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世紀末サバイバルライフ  作者: 九路 満
北の地 編
17/54

3.観戦者(4)

 住宅を離れすぐに次の目的地に足を向けた。街の反対側には平和だった頃を含めても、初めて訪れた。周りの人達もあまりこの辺りには訪れないと聞いていたがその理由が分かった。多くの住宅や店で賑わうあちら側とは違い、こちらには住宅地が点在するぐらいで店らしき物も特に見当たらない。そして何よりこの地域の面積の大半を占めているのは田畑だろう。真新しい住宅もちらほらとは見受けられるが多くは昔から立っているであろう古ぼけた住宅が目に付く。恐らくは昔からの住人が多く住んでいた地域ではないかと思う。そのせいもあり街のあちら側よりもコンクリートで舗装された土地が少ない為、必然的に雑草があちこちに伸びていた。おかげでいざ身を隠すとなれば隠れ場所には困らずに済むが、そもそもとして、こんな荒れた場所、まともな物資すらありそうにないこの近辺にそうそう奴らが来るとも思えなかった。

 それでも町での探索時には背後を任せていたマルやサンドがいない今の一人だけでの状況では、気を緩めるつもりにも、気を緩める余裕もとてもでは無いがありはしなかった。


 住宅地と田畑が入り乱れる中、周囲を警戒しながら進む事約一時間、ようやく目的地である飛行場に到着した。国の要所を占める主要空港とは比較にならないこじんまりとしたこの空港は、区分的にはその他の空港に分類されるている小さな空港だ。一般人が旅行で使うような場所では無い事もあり、地元民でさえその存在を知らない人もいる、ある意味では秘境と言っても差し支えない場所である。滑走路の端の所々にはヒビが走っており、そのヒビからは商魂たくましく無数の雑草が成長している。滑走路の近くには高台が備えられた管制塔兼事務所として使われていた建物が建てられており、まずはその建物に向かった。

 建物の周りを一周して入り口を確かめたが全ての入り口は施錠されていた。その為、いつもの様にピッキング道具をウエストポーチから取り出して鍵を開け中に入った。入ってすぐの場所は待合室の様な作りになっていて空港を訪れた人たちの待機場所として使われていたのだろう。そこを抜けて奥に進むと事務所らしき部屋に入った。壁側には多くの書類棚が並べられており、それぞれの棚には保管資料の名目が書かれたシールが貼り付けていたので、それを頼りに目的の資料の探索を始めた。資料は顧客に関する物やら、空路に関する書類と多岐に渡っており整理が行き渡っているとは言え探すのには苦労する。ようやく目的の資料を見つけたのは探し始めて三十分ほど経った頃だ。

 まとめられた資料を持ち事務作業をしていたであろう、机に座って資料を広げた。内容はこの空港が管理している数台のセスナ機の整備記録だ。記録の中には機体の製造年や修理の記録が記載されている。その中でも比較的新しく故障歴の無い機体がわかった。次はその機体の鍵を探すために事務所内の捜索を続けた。金庫にでも入れて管理されていたら面倒だと思っていたのだが、窓際の壁に直接取り付けられた簡易な鍵付きのボックスに、まとめて保管されているのを見つけたが、簡易とは言え鍵付きのボックスだと言うのに鍵は掛けられておらず、その管理体制に呆れた。目当てのセスナ機の鍵だけを拝借して、事務所を後にした。

 先程は気づかなかったが、待機場所には敷地内の見取り図が壁に貼られており、それを見てセスナの管理場所を確かめてから表に出た。空を見上げると相変わらずに雲一つない青空が空一面に広がっている。それを観ていると何故だか理由はわからないが、胸にくるものがあった。空に魅入られるのも程々にして、待機場所で確かめた通り、事務所から少し離れた場所に建つ機体が管理されている倉庫に向かった。

 倉庫に着いて辺りを見回すが倉庫周りは見通しが良く何の動きもない事が確しかめられた。確認を終えて入り口のドアを回すが流石に鍵が掛かっており、ピッキングで扉を開けた。倉庫の中は少ない窓からはいる光だけが、倉庫内を照らしているので流石に明るさが足りなかったので、リュックから取り出したライトを使って光源を確保した。倉庫に置かれたセスナ機は倉庫の中央にセスナが通れる空間を確保された道の両側に規則正しく並べられており、全ての機体が直ぐにでも滑走路に向かえる並びになっている。

