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世紀末サバイバルライフ  作者: 九路 満
北の地 編
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4.変転(4)

 町役場に着いたのは日没ギリギリの午後六時を回った頃だ。傷ついたカリモさんには申し訳ないが尾行防止のために関係ない場所をぐるぐる周り続けた。台車を長時間押していたせいもあり手が震えている。

 町役場の入り口はしっかりと施錠されていて、サンドがしっかりと言いつけを守っているのがわかった。ピッキング道具を出して鍵を開け町役場に入る。ライトで照らして見た室内は出発前と何ら変わっておらず、襲われた形跡もない。真っ直ぐ地下室に通じる扉に向かったが、こちらにもしっかり鍵が掛かっている。鍵を開けて入り口の前でカリモさんには待ってもらい階段を降りた。ドアの隙間からは明かりが漏れ出しており中に人が居る事は間違いない。ドアを四回しっかりとノックする。するとドア越しでもわかるほど大きな音を響かせこちらに足音が近寄って来た。鍵を触る音がしたと思ったら次の瞬間には勢いよくドアが開きドアにぶつかりそうになった。

「おかえり、……おっちゃん」

 開いたドアから現れたサンドに迎えられたと思ったらその次に下腹部に衝撃が走り、そのまた次に太ももに擦り付けられた感覚を覚えた。目を落とすと抱きついて離れないナナシと足に身体を擦り付けるマルが出迎えてくれていた。

「ただいま。問題は起きなかったか?」

「ちゃんと教えてもらった通りに生活してたんだから問題なんて起きないよ」

 涙を浮かべた目をして笑顔で答えるサンド。そしてなかなか離れないナナシを引っ剥がすのには苦労をした。

「サンド、早速で悪いが俺が使っている布団のシーツを新しい物に替えて横になれる様にしてくれ」

「もう寝るのかい?」

「ああ。俺じゃなくてカリモさんだがな」

「無事だったんだ。わかった、すぐに用意するよ」

 顔にまで及ぶカリモさんの傷跡を二人に見せるのは忍びなかったがこればかりは仕方がないと諦めた。階段を登ってカリモさんを背負いまた階段を降りた。カリモさんは部屋にいた二人を観て一瞬驚いたように目を見開いた、そして大粒の涙を溢し始めた。対してサンドとナナシの二人は彼女の傷を観て驚いた表情を見せたが涙を流しているカリモさんを観て同じ様に涙を流し始めた。新しいシーツに替えられた布団にカリモさんを横にすると二人が側に来て手を握り合い今この時を喜びあっていた。俺は階段の上の荷物を片付けるのにマルを連れて部屋を出た。扉の向こうから聞こえる泣き声を背中に受けながら階段を登った。


 薬を飲んで眠りについたカリモさんを他所にサンドは夕食を作り、俺はナナシに土産を忘れたことでえらく拗ねられ、マルはナナシのそばで聞き耳をたてながら横になっていた。

 帰ってから謝り通してようやく次の物資調達の際に何か持ち帰ることで話は折り合いがついた。サンドはそれを待っていたのか、話が決着して直ぐに俺たちを夕食に呼んだ。席に着くとこの日の夕食はわざわざ米を炊いておにぎりを作ってくれている。それにインスタントの味噌汁と昔ながらのメニューが机に並んでいる。サンドに促され久しぶりにこの席で手を合わせた。

「いただきます」

 俺の食事の挨拶にみんなが続いた。まずは暖かい味噌汁から頂いた。賞味期限が多少過ぎようとも味の劣化はほとんど感じられず相変わらず上手い。次におにぎりにかぶりつく、何と中には梅干しが入っていた。この数日で失われた塩分を摂取したおかげか、それともみんなとの食事のおかげか、溜まっていた疲れが少しずつ抜けていく。

 食事を終えて、傷のせいで発熱しているカリモさんにお粥を作ろうと食材を見に行くと、カセットコンロの上に小鍋が置かれている。中を覗くと既にお粥が作られていた。食べ終わった食器類はナナシが率先して下げると水を節約するために、タオルを絞って食器を綺麗にしている。たかだか数日離れただけで、俺なんていなくても問題なさそうなほどの働きに嬉しながらも少し寂しくもあってしまう。

