2:わたくし、嫌われていましたの……?
「私、悪役令嬢でしたの……?」
「はいっ!」
夜会で苛烈なご令嬢を見て、『悪役令嬢』のようだと言いましたら、まさかの身内からのカウンター。
しかもハッキリと張り切って返事しやがりましたわ。
いや、まさかね? と、友人たちに視線を向けますと、苦笑い&半笑いされてしまいました。
「いえ、その……あのお方よりはまろやかなのですが……ねぇ?」
「え……あー。はい、あそこまで手厳しくはないですわねぇ…………たぶん?」
え? そんなに言葉を濁さないといけないほどですの⁉
「でもぉ…………ユリシーズ様は……」
「「あー……」」
えぇ? その後の言葉を尻すぼみにされると物凄い不安が押し寄せて来るのですが⁉
「あはは! ユリシーズ様、お嬢様のこと大嫌いですからねぇ」
「んなぁ⁉」
え、でも、婚約者……え?
いつもドレスも褒めていただけますし、『可憐で眩い令嬢だから』って照れながら言ってくださって……視線があまり合わないのも、照れているからだって。
「わぉ。そんな言葉で誤魔化されてたんですか」
「え……」
でもでも、いつでも迎えに来てくださいますし、デートで行くお店は必ず私が行きたいところですし。
「エスコートは当たり前で、行くところは私が決めていますよ」
「ほぁえ⁉」
アリアがデート先を決めている⁉
「なっ、なんで?」
「お嬢様が『わたくし、このようなしょみんのものなど、たべとうございませんわっ!』って、初デートの時にユリシーズ様をフルボッコにしてたからですよー」
まって、それ、七歳くらいの時のヤツですわよね?
「まぁ、その後も何度も何度も何度もいちゃもんつけてはユリシーズ様に謝らせてニヤニヤしてたから、ユリシーズ様からデートの場所はこちらで決めて欲しいと申し出があったんですけどねぇ」
……あ。思い出しました。
あの頃のユリシーズ様はとても可愛らしい男の子で、話すたびに頬を染めながらもにこりと笑いかけてくださっていたのです。
私が少し強い言葉を使うと、彼はルビーのような瞳を潤ませながら「ごめんね、イザベル」と謝って、キュッと手を握ってくださるのです。
それが可愛くて可愛くて、愛されてるんだと嬉しくて。
幾度となく彼を困らせていた覚えがあります。
「ちょっとくらいの『かまってちゃん』ならセーフだったんでしょうけど、ねぇ?」
度を過ぎていたらしい私自身の行動によって、ユリシーズ様は私の事がどんどんと苦手になっていったなんて知りませんでした。
しかも、ユリシーズ様の家から何度も婚約解消の相談をされていたなんて。
「そのたびに、旦那様がユリシーズ様を四苦八苦しながら説得していましたよ」
十八歳になったら結婚するというのが両家で交わした約束なのですが、それまでには何とかするから! とお父様が粘ったそうです。
あの、私……あと半年で十八歳なのですが?
『その日までにイザベラがなんとかなるはずがない。やっと婚約解消できる。もう少しの辛抱だ』と何かの耐久レースのように婚約者を続けていたと聞かされ、くらりと立ちくらみがしてきました。
あ…………駄目です……目の前が…………真っ暗。
――――私、嫌われていましたのね。
「わっ! おじょ――――」