狙いを定めて引き金に指をかけた。バイクを降りた一人がそれまでと同じように地雷の回収に駆け寄って回収しようとした時を見計らい引き金を引いた。

 銃声が山間に響きそれと同時に、カンッ。と金属を撃ち抜いた音が耳に届く。次の瞬間、地雷が爆発すると爆音が響き、周辺の砂埃が巻き上がった。地雷の回収に降りてきた者はおろか、車列の先頭に並んだ五台のバイクが爆発に巻き込まれた。それもそのはずだ、事前に地雷を幾つかまとめて袋の中に詰めて置いた物を撃って爆発させたからだ。奴らが混乱している内に次に標準を合わせる。車列先頭のトラックの運転席でフロントガラスに顔を寄せて周囲を見回す運転手に狙いを定め、間髪入れずに撃つ。

 フロントガラスを弾丸が貫通した直後に鳴り響いたトラックのクラクション音が狙いを撃ち抜いた事を知らせてくれた。次に助手席から慌てて飛び出して周囲を見回す標的をを続けて撃った。狙い通りに着弾した弾は頭を貫通してトラックの車体を赤く染めた。頭部を撃ち抜かれた標的は糸が切れた人形の様にその場に崩れ落ちた。スコープで見渡すと後続のトラックから異変を察した連中が次々に車両を降りて周囲を見回し警戒してこちらの姿を探している。奴らの内、何人かは山林に向けて無造作に発砲を始めた。木の陰に隠れて様子を見ていると数発、近くの木々に奴らが撃った銃弾が着弾した。木陰に身を隠しながらスコープを覗き狙いやすい人間から順に射撃した。数発撃つと奴らも銃撃されている方角に気づきこちらに向かって集中砲火を始めた。正確な場所の把握はされていないのか身を隠している木には数発程度の着弾で済んでいる。完全に発見される前に、少しずつ後退しながら奴らを惹きつける為に銃撃を繰り返した。奴らの車両からは見える範囲だけでも二、三十人が車両から降り、散開して俺を追い詰めようと動き出している。囲まれては数十分も待たずにやられてしまい、囮の意味がなくなってしまう為、急いで山林を抜けて住宅街へと向かった。

 こんな時ながら、日本の狭い住宅事情には助けられる。狭い土地にひっきりなしに建てられた住宅街では身を隠せる場所も豊富だ。加えてそこかしこに爆発物が置かれている。この土地では都市ガスか通っていない為、すべての家庭にプロパンガスが備え付けられているからだ。

 通りに面した一軒家にピッキングをして入り込み二階に駆け上がる。二階の窓から見下ろすと、次から次に住宅街に奴らがなだれ込んで来た。やはり奴らの動きは素人のそれではなく、統率された動きをしている。狭くあげた窓の隙間から銃口を出して奴らが固まって動く側に置かれたプロパンガスが入ったタンクを撃つと、爆発した衝撃波と共に辺りに火が広がった。この一発だけで三人仕留めた。負傷者も二人程出ているが近くを通る誰一人、助け起こそうとすらしない。負傷者の内一人は爆発により足が太もも近くで欠損して大量に出血しており、痛さにのたうち回っている。そいつの頭部に標準を合わして一発撃つとピクリともしなくなった。

 だがその銃撃で奴らの数人に居場所を見つけられ、また激しい銃撃を受けた。身体を床に伏せてホフク前進で部屋を出て別の部屋に移動して今度はガラス越しに窓からプロパンガス入りのタンクを射撃して、走って家から脱出する。物陰に隠れて様子を伺うと今出た家の中に五人の敵が入り口から中を覗いてい屋内を確認していた。俺はアサルトライフルをフルオートに切り替え狙いを定めてその五人に銃を連射した。銃弾は二人の頭部を撃ち抜き、残り三人は手足、腹部に当たり即死は免れている。これ以上の参戦は出来ないと判断して、身を隠すためその場から離れた。

 住宅の敷地内に設置された物置の陰で新しい弾倉に変えて、陰から奴らの動きを確かめる。一軒の家の玄関から鍵が掛かっていない家に一人で入っていく姿を見かけ始末する為に俺も家の中に入った。

 安全装置をかけたライフルを肩に掛けてカランビットナイフを取り出し構えて歩く。階段から降りてくる足音が聞こえたので階段の下、すぐ横で壁を背中に降りてくるのを待つ。銃の先が最初に目に入ったのでそれを片手で掴み銃口を明後日の方角に向ける。慌てる相手の体を壁に押し付けてガラ空きの首をナイフで切り裂いた。綺麗な白い壁紙の一部が噴水の様に吹き出した鮮血で真っ赤に染まる。力が抜けて目から生気が消えていく。押さえつけた手を離して玄関に身体を向けると銃口を俺に向けた奴らの一人が立っており、何度もフリーズと繰り返し叫びだした。手を挙げるフリをしてすぐ側の扉に体当たりをして中に逃げ込んだ。動き出しと同時に乱射された弾丸の一つが俺の右腕を撃ち抜いて痛みが走った。

 飛び込んだ先はリビングだった。大きな窓ガラスから光が差し込んだリビングルームでは窓から逃げるか隠れるかの選択が生まれた。玄関から先程俺の腕を撃ち抜いた相手がこちらに向かい走ってくると、銃口を部屋に入れて見もせずに銃を乱射しまくった。家具の陰に隠れていたので難は逃れたがこれだけ弾丸が飛び交うともはや助かるかどうかは運次第に思えた。敵は一人で怯えながら入ってきて右に左にお化けでも探すように部屋を見回す。俺が隠れたソファーに差し掛かり顔が他所を向いている内に立ち上がって敵の引き金に掛けた指を反対方向にへし折り折った。そして指と同じ腕を脇に挟んで関節とは逆向きに折った。泣き叫ぶ敵の首に腕を巻きつけて締め上げると失神したのでその場に捨て置いた。

 ライフルを持とうとグリップを握ると、さっき撃たれた傷から流れた血が掌まで流れて手が滑りそうになった。撃たれた場所を確認すると二の腕部分を撃たれており出血こそしているが骨には当たってなさそうだ。タオルを探して屋内を物色すると二階の一室のタンスに手ぬぐいが畳んで入れられており、それを使い傷口を強く縛った。隠れながら窓から外の様子を伺うと旧道方向からまだまだこちらに向かって人が集まってきている。俺はたまらずその場で座り込んで、深いため息を吐いた。

 体内時計では既に一時間以上は経過しているので問題が無ければそろそろみんなは隣街を抜けているはずだ。そろそろ離脱するべきか、それともまだ時間を稼ぐべきか悩ましい所だ。悩んでいるとそれまで他国の言葉ばかり流れていたリュックのレシーバーから日本語が聞こえた。

「あーー、全員無事だよ。ノック、ノック、ノック、ノック。繰り返す。全員無事だよ。ノック、ノック、ノック、ノック」

 それを聞いた瞬間、この場からの離脱が決まった。しかし、サンド達はレシーバーを持っていなかった。きっと問題が起きたに違いない。だが同時に全員無事と言うことはそれをあいつ達だけで乗り越えたのだろう。それを考えると誇らしくなった。

 あとは俺がこの状況を乗り越えるだけだが、奴らの数が想定していたより多く一筋縄ではいきそうもない。それでもやれる事をやるしか無さそうだ。

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[気になる点] 「佐志から奪ったレシーバーのスイッチを入れると英語での通信がひっきりなしに飛び交っている。この時ほど勉強を疎かにして後悔した事はなかった。全くもって何を話しているかわからない」 飛行…
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