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世紀末サバイバルライフ  作者: 九路 満
北の地 編
28/54

4.変転(6)

 この日はまた一人で外に出た。本当ならサンドを連れて街とは反対側の山に行き射撃の練習をさせるはずだったのだが。明朝に激しい爆発音が聞こえ表に出ると旧道付近から黒煙が上がっていたからだ。

 猟銃のライフルは使い方を口頭で説明してサンドに持たせている。驚いたことに、一度の説明で完璧な復唱をした。悔いがあるとすればやはり一度は射撃させておくべきだった。出来るなら命を奪うといった行為をサンドにさせたくない葛藤もありなかなかその気にならなかった自分自身のミスだ。

 俺自身も手に入れたアサルトライフルの射撃を一度もしていないためスコープの調整も出来ていない。なので長距離射撃はできず戦闘になれば中、近距離での戦いをせざるを得なくなった。

 空に立ち昇る煙の量は最初に比べればおさまってきたように見える。だが、かれこれ一時間ほど煙が上がっている。それを踏まえると恐らく何かしら炎上しているのだろう。予想される状況は脱走した誰かが運転した車が何も知らずに旧道を走って車両ごと爆破されただ。これをされてしまうと道路が使えなくなっている恐れがある。そうなればここを離れる際に奴らも使う新しい方の道路だけがこの町を出る唯一の道になってしまう。周囲を警戒して、旧道からまだ一キロほど離れた場所から山林に踏み入った。風がよく吹くこの季節は山中を移動する音を消してくれる。だが同時に誰かが近くにいても風が吹いていれば気付きにくい。その為、頻繁に首を振り周囲を確認しながら進んだ。

 黒煙を追って進み続けてようやく火の元が見つかったと思えば隣街の旧道入り口まで移動していた。木々に隠れて煙の発生源を探すと道路の真ん中で軽トラックがひっくり返り炎上している。誰かが気づかずに軽トラックで地雷を踏んだみたいだ。車の状態からドライバーが生きている可能性は低いだろう。俺としての幸いは路面のダメージがそこまでなさそうなのでまだ通行に使える事だ。それと別で気になることは街の方を見渡すがまだ奴らの誰もこの現場に到着していない。念の為他の箇所にも問題がないか確かめる為に旧道に沿って山林を町方向に進んだ。

 把握している他の地雷は爆発していなかった。確認を終えて旧道を離れようとした時に町側の旧道入り口近くの沿道で地面に座ってタバコを吸う人影が見えた。単眼鏡を取り出して確認すると病衣ではなくジャケットを羽織っているが凸凹コンビの生き残りである佐志の姿があった。佐志は道路を頻繁に確認して何かを待っている素振りをみせている。その場で五分ほど様子を見にが一向に行動する素振りすら見せないので、カランビットナイフを手に持ち、佐志の元に向かうため山林から出た。建築物がなく田畑が広がっているので、奴らが隠れている可能性はそれほど高くないだろうがそれでも警戒を強めた。俺の姿を見つけた佐志はタバコを咥えて小走りでこっちに来た。

「あんた、みんなを逃がしてくれた人だよな?よかった、仲間がいて」

 煙を吐きながら喋るので煙を吹きかけられているようで煙たい上に臭い。

「とりあえず臭いから、タバコを消せ」

 ハッとしたように佐志は片手を顔の前で立てて拝むように顔を縦に振る。謝罪しているつもりなのだろうがその軽々しい態度が嫌に神経を逆撫でされた。

「こんな所で一体なにをしてるんだ?」

「何って、逃げてきたんだよあいつらから。だがこの先の道で急に車が爆発したもんで命からがら歩いてここまで逃げてきたんだよ」

 男の服には車から這い出る際にでも付いたのか煤汚れや泥がついている。佐志は近くに置いていた汚れのない新品のリュックを背負い出発の準備を整えているように見える。

「何処かに行くのか?」

 目を点にした佐野は俺の顔を観ると次は大きく笑いだす。

「面白いねあんた。何処ってあんたに付いて行くに決まってるだろ」

「そうか、決まってるのか。所で他の人達はどうなったんだ?」

「他の人?あぁ、一緒に逃げた奴らか。捕まったよ、ぜーんいん捕まった。そうじゃなくても殺されて街の中に転がってるだろうよ」

 あっけらかんと感情を出さずに喋る佐志。

「お前はどうやって逃げきれたんだ?」

「俺か?そりゃあお前、他の馬鹿な奴らと違って賢いからに決まってるだろ。隠れるのにちょうど良さげな一軒家を見つけてな。そこで奴らの隙ができるのを待ったんだ。それでようやく今朝方一軒家に泊まっていた軽トラックを拝借して逃げたらこの有様だ」

