最終話:わたくし、悪役令嬢でしたの……?
庭園の幻想的な雰囲気を眺めながら、来客たる人物を待ちました。
サクッサクッと芝生を踏みしめる音が後ろから近付いて来ています。この歩き方はユリシーズ様のはず。……たぶん。
バクバクと心臓が脈打っています。破裂してしまいそうです。
この雰囲気は……絶対に、『アレ』ですわよね?
「イザベ――――」
「はいぃぃぃっ!」
勢いよく返事をしながら、人生最高速度と言えそうな速さで立ち上がって振り向きました。
赤い瞳を丸くしてキョトーンとしたお顔のユリシーズ様が、わりと間近に立っていらっしゃいました。
左手は体の後ろに回されていますが、チラチラとお花が見えています。
ユリシーズ様のこのキョトーンの顔は可愛くて好きです。
によによとお顔を眺めていましたら、眉間にシワを寄せ、眉をハの字にしました。
もしかして、見詰めすぎて怒らせてしまったのでしょうか。
「フッ…………全く。イザベルはいつもマイペースだな」
怒っているかのような表情から、困ったようなお顔に変わっていき、クスリと笑われてしまいました。
そして、ボソリと「そういうところは可愛いな」と言われました。
「そっ! そういう事は、大きな声でハッキリと伝えて欲しいですッっっっ!」
「…………っ」
――――あ。
「ハハハハ!」
ユリシーズ様がお腹を抱えて前のめりになって笑い出したため、彼が左手で隠していたお花の全貌が見えました。
ブルースターと鈴蘭の花束。
あまりにも華麗でいて、落ち着いた雰囲気の花束です。
「それは、私にでしょうか?」
ついつい聞いてしまいました。
だって、何だか大人しくて優しい方へのプレゼントにされそうな花束なんですもの。
「イザベル以外に誰がいるという」
「ででででですよねぇ?」
「ん」
ユリシーズ様が地面に膝を付き、花束を私の方へと差し出して来られました。
「約束の期間まで少し早いが、私と結婚して欲しい。花束は私が幼少期にイザベルに抱いたイメージだ。王城で出逢った頃から、好きだった」
王城で出逢った頃? とかありましたっけ? え?
記憶にないのですが………………。
「イザベルは覚えていないと思う。あのあと大熱を出して、以前の記憶が全部無くなったと聞いている」
あ、なんかそんなことがありましたわね。
大熱を出して、何ヶ月も寝込んで、皆に…………心配され、チヤホヤされて、わがまま悪役令嬢な私が出来上がってしまったんでした。
皆が心配から優しくしてくれるからどんどんと付け上がっていったような気がします。
「ユリシーズ様は……以前の私が好きだったから、嫌いになっても我慢していたのですか?」
「いや。幼い頃は幼い頃の淡い想いとして……切り捨てた」
――――切り捨てたんかーい!
びっくりしすぎて、ツッコミを入れてしまいました。
「フフッ。……だが、思い出した。あの頃の気持ちを。イザベルが好きだ」
「っ!」
真剣なお顔でそんなことを言われてしまいますと、流石の私も照れてしまいます。
「イザベル、今までの私の態度や対応は酷かった。君ともっと早く話し合うべきだった。心から反省している。婚約者ではあるが、きちんと求婚したい」
「っ……」
喉がキュッと締め付けられ、心臓はバクンバクンと跳ねて、息苦しいです。
「どうか、私と結婚して欲しい。二人で幸せな家庭を築きたい」
「はいっ! はいっ、はいっっっ!」
力の限り叫ぶように返事しました。
ユリシーズ様は笑いながら「煩いよ」と言い、私の唇をそっと塞ぎました。とても柔らかく温かいユリシーズ様自身の唇で。
◇◇◇◇◇
「――――こうして、お父様とお母様は結ばれて、幸せな家庭を築き、貴女を授かったのよ」
「おかぁさま、あくやくれーじょー!」
「え、いえ、そこではなくてね?」
「あーくーやーくー!」
「いやだからっっっ! 違うのっ! 変な言葉を覚えないのっ!」
娘に私とユリシーズ様のラブラブ話を聞かせていたら、何故か『悪役令嬢』のみが擦り込まれてしまいました。
「おかぁさまはー、あくやくれーじょぉ!」
「あぁ、そうだよ。お母様は、可愛い可愛い悪役令嬢だったんだよ」
――――えぇぇ!?
私、悪役令嬢でしたの……?
―― fin ――
はい、って事で『わた悪』(と略してみたけど、なんかいい略称あったら下さい)完結です!
いつもの長編よりはちょい短めでしたー。
お付き合い、ありがとうございました!
またいつか何かの作品でお会いできたらうれしいです。
笛路




