8:わたくし、本当に好きですのよ……?
騎士団の訓練風景はムサ苦しいもの…………だと思っていた時期が私にもありました。
「ユリシーズ様ぁ! 頑張ってくださいませー!」
「わぁお、見事な掌返し」
「煩いわよ!」
「はいはい、すみませーん」
歓声と鈍い音が響く土の訓練場で、ユリシーズ様が少し目上であろう団員様と模造刀で本気の打ち合いをしています。
乱れる髪、額から流れ落ちる汗、それらを腕で拭う姿……色々とエロい!
何よりも一番エロいのは、薄く開いた口から漏れ出る熱い吐息!
こんなにも一心不乱なユリシーズ様、見たことがありません。
勝敗が見えてくると、応援する声が更に大きくなりました。
「ユリシーズさまぁー、がんばってぇ」
どこぞの小娘がユリシーズ様に黄色い声援を送っています。私よりも大きな声で。
…………負けてはいられません。
「ユリシィィズ、さまぁぁぁあ! ぐあんばってくださいまぁぁしぃぃぃ!」
あ、ユリシーズ様が相手の脇腹に一撃入れて、勝負が付きました。
もしかしてもしかすると、愛の力でしょうか⁉
「いや、もとからだいぶ優勢でしたやん!」
「……ねぇ、アリアってどこの地方出身なの? 時々言葉遣いが……変? 不思議? なのよねぇ」
「…………ほら、ユリシーズ様が休憩に入られますよ。タオルを差し入れてはどうですか?」
「あら! そうね!」
なんとなく話をはぐらかされたような気がしますが、差し入れついでにユリシーズ様と触れ合うチャンスは逃せません。
なるべく優雅に歩いているように見せつつの競歩で、群れるご令嬢どもを押し退け、蹴散らしつつ、ユリシーズ様のもとへと駆け付けました。
私がユリシーズ様の婚約者だからなのでしょう。皆様がササッと避けてくださいました。
「ユリシーズ様、ご苦労さまです。素晴らしい打ち合いでしたわ」
「…………あぁ。今日みたいに騒ぐようなら、二度と来ないでくれ」
「っ⁉ も、申し訳ございませんでした…………」
ユリシーズ様に、とても低い声で怒られてしまいました。
皆様が声援をあげていたから、私も! と思いましたが、ご不快な思いをさせてしまったようです。
眉間に深い皺が寄っています。
「……何故、そんなに悪目立ちをする」
私としては、純粋に応援したい一心での行動でしたので、そのようなつもりはなく…………。
でも、きっと今のユリシーズ様には何を言っても受け取ってはもらえない気がしています。
そもそも、今までも受け取ってもらえてはいなかったのかもしれない、ということに思い至ってしまいました。
「っ、ごめん……なさい」
私、本当にユリシーズ様のことが好きだったのです。そして今でも、好きなのです。
幼い頃、我が家の庭園で手を繋いで頬を染めあったり。社交会デビューするためのダンスのレッスンを二人で受けて、共に怒られたり、共に笑い合ったり。
沢山の思い出があります。
ずっと、相思相愛だと思っていたのです。
ずっと、嫌われていたなんて……。
「本当に…………ごめんなさいっ」
ポタリ。
タオルを持った手に、熱い雫が落ちてきました。
明日こそは、19時に投稿したいなぁ……。