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世紀末サバイバルライフ  作者: 九路 満
北の地 編
25/54

4.変転(3)

「すいません。……ここは、……何処ですか?」

 疲労が溜まっていた事もあり意図せずに寝てしまっていたようだ。傷だらけのカリモさんが目を覚まして此方を見つめている。

「ここは街外れの廃ホテルです。大変でしたね。もう心配しなくても大丈夫ですよ」

 映画でよく使われるこの名セリフをまさか自分自身で使う日が訪れるとは夢にも思っていなかった。だが結構な割合で大丈夫と伝えた後に大丈夫ではない事態が訪れるのだが。本当なら奴らに何をされたか、葉山さんに会ったかなんて質問をしたいが今の弱った彼女には酷だろう。

「あなた……は?」

「俺はあなたのお父さん、葉山さんの知人です。だから安心して今はまだ眠ってください」

 話を聞き終わるとカリモさんは静かに目を閉じて眠りについた。時計を見るとまだ夜中の一時だったので俺もそのまま椅子に座りながら休息を取るために目を閉じた。


 朝アラームが鳴るよりも早く目を覚ました。カリモさんの容体は落ち着いてみえる。枕元にメモを残し水と薬を準備して俺は、日の出と共に物資の調達に加えて、奴らの様子を確かめるために街に出た。

 動きやすい様に荷物はナタとウエストポーチだけを持って出てきたので素早く動ける。街は静かで昨日の出来事が嘘のようだ。しかしそれも奴らの拠点である中学校に近づくまでだった。奴らはトラックやSUVに乗り街の建物をしらみつぶしに捜索している。街の中心地では車両の走行音と奴らに発見された彼らを狙う銃声が鳴りわたる。奴らが頻繁に行き来しているので中学校に向かうのを断念して中心地を離れ、目的を物資の調達に切り替えて探索を始めた。大型スーパーなどの店舗は既に奴らに荒らされた形跡があった。時折奴らの車両が大通りの道に現れるので、入り組んだ小道を進むと、路地裏の手が付けられていない個人経営の専門店がちらほらと並んで建っている通りに差し掛かりここで物資集めることにした。

 最初に入った店は小洒落たブティックだ。店内には蛍光色の色鮮やかな服が並べられており店主の趣味が垣間見えた。そんな取り扱い商品の数々にいささか目眩を起こしそうだ。並べられた服を手当たり次第に探して幾分かまともなダークカラーの目立ちにくい色合いの物をレジにあった大きな紙袋に詰めて店を出る。

 次は二軒となりにある農業用品店に寄り軒下に置かれている肥料運びに使われていた台車を拝借した。そして最後に荒らされた形跡がある小さな食料品店に向かった。表に荷物を残して、腰のホルダーから出したナタを握りしめ、破られたガラス扉の破片を乗り越えて店内に入る。店の中は食料品が並べられていた棚は倒され、飲料が入っていたであろう冷蔵庫のガラスは破られていた。食料品店に行くとこれと同じ光景を多く目にするが、何故普通に物資だけを略奪できないのかと疑問に思っていた。どうせ悪行を行うならとことん、なんて心理でも働いているのか、必死に生きるために奪い合った結果がこの有様なのか今となってはわからないが。荒らされた残骸を漁ってみると存外缶詰や水なども残っている。それを見て荒らされた店内の意味は前者なのだと理解できた。

 荷物をまとめて台車の上に乗せてカリモさんが待つ廃ホテルに向かうが裏通りを台車を押して進むため思う様には帰れない。車両のエンジン音が聞こえる度に身を隠しては息を殺した。そして辺りを見回して安全なら進む。それを繰り返してようやく廃ホテルに辿り着いたのは日が傾いたあとだった。


 ランタンの明かりが暗い部屋を照らしてくれる。その光を頼りに装備品の調整をする。特に使用したカランビットナイフを丹念に磨き上げた。その様子を目覚めたカリモさんが見つめているのに気がついた。

