4:わたくし、真人間になれますの……?
とりあえず、真人間になるには何をしたらいいのか、何に気を付けたらいいのか、アリアと考えることにしました。
「なんで私を巻き込むんですか」
「煩いわよ」
「はいっ! それっ! そういうとこですよ!」
「へ?」
人の意見を聞かない。思い込みだけで突っ走る。無茶振りばかりする。非を認めない。
「そんなこと――――」
「つい先日、夜会用のドレスが気に入らないから作り直すとか無茶振りしてましたが? 通常十日は欲しいと仕立て屋に言われたのに、四日でしろとおっしゃいましたが?」
「あうっ……」
だ、だって。用意されてたドレスがなんとなく子供っぽく見えたのよ。もうすぐ結婚の約束をしている年齢になるのに、ふわふわキラキラは変かも……って。
今持っているドレスってそういう系統ばかりだったから、大人っぽいものを着た姿をユリシーズ様に見てほしかったのよ。
「あら? 思ったより可愛らしい理由だったんですね」
「……ふん」
「先月の旦那様と奥様と一緒にレストランに出かけた時ですが……急に、違う店がいい。今日は魚介料理は嫌だ。とかですね、ああいったその時の気分で予約をキャンセルするの、本当によろしくないですよ」
先月? あー……。あの時、レストランにお父様が苦手な候爵様の馬車が入ったのが窓から見えたんでしたわね。
お酒を深めに嗜まれるので、絡み方がとにかく凄いのよね……。
いつもお父様が半泣きになっていらっしゃるから、別のレストランの方が平和に食事できる。と思ったんだったわ。……たしか。
「え? いましたっけ?」
「ちょうど私側からだけ見えたのよ」
「ちっ。お嬢様が思ったよりまともだった件」
「舌打ち⁉ 聞こえてるわよ⁉」
かるーく。物凄く軽く謝られました。
「となると、一番の問題は、言葉通りに受け取りすぎること! これですね」
「今朝の?」
「そうです!」
『一流の侍女は何でも出来るものよ』ってお母様がおっしゃったんだもの。そもそも、アリアは一流だし。何でも出来る! って思うじゃない?
「……」
なぜにそこで頬を染めるのよ。アリアがちょっと気持ち悪いわ。
「いや、まさか褒められるとは思わずですね……てか、ソレェェェ!」
「ほへ?」
「お嬢様は、顔がちょいキツめなんで、そういう風に素直に! 人を褒めるといいんですよ。ギャップ萌えってヤツです」
ギャップ萌え。
あれね、最近話題になっている小説の中に出てくる用語ね。
他にツンデレとかヤンデレとか不思議な言葉がいっぱいなのよね。
夜会で見かけた悪役令嬢とかも。
ご令嬢らしからぬ話し方をする登場人物たちが大人気で、最近はそんな話し方を真似するご令嬢たちも増えているのよね。
「何気に博識ですね」
「貴女が読めって言ったんじゃない」
「そうでしたっけ?」
アリアが一番あの本に感化されている気がするわ。
まぁ、面白いからいいけど。
「そういうところは受け入れるんですよねぇ。実はチョロイン属性なんですかねぇ?」
チョロイン……なんだか不名誉な気がする名前ね。
「お嬢様、チョロイン! チョロインですよ! チョロイン目指しましょう!」
「ちょっと、それを連呼しないで頂戴よ。あと嫌よ」
「しばしお待ちを!」
「アリア⁉」
アリアが物凄い速さで部屋から飛び出して行きました。
一体何なのかしら?
五分ほどぼーっとしていましたら、部屋のドアがズバーンと勢いよく開きました。
アリアが腕いっぱいに本を抱えて肩で息をしながら、私の方にずんずんと歩いてきます。鼻息も荒いです。なんとなく瞳孔が開いているような気がします。
ちょっと怖いです。
次話は明日19時頃に更新します。