 食後にサンドがいれてくれた苦味と雑味が強いコーヒーを飲みながら今後を考える。カリモさんの傷が完全に塞がるには恐らく一月ほどは必要だ。それに加えて気丈に振る舞ってはいるが精神的な傷の完治はそれこそ、いつになるかわからない。俺とマルだけなら隣街の奴らをやり過ごしながら生活することは可能だろうが、人数が増えた今の大所帯では安全を確保しながら生活を続けるのは大変だろう。

 なかなか考えがまとまらず頭を抱えていると隣にサンドが座り出発前に渡した封筒を目の前に出した。

「返しておくよ。もう必要のない物だから」

「……そうだな。だがこの中身は必要になるかもしれないな」

 目の前に置かれた封筒を開けて中から無勢に渡された基地の場所を示した紙を出した。興味深そうにサンドが覗き込む。

「これは、少し前に出会った奴が困ったら訪ねろと残していったものだ。ここに書かれた場所に行けばもしかしたら他の生き残っている人達に会えるかもしれない。だがこんな世の中だ、もしかしたら行っても無駄足なんてことも十分ありえる。さて、どうしたもんか」

「どうって?……おっちゃん。ルール第四やれる事をやる。だよ。もしダメならその時またやれる事をやろうよ、みんなで」

 まさに、男子三日会わざればを実感した。しかし社交性に欠けている俺に良くついてくる。その上、涙ながらに迎えてくれるなんて風変わりな連中だ。だけど、だからこそ出来ることなら守ってやりたい。

「明日はお前の誕生日を祝わないとな」

 サンドはコーヒーを口にしながら微笑んだ。


 久しぶりに町に雨が降っている。おかげで生活用水には当面困らなそうだ。カッパに雨粒が降り注ぐと、何故か小学生の頃の通学時を思い出す。あの頃は雨だろうと晴れだろうと毎日が新鮮で好奇心をくすぐられる毎日に感じられていたのに、いつから雨の日を鬱陶しく思い出したんだろうか。一人で葉山さんの家に向かう坂道を登りながらそんな考えが頭をよぎった。

 葉山さんの家に着くとカッパを脱いで室内に入る。空のリュックに葉山さんがコレクションしている上等なウイスキーを数本、リビングに飾られていた家族写真を拝借した。

 リュックを玄関に置いたままカッパに袖を通して隣街を監視するためにいつもの場所に向かう。雨の水気のせいで背の高い雑草が体にまとわりついて足を取られそうになる。ようやく隣街を見通せる開けた場所に出たが、やはり雨のせいで視界は悪い。だがそれば逆に相手からも見つかりにくい事にも繋がり、奴らが警戒しているであろう今この時においては好都合だ。

 単眼鏡を出して街中を見回す。街の中心地は視界のせいもあり確認が困難だ。諦めて街と町の境付近を見る。すると昨日まで使っていた廃ホテルのエリアをトラックが止まっていた。目を凝らして見るとそのエリアをトラックから降りた、武装している奴らが建物を捜索している。もう一日移動が遅れていたら危ない所だった。今回は奴らも大きな被害を被っているのでそう簡単には犯人探しを辞めないだろう。それに思っていたよりも奴らの捜索スピードが速い。もうあまり迷っている時間は無さそうだ。次に二つの道を繋がる道路にピントを合わせるが、まだどちらもいつもと変わらない様子だ。奴らもまさか隣町にずっと潜んでいるとは考えていないのだろう。だからこそこの町を離れるなら今をおいて他にない。その思った時に俺の決心は固まった。すぐに葉山さんの家に戻った。家に入ってすぐの場所に置かれた固定電話の横にあった紙とペンを使いメッセージを二枚書く。一枚目には年月日とよく使った合言葉を、もう一枚にはこれから向かう場所の座標を書いた。最初に書いた紙はリビングの机の上の目立つ場所に置いた。もう一枚はガレージに飾られた俺とじいちゃんが一緒に写っている写真の額縁の裏に隠した。

 次に家の周りに散らばる侵入者確認用のトラップを全て片付ける。手間ではあるがこの場所に少しでも痕跡は残しておきたくなかった。最後に戸締りを済ませて山を降りる前に葉山さんの家に一度頭を下げてからその場を離れた。

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