 まるで自分を武勇でも語るように意気揚々と話す佐志。どうもこの佐志と言う男は他人を見下す傲慢さと自分を必要以上に大きく見せようとする虚栄心を隠すことが出来ない人物のようだ。

「そうか、それは大変だったな。上手く逃げれることを願ってるよ」

 佐野に背中を向けて歩き始めるとそれまでの軽薄な声色からドスの効いた声に変わった。

「おいおい、人が丁寧に接してりゃあ調子に乗りやがって。こんな状況だからこっちは一緒にいて手を貸してやるって言ってるんだ。それを無下にするつもりか?」

 にじり寄る佐志を制圧するか考えたが、それはやめておいた。

「冗談だよ。安全な場所に案内してやるから着いてこい」

 佐志の敵意に満ちた表情はしたり顔に変わった。自分の優位性を示せたと考えたのだろう、満足気に道を聞いては先を歩き出した。旧道からかれこれ十分ほど歩いた場所に団地がありその一室を予備の拠点の一つにしていて物資も多少運び込んでいた。五階建ての四階部分の一室が拠点の為、歩いても階段を登った。道中も終始止まらない軽口に嫌気がさしている。

「ここでお仲間と暮らしてるのか?」

「仲間?……いや、ここにはいないな」

「全部で何人いる?何処にいるんだ?」

「ここから少し離れた場所だ。明日この町を離れる時に紹介してやるよ」

 質問は止んだが次に一人でボソボソと呟き始めた。部屋に入り食料の缶詰と缶ビールを佐志の前に並べ好きなだけやってくれと伝えると先ほどまでと打って変わりご機嫌で晩酌を始めた。

「いやーー美味い。酒なんて久しぶりに飲んだ。お前とは仲良く出来そうだ。それで明日この町を離れるって話聞かせてくれよ」

「満足してもらえたならよかったよ。言葉の通り明日この町を出ていくんだよ生存者全員でな」

「その全員ってのは勿論俺も入れてもらえるんだよな?」

 佐志は食事の手を止めて睨むように俺を観る。

「……あんたがそれを望むならな」

「望む望む。てな訳でよろしく頼むな相棒。それで仲間は全部で何人いる?」

「俺を入れて十人だな」

「十人も?そいつは大所帯だな。どの道から行く予定だ?」

 根掘り葉掘り気になることを聞くのは性分だからなのか、機嫌良く酒を煽って他者に配慮しない佐志を観ると昔働いていた会社の上司を彷彿とさせられる。自分が困っていれば助けられるのは当たり前、他者が困っていれば知らんぷりを決め込む。いつの世にもこんな人間はいるのだと尊敬すら覚えた。

「旧道だ。新しい道は奴らがよく使うからな。話はもういいだろ、今から旧道に奴らが群がってないか、確かめておきたいんだ。そろそろ俺は行くぞ」

「なんだと、俺を置いて行くってんじゃないだろうな?」

「そのつもりならさっきほっぽり出してるだろ。明日の早朝迎えに来るから準備しておけ」

「裏切りやがったら承知しねーーからな。それと明日来る時にはまた酒を用意しておけよ」

 酔いが回り呂律が悪くなり態度もさらに大きくなった佐志は、横暴に言い放つと新しい酒を開けてまた飲みはじまた。佐志を残して部屋を出てウエストポーチから手鏡を取り出して背後を映して追跡がついていないかを確認した。追跡がないことを確認したら物陰や住宅の敷地に隠れて周囲に気を配りながら町を練り歩きサンドやナナシが隠れていたショッピングセンターに辿り着いた。入り口のそばには骨だけが残った女性が変わらずに横たわっている。そこを通り過ぎて障害物がない駐車場まで移動した。駐車場に着くと単眼鏡を使い目標物を探すと丁度いい標的を見つけた。野鳥だ、恐らく女性の肉を食べて味をしめてまた訪れたのだろう。アサルトライフルのスコープを覗いて野鳥に標準を合わせる。

 連射できるフルオートから単発射撃が出来るセミオートに切り替えて安全装置を外して構える。距離は訳百五十メートル、、深呼吸を静かに三度して大きく吸い込み少し吐き出して止めた。引き金にかけた指をゆっくりと絞った。乾いた発砲音がショッピングセンターの敷地に鳴り響き狙っていた野鳥は空を飛んでいなくなった。左に四十センチズレている。再度調整を行い最初の標的の側に落ちている空き缶を狙う。標準を合わせて同じように息を止めて引き金にかかる指を絞った。乾いた発砲音の後に缶に着弾した甲高い音が耳まで届いた。銃撃で倒れた缶をスコープ越しに確認し終わり、安全装置をかけてアサルトライフルを肩に担ぎその場を離れた。

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