「体調はどうですか?」

 声をかけるとカリモさんは懸命に身体を起こした。

「身体のあちこちが痛いですけど、お陰様で生きています」

「そうですか。生きていてよかった。あなたが死んでいたらあなたのお父さんに、合わせる顔がなかったですから」

「失礼ですが、父とはどういったご関係ですか?」

 疑念が浮かんだ眼差しでカリモさんが見つめている。

「ちょっとした猟師仲間ですよ」

「猟師ですか?父はあの性分なので、あまり人とは付き合っていなかったはずですが。……もしかして、剛蔵さんのお知り合いの方ですか?」

「ええ、剛蔵の孫です」

「あなたが。……話は少しですが父から聞いていました。大変な思いをされた事も」

 それを言うと話し辛そうにカリモさんは口を噤んだ。

「その話は……もう。それよりも聞きたい事があるんです。ご両親はどうなったんですか?」

「どうと言われても。混乱で連絡を取れなくなってから音信はないです。もしかしたら両親がいるかもと思って長旅をしてここまで来たんですが。立ち寄った所をあいつらに捕まって、……あんな目に」

 どうやら葉山さん達はカリモさんとは会えなかった様だ。だが今の弱った彼女に伝えるべきではないだろう。

「そうなんですね。俺が最後に会った時にはご夫婦で町を出て、安全な場所に避難すると言っていたのできっと大丈夫ですよ」

「そうですか。……父も母も町にはいないんですか」

「……良ければ俺が仲間と住んでいる場所があるんで、一緒に行きませんか?ご両親の事は傷が癒えてから考えればいい」

 カリモさんは力なく頷いた。

「体が痛むでしょうけど、明日の朝早くに出発します。とにかく今は少しでも休んでください」

 薬を渡して飲んでもらうとその後直ぐにカリモさんは横になった。


 早朝、日が昇り出してすぐに出発してから、かれこれ二時間ほどが経過している。まだ激しく動けないカリモさんを台車に乗せて町を目指す。町に帰るルートだが、歩けないカリモさんを連れている手前一番安全な山道を突っ切ることはできない。残るは道路を使って帰るしかないが、躍起になって逃げた人達を探す奴らが、町への行き来に使っている新しい道路を堂々と移動するのは危険性が極めて高い。そのため最後の選択肢の何か仕掛けられている可能性が高い旧道を行くしかなかった。

 旧道に近づけば近づく程、廃れた街並みが際立つ。街の中心地には煌びやかな世界が広がりそこを遠ざかればそれに比例して養分を吸い取られた搾りかすのような光景に移り変わる。カリモさんが乗る台車の揺れがそれを証明していた。

 旧道の入り口に立ち辺りを見回すと建物などはなく、今奴らが現れれば戦闘は避けられない。しかし心配ばかりしていても何も始まらないので覚悟を決めて旧道に進入した。片側一車線の道は昨今新しく作られた道に比べて心なしか狭く感じる。両側を高い山に挟まれている山道である事もそう思わせる一因だ。道には乗り捨てられた車などはなく見通しがいい。道路には経年によるひび割れと多くのビニール袋が道のあちこちに捨てられているぐらいだ。風が吹いてもなびくだけで飛んでいかないビニール袋。

「ちょっとここで待っててください」

 カリモさんを乗せた台車を置いて、道に広げられたビニール袋の確認に行く。近くに落ちていた枝を使って袋の口を開けて中を見ると、対人地雷が入れられていた。人間は勿論、通常車両であればこれだけで十分に走行不能にすることができる代物だ。世界的にも禁止されている物をまさか日本で見ることになるとは夢にも思わなかった。いくつか確認したが全ての袋に入っているわけではなく適当に配置されていて法則性はない。台車で通る分には問題ないが車両で通るにはいくつか除去しなくては通れそうもない。カリモさんの元に戻り町を目指すが奴らが車両でこの道を通らないと分かり少し心にゆとりが出来た。

 カリモさんが乗る台車が荒れた路面のせいで激しく揺れる。しかしこれ以外の運搬方法がないので痛む体ではあるのを承知で耐えてもらう。相当傷に響くはずだが弱音一つ吐かない、それに加えて奴らに拷問されて間もないにも関わらず、毅然と振る舞うその強さに尊敬の念を抱いた。見た目こそ似ていないが、強い芯を持つ葉山さんにそっくりな内面に葉山さんの姿が重ねて見えた。山間を抜けると数日ぶりの町並みがようやく目の前に広がった。

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