表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世紀末サバイバルライフ  作者: 九路 満
北の地 編
27/54

4.変転(5)

 サンドとナナシの介抱の甲斐もあり、カリモさんの体は順調に回復している。今日持ち帰った葉山さんの家にあった家族写真をカリモさんに渡すと穏やかな表情で写真を眺めていたのが印象的だった。早々と夕食を終えて片付けると片付くとナナシはカリモさんの隣で眠りについている。やはりカリモさんがナナシを連れていたのには何か理由があったのかと思ったが、それはまた落ち着いてから聞けばいいと自分に言い聞かせた。片付けを終わらせたサンドを呼んで机に一緒に座らせる。机には冷えていない缶ビールが二本。

「それじゃあ、飲むか。誕生日おめでとう。乾杯」

「ありがとう」

 真面目なサンドは今まで酒を飲んだことがなかった。恐る恐るサンドはビールに口をつけた。苦笑いを浮かべ不味そうにしたが、続けてビールを飲んだ。

「美味くないだろ?初めは俺もそうだった。だけどいつの間にか不思議と飲めるようになってたよ」

「そうなんだ。確かに美味しくはないね。でも、約束守ってくれてありがとう」

 ビールを飲みながら優しい顔でサンドは話した。それからは平和だった頃の昔話に花を咲かせた。好きだった食べ物に服、趣味。ビールを飲んだ次には葉山さん秘蔵のウイスキーコレクションを次々に開けて夜が更けていった。

「サンド、……この町を離れないといけなくなった。悪いがお前達も一緒に来てくれるか?」

「昨日も言っただろ。みんなでやれる事をやろうよ。みんなで」

「……ありがとうな」

 酔いもまわりつい弱気になりそうになる。だけど、サンドやナナシ、マルを見ていると強い自分でいなくてはと改めて考えさせられた。

「所でお前、車は運転出来るのか?」

 東京で学生をしていたのなら運転の必要も少ないので、できない事も考えていた。

「出来るよ。僕が高校生まで住んでいた地域は田舎だったからね。高校三年生の在学中にみんな免許を取りに行ってたんだ」

 それを聞いて安心した。今の所、俺が考えている移動のプランは空路と陸路の二通りだ。空路の場合は隣街からセスナを使って行くことになり操縦者は俺しかいない。まさかこんな事であの親父に感謝する日が来るとは思いもしなかったが。もう一つの陸路なら俺とサンドの少なくとも二人が運転出来る。それに加えてもしもカリモさんの容体が急変したら対応しやすい。やはりここは陸路が一番か。

 一人物思いに耽ってしまい気がつくとサンドが机に突っ伏して眠ってしまった。このままでは風邪を引くと思い、肩にタオルケットを掛けた。そしてまた椅子に座りウイスキーを飲みながら、これからの計画を一人で練った。


 朝起きると既にカリモさんが起きていた。まだ体の傷の痛みはあるが体を起こす程度なら問題がないそうだ。熱も下がり、食欲もあると言うのでこの日の朝食はカリモさんの布団を囲むように食べることにした。食事をしながら昨日一人でまとめた今後の話をする。

「みんなに聞いてほしいんだが、実は隣街の奴らが逃亡者の捜索に力を入れている。このままだとそう遠くない内に奴らに見つかってしまうと思う。だからこの町を離れようと思ってる」

 みんなの食事の手が止まり全員が俺に注目する。最初に口を開いたのはカリモさんだ。

「私のせいでごめんなさい」

 すかさずサンドがそれを否定した。もちろん俺もそれに続いて否定をした。

「カリモさん、遅かれ早かれいつかこんな時が来るのは分かってたんです。むしろ運良く冬が訪れる前にここを離れる決断ができたんだ。もしも、雪が降り積もる冬に奴らに見つかっていたらそれこそ逃げる場所が無くて奴らに捕まっていましたよ」