 ライトを照らし機体に割り振られた番号から目的の機体を探すと案外直ぐに見つけることができた。整備記録にあった通り周りの機体に比べて外観上は綺麗だ。次に機内に乗り込む、まずは鍵を差してバッテリーが切れていないかを確認、その後その他の計器類に問題がないか入念にチェックを繰り返して行う。エンジンは始動させていないので確定的な事は言えないが現状では機体に問題は見当たらず今にでも飛び立てそうだ。四人乗りの機体の後部座席にはチェックリストなどが挟まれたバインダーが、乱雑に置かれてはいたがそれ以外は綺麗なものだった。

 機体を降りて倉庫内の探索を続けていると、次に探していた給油用タンクローリーを見つけることができた。さらに嬉しいことに鍵が刺さったままでドアも開いていたのだから幸運だ。車に乗り鍵を回すと弱々しい始動音ながらなんとかエンジンをかけることができた。すぐにタンクローリーを発進させ先ほどのセスナ機の前で停車した。タンクローリーのエンジンはバッテリー上がり予防の為、つけたまま車を降り給油ホースを持ってセスナ機に向かった。セスナ機の給油口を開けタンクローリーから運んだホースで航空ガソリンを流し込んだ。

 燃料補給を手早く済ませてタンクローリーを元の場所に停め直す。タンクローリーを降りる際に差しっぱなしだった鍵を外しドアをロックした。そしてタンクローリーの鍵を給油を済ませたセスナ機の鍵と合わせてリュックにまとめている鍵束に加えた。いつか誰かが俺と同じようにこの場所を訪れる事を想像すれば、この鍵は残したままにした方が良いのだろうが、出会ったことのない想像の人を気遣う優しさを俺は持ち合わせていない。

 セスナのチェックを終えた後は機体の出入り口として使われるシャッターの確認に向かう。高さ数メートルはある大きなシャッターは、有難いことに手動で開閉を行うタイプの物であった為、セスナ機を滑走路に出す際にはそれほど手間はかからずに済みそうだ。一度倉庫から表に出てリュックから取り出した単眼鏡で周囲に誰も居ないかを見回し、問題がない事を確認してから再度倉庫の中へ戻りシャッターの開閉が可能か実際にシャッターを開けて確かめた。長らく動かしていなかったせいもあるのか、開き始めは、少々重たかったハンドルも途中からはスムーズに動かす事が出来、最後にシャッターを降ろす時には最初に感じた重さを特に感じる事なく閉められた。

 倉庫内で確認しておきたかった物は全て見終わった。朝から動き通しで少しの疲労感を感じている事もあり倉庫内に併設されている管理室に置かれた椅子に腰を下ろした。リュックを下ろしいつものお楽しみであるスキットルを取り出し一口飲んだ。今回の中身は葉山さんの家に寄った事もあり、お気に入りのウイスキーを少々拝借しているので特別美味い。ガラス張りの管理室からは倉庫内の機体が一望でき、俺はそれらをただ眺めていた。

 少し休んだためか、少量の美味い酒を摂取したからか先程まで感じていた疲労感が和らいだのを見計らって再度行動を開始した。今日の予定は残り滑走路の清掃作業で終わりだ。管理室の隅に置かれたロッカーには、倉庫内の清掃に使われていたであろう掃除道具が揃っていた。その中から大きめのちり取りを持ち出して滑走路に向かった。滑走路の上にはまばらながら目立った石が幾つか転がっており、それを一つ一つ拾いちり取りに入れ、ちり取りがいっぱいになり、入らなくなればその都度、滑走路を外れた路肩に石を捨てる単純作業を繰り返した。

 作業を始めて一時間強ほどで、ようやくめぼしい石の除去は完了した。今後起こりうる最悪の事態を考えて高飛び出来る準備を進めはしたが、恐らくこの滑走路を使える時期は冬が迫っている事を考えると良くてあと一ヶ月程度の期間だろう。それ以降になれば路面凍結は勿論の事、毎年恒例の積雪が街を埋め尽くしはじめる。

今後の展開次第ではあるが、あの町を離れる決断をしなくてはいけない、そんな可能性が生じ始めていることを考えるとつい深いため息が出てしまい、腕時計に目がいく。そして時計は午後二時を表示していた。

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