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9/24

9:わたくし、本当に嫌われていますのね……?




 ポタリポタリと落ち続ける雫を無視して、タオルをユリシーズ様にそっと渡しました。

 ユリシーズ様は、何故か呆然とした表情でタオルを受け取ってくださいました。今日のユリシーズ様の表情筋はとても忙しそうです。


「引き続き、訓練……頑張ってくださいませ」

「え、あ……」

「しづ……れいいだぢまず」


 鼻声で変な発音になってしまい、ちょっと恥ずかしいです。

 扇子で顔を隠しながら馬車へと向いましたら、後ろからアリアが慌ててついてきました。


「ちょ、お嬢様⁉ え? なんで⁉」

「だでぃぼ、だぃ」

「いや、そんなボロ泣きで『なにもない』と言われましてもですね。そんな無茶な……」

「がえるっ!」

 

 早く、家に帰りたいの。

 こんな顔、人に見られたくないの。

 特にユリシーズ様には――――。




 部屋に戻り、濡れタオルで目元を冷やしでいましたら、部屋の扉がノックされました。

 アリアもメイドたちも全員追い出して、誰も来ないでって言っておいたのに!


 無視していましたが、コンコンコンコン、ずっとノックが続けられています。


「一人にしてってば!」


 コン、と小さな音がしたあと、ノックが止みました。


「…………私だ」


 低く柔らかな声に、心臓がドクリと跳ねました。

 聞き間違うはずがありません、ユリシーズ様の声です。

  

「ユリ――――」


 あら? ユリシーズ様は、(わたくし)の部屋まで何をしに来られたのでしょうか?

 訓練を邪魔したことへの注意? 苦情? 婚約解消の前倒し?


 ユリシーズ様が訪れてくださったということだけで、嬉しくて飛び起きそうになりましたが、すぐさま現実に引き戻されてしまいました。


「イザベル」

「っ、いぃぃいませんわっ」

「…………返事をしたら、意味がなくないか?」

「うっ」

「開けていいか?」

「っ⁉ 駄目ですっ!」


 部屋着だし、スカートが翻って膝が丸見えですし、わけも分からず泣きまくったせいで目がパンパンですし……。


「…………今日は、すまなかった」


 囁くように謝罪されました。いつものクールなユリシーズ様とはなんだか違う気がします。


「ユリシーズさま?」

「……ん」

「ゆっ……許して差し上げますわ!」

「…………」


 ――――っ、ああぁぁぁぁぁ! 私の馬鹿ぁ! 本当に馬鹿ぁ!


「ハハッ。いつものイザベルだな」


 あら? あらららら? いま、笑われましたわよね?


 慌てて身なりを整えて、髪も手櫛でちょちょいと直して、ズバァァァンと開けましたら、目が溢れ落ちそうな程にビックリしたお顔のユリシーズ様がいらっしゃいました。


「もっ、もっ、ももも、もしかして、もしかすると……わたくしのこと、好きになってくださいましたの⁉」

「…………どうだろう?」

「って、なぜに焦らしプレイですのぉ⁉」

「ハハッ」


 ユリシーズ様が、幼い頃のような、晴れやかな笑顔で声を上げて笑い出されました。

 え、どうしましょう。かわいいです。


 ――――どっ、どうしましょぉぉぉぉぉ⁉




 あ……ああああ、明日こそは19時にっっ!

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― 新着の感想 ―
[一言] え、『明日こそ19時』……? Dejavu?
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