16:わたくし、大丈夫ですわよ……?
「ねぇ、変じゃない?」
「はいはい、可愛らしいですよー」
「返事が適当すぎるわよ」
「はいはい、可愛らしいですよー」
アリアに最終チェックをお願いしたのに、まさかのオウム返しでした。
本当に大丈夫なのかしら?
「ほら、もうユリシーズ様が来られる時間ですよ。さっさと下りてサロンに行ってくださいよ」
「もぉー、行くわよっ」
アリアに急き立てられながらサロンに向かいましたら、一人がけソファにお父様が座っていました。
どうしたのでしょうか? お顔が真っ青ですわ。
「…………イザベル」
「はい?」
「いいか、今日のデートでユリシーズの機嫌を損ねたら、終わりだと思いなさい」
「……はぁ?」
お父様が真剣なお顔をして、そんな素っ頓狂な事を言われるので、ちょっと呆れてしまいました。
ユリシーズ様とは相思相愛になったのです!
今日はそんな素敵な出来事を確固たるものにするためのデートなのです。
何なら『初デート』と言っていいほどなのです。
「いやいや、あの愚行をなかったことにするとか……」
「煩いわよ!」
横から不要な間の手を入れてくるアリアを一喝していましたら、お父様がソファから勢い良く立ち上がり、私の両肩を握ると、ガタブルと前後に揺すり始めました。
「ちょ、っっ、ととと、お、と、と、う、ささ、ま、ま」
「よく聞くんだ――――!」
奇跡的に両想いになれたのは素直に喜ばしい。だがしかし、今までの自分を振り返りなさい。今までのユリシーズの反応を思い出しなさい。またあのような態度を取ったならば、瞬く間に破棄されるぞ。元々こちらから頼んだ婚約なのだ、あちらにはわずかばかりの金銭的利点しかない。もういい年なのだから、自身の言動には細心の注意を払いなさい。何のための淑女教育だ。何を学んでいたんだ。くれぐれも、くれぐれも! ユリシーズを怒らせないこと。落胆させないこと。できるな?
「よく息が続きますわね?」
「イーザーベールー?」
「ひゃい! 申し訳ございません! 細心の注意を払いますわ」
「うむ。頑張りなさい」
お父様が肩で息をしながらサロンから出ていかれました。
ノンブレスでのあの長台詞、相当きつかったのでしょう。まだまだお若いとはいえ、なかなかの長さでしたからね。
「ふわぁぁ、全然伝わってないー」
「大丈夫よぉ、だって相思相愛ですもの!」
「…………」
「え、無言⁉ しかも、真顔⁉ え? だって、相思相愛よ、相思相愛! 大丈夫よ?」
――――だ、大丈夫ですわよね?
眼鏡を外したの○太のような目になっている作者(結膜炎)
明日もなんとか、ぎゃんばります!