 それを伝えると曇っていたカリモさんの表情が少し和らいだ。

「話は変わりますが、カリモさんは車の運転は出来ますか?」

「ええ、普通車なら問題ないと思うわ」

 これでドライバーは三人になった。やはり安全性を重視して車での脱出をプラン1にする事にした。

「行き先はあるの?」

 カリモさんが小声で俺だけに聞こえるように呟いた。俺は同じく小声で答える。

「一応はあります。ですが行ってみないとわかりません」

 カリモさんは納得したのか頷くと食事に戻った。

「サンド、悪いが今日から外の作業を手伝ってくれ」

「わかった。ナナシ、カリモさんの事頼んだよ」

 ナナシは両腕で力こぶを作って任せろと言わんばかりの態度をとった。

 食事を終えて早速、俺とサンドは町に繰り出した。町役場を出て前までメインで使っていた拠点に向かう。警戒は強めて進むが町中は静かなものだった。

 拠点につくとサンドを連れて地下に降りた。物が揃った部屋にサンドは興奮気味だ。

「おっちゃん、すごいね。一人で全部運び込んだの?DVDだってこんなに揃ってるし、棚には食料品もいっぱいだ」

「そうだ。喋ってないで運ぶんだから手伝えよ」

 主に食料品や水で期限の長い物を優先さして地下から一階に持って上がった。まだまだ運び上げなくては行けないが、地下室から台車を持って上がり一階に上げたを乗せて外に出た。

「おっちゃん、どこ行くんだい」

「ここから少し行ったところだ。ついてこい」

 サンドを連れて拠点から五分ほど歩いた先にある銀杏並木を通って大きな屋敷のガレージに着いた。ウエストポーチから取り出した鍵束からガレージの鍵を取りました開ける。広々とした駐車スペースはそれだけで今まで俺が住んだどの住宅よりも広いのが悲しいが。車庫の中には大型のバンが二台ある。無勢に出会ってからいつかこんな日が、来た時のためにと使える車を保管しておいたからだ。

 車の鍵を開けて運んできた食料品をサンドと積む。荷物はまだまだ詰めそうだ。積み終わるとまた拠点に戻り荷物を運ぶ。それをただひたすら繰り返す。始めたのは午前中からだが、作業がほぼ終わったのは午後三時を回っていた。若いサンドも流石に疲れたようなので地下室で少し休憩をしてから町役場に帰ることにした。

 俺は積みきれずに残っている物からビールを選んでクッションに腰を下ろす。サンドは階段に腰を下ろして水を飲んでいる。

「おっちゃん、タバコ吸うの?」

 階段の側に置いた物入れに貯めている貴金属とタバコを見てサンドが言う。

「いや、随分昔に辞めた」

 なら何でと言いたそうなサンドが口を開く前に自分から話した。

「その貴金属やタバコは言ってみればカネ見たいなものだ」

「お金?」

「そうだ。貴金属は紙幣が出来る前から価値を見出されていた。いつか必要になるかもと集めていたんだ。それにタバコは好きな奴は辞められないからな、時には金より価値がある」

「そんなもんなんだ。よくタバコやめられたね、健康のためにやめたの?」

 腕時計を見ると午後三時半を表示している。

「まぁ健康のため。いや、……約束、だからだな。それよりそろそろ帰るぞ。最後にもう一回運んだら最後だ、みんなが待ってる」

 飲みかけのビールを一気に飲み干して立ち上がった。帰る前に棚からフルーツ缶詰を出してリュックに詰めた。貴金属とタバコをまとめて他の荷物と一緒に最後に車に運んだ。何とか車両一台に荷物をまとめられた。屋根には予備のガソリンをポリタンクに入れて結びつけた。これでいつでも出発することができる。

「一台に荷物全部積んだけど、一台だけで行くの?」

「二台で行く予定だ。何が起こるかわからんしな」

「じゃあ俺が片方運転するの?」

「そうなるな。こんな状況だからって調子に乗らないでちゃんとシートベルトして運転しろよ」

 鍵束から荷物を乗せたいな方の車の鍵を外してサンドに渡すと、子供のように喜んでいる。それをみて本当に話を聞いているのか不安に感じた。まるで子供に対する心配に似た不安を。


 町役場に戻りいの一番にナナシを呼び寄せて、持ち帰ったフルーツ缶を手渡した。以前約束した土産を持ち帰れなかったのでその後新たに約束した土産だ。ナナシは今度は覚えていたかと言いたげに胸を張りフルーツ缶を受け取った。缶詰を掲げて踊り最後に俺に抱きついて格別な笑顔を見せてくれた。それを見ただけでも持ってきた甲斐があった。

 カリモさんも夜以外は座って過ごすまでには回復していて、多少なら歩いても問題ないとのことだ。残すはサンドにライフルの射撃を練習させるぐらいだろうか。まぁ、コツさえ掴めればサンドなら難なくこなしてしまいそうではあるのだが。ナナシがカリモさんと遊んでいるので久しぶりにマルが床に座る俺の側で横になってくれた。

「マル、ナナシを守ってくれてありがとうな。これからも頼んだぞ」

 マルの頭を一撫ですると尻尾を振り返事をした。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