18:わたくし、知らなかったのですね……?
手繋ぎで植物園を回り終えたあと、馬車に乗りました。
植物園は貴族街の外れにあったのですが、今度はさらに貴族街から離れて郊外に向かっているそうです。
どこに行くのかと聞いても、ユリシーズ様は教えて下さいませんでした。
馬車の中が静かになって暫く経ったころ、向かい側に座っているユリシーズ様がこちらをジッと見据えていらっしゃいました。
「イザベル」
「はい」
「今日は……いつものように話さないのか?」
いつも、とは……以前の頃のように、という意味ですわよね?
あの頃は、自身の自慢話ばかりしていた気がします。
「あの、質問してもよろしいですか?」
「ん?」
「ユリシーズ様は、お休みの日は何をされているのですか?」
「…………」
あら? とてつもなく怪訝な顔をされてしまいましたわ。
「何故、それを聞く?」
「え……」
だって、何も知らないんですもの。
今まで好き好きと言っていたものの、ユリシーズ様の事を一切知ろうとしていなかったのです。
もちろん表面上というか、一般的に知られているであろうことは、私も知っています。
でも、本当のところはなんにも知らないのです。
「……今の時期は、よく風の通るガゼボに座って本を読んだりしている」
「っ⁉ どんな本ですの?」
「最近は――――」
答えてくださいました!
気になることを聞いたら、普通に答えてもらえるのですね。
どんな格好で寛がれているのでしょうか?
どんなお茶を飲まれているのでしょうか?
お菓子は?
甘いものは好き?
塩っぱいもののほうが好き?
「ふふっ、そんなことを知りたいのか?」
「はいっ!」
「まず――――」
沢山のなんてことないような質問に、ユリシーズ様は真摯に答えて下さいました。
イザベル、イザベル、イザベル…………。
何度も何度も耳元で名前を呼ばれている気がします。
「ん、もうそろそろ着くぞ」
「ひょぇ⁉」
あら、何かに寄りかかっているわね、何だか温かいわね、爽やかないい匂いがするわ。
ぼんやりする頭でそんなことを考えながら、ゆっくりと目蓋を押し上げると――――。
「もっ、申し訳ございませんっ」
ユリシーズ様の肩に寄りかかっていました。
お顔がドン近です! 柑橘のいい匂いがします。すんすんすんすん。……ってちがーう!
勢いよく頭を上げて離れようとしましたら、そっと頭を押さえられて、またユリシーズ様の肩に戻されてしまいました。
「…………もう少しの間は大丈夫だ」
「あっ、ん……」
ユリシーズ様は、押さえた私頭をそっと撫で、その手をスルリスルリと腰に移動させると、クッと力を入れて抱き寄せました。
「チッ…………今、そういう声は反則だ」
――――はいぃぃぃぃぃ⁉
ただただ、あまりにも甘々な空気と行動にびっくりして、息が詰まったような声になっただけなのですが、何故かユリシーズ様に舌打ちされてしまいました。
……悪化しますたぁ(結膜炎)
昨日は調子良かったのになぁ。