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第5話「連絡先交換」

 給食を食べて眠気に襲われている時のこと。

「橋森君、昼休みはいつも何をしているの?」

 隣に座る川端さんの不意の質問に、不覚にもあくびで答えてしまった。

「ふあ……。あ、ごめん」

 とっさに開いた口を手で抑えるものの既に遅く、僕は恥ずかしさのあまり体が熱くなるのを感じた。

 川端さんは僕に寄って周りに聞こえない声量で、

「ユウ君はおねむなのかな?」

 母親が赤ちゃんをあやすように、彼女は僕をからかった。体がさらに熱くなった。

「もう、やめてよ!」

「ごめんごめん! ね、もし暇だったらいいところあるんだけど、ちょっと行ってみない?」

「いいところ?」

「うん、いいところ」

 前のめりになってそう話す彼女の笑顔を見て、僕は期待半分、不安半分だった。




 そこは屋上につながる階段の踊り場だった。

 川端さんは留めていた髪ゴムを外し、踊り場の窓を開けた。入ってきた風で彼女の黒髪が日光を反射しながらなびいた。

「あー、気持ちいい」

「初めて来たよ。静かでいいね」

「そうでしょ? いつも昼休みはここでくつろいでるの。一人になれるから好きなんだよね。本当は屋上まで行きたいけど、鍵が閉まっているから」

 そう言って川端さんは屋上へのドアを指差す。

「でも、どうして一人になれる場所に、僕を連れて来たんだ?」

 窓枠に寄りかかって頬杖をつきながら、笑みを浮かべて彼女は言った。

「ユウ君は特別」

 戸惑う僕は彼女に質問をする。

「ちょっと待って。どうして僕なんだ?」

「知りたいの?」

 川端さんは窓枠に寄りかかるのをやめて、僕に向き合ってそう言った。

「う、うん」

 どんな答えが来るのだろう、と僕は緊張し全身に力が入った。

「興奮したから」

 その答えに拍子抜けした。

「え? それだけ?」

「不満?」

「いや不満ってわけじゃないけど……。何かもっとあるのかなと……」

「う~ん、そうね……」

 川端さんは外に視線をやった。僕には彼女の横顔が寂しそうに見えた。

 その時、ようやく僕は悟ったのだ。

 ああ、答えを欲張らなきゃよかった。

「ごめん、やっぱりそれしかないかな。語れば語るほど嘘くさくなるような気がして」

 沈黙が流れる。

 この空気を変えるために何か言わないと。

「あのさ、僕は川端さんのことをあまりよく知らないんだ」

 後先考えずに今思ったことをそのまま口にしてしまった。

 彼女の両目が僕を捉え、次の言葉を待っている。

「だから、川端さんのことを知りたい」

 答えを欲張ったのもそのせいだ。もっと知りたいんだ、川端イツキという人間を。どうして僕なのかを。彼女の言葉からだけでなく自分の頭でも彼女をちゃんと理解したい。

「だから、連絡先を交換しよう」

 またもや沈黙が流れる。

 一瞬の間を置いて、僕はその沈黙の理由を理解した。

 これは失敗した、と。

 なぜ連絡先? もう少し会話を続けてからでもいいじゃないか。それに、「だから」を2回続けて使ってしまうなんて。

「いいね! 交換しよ!」

 川端さんは喜んでスマホを取り出した。

 杞憂だったようだ。

 僕も安心してスマホを取り出し、彼女と連絡先を交換した。

 僕は川端さんのプロフィールを確認した。そこには真っ暗な画面が映っていた。よく見るとただの真っ暗な画面ではなく、小さな白い点が見える夜空だった。

「それは北極星だよ」

 いつの間にか横から川端さんが僕の画面を覗いていた。

「あ、ごめん、勝手に覗いちゃって」

「いや、それは大丈夫だけど、どうして北極星なの?」

「私、北極星が好きなんだ。いつもその場所にいて、自分を持っている感じがして好きなんだよね」

 川端さんは僕から離れて窓際に戻り、遠くの景色を眺める。

「道しるべになるような、頼りがいのあるような……」

 何が見えているんだろう。

 僕は不思議と彼女の見ている景色を見たいと思った。

 それは好奇心だけではない。遠くを見つめる彼女のあの横顔で、胸がチクッと痛むから。




 学校が終わって夜寝る前のこと。

 ベッドに入ってスマホをいじっていたところ、突然川端さんからメッセージが届いた。

 メッセージを開くと、谷間のような写真が送られてきた。

「え!? 急にダメだよこんなの!」

 すかさずメッセージを送ると、すぐに川端さんから返信が返ってきた。

「これ、私の腕よ」

 そして、ズームアウトした画像を送ってきた。

「エッチなこと考えてたでしょ?」

「からかうなんて」

 早とちりしてしまった恥ずかしさから、僕は手で顔を覆って目をつぶった。

 またもや川端さんから届き、覆っていた手をどかし、薄目でスマホの画面を見る。

「ごめんごめん。今度本物を見せてあげるから」

「いや、それこそ本当にまずいよ!」

 驚きで目が見開く。

 そしてまた届くメッセージ。

「なんてね」

 アホくさ。二回も同じ手に引っかかる自分に嫌気が差す。

 スマホをベッドの脇に追いやり、布団を頭からかぶって寝ることにした。

 翌朝、スマホのアラームをかけ忘れた僕は、寝坊して遅刻した。

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