10:わたくし、イライラしていますの……?
幼い頃の爽やかそうな笑顔のユリシーズ様に、心臓がドンドコドーンです。心臓が破裂してしまいます。
「……どうやら元気なようだな」
またもや軽く微笑まれたあと、踵を返し颯爽と去っていきました。
「あぁ、どうしましょ? どうしましょ⁉ あぁぁぁ!」
「お嬢様、人生の危機です!」
「え……ちょ、何かあったの⁉」
笑顔ビームの余韻に浸ろうとしていましたら、アリアが私の両肩を掴んでガクガクと揺さぶって来ました。
人生の危機というくらいなので相当な危機なのでしょうか。
「お嬢様! ユリシーズ様に『ツンデレ』のお株が奪われてしまっています!」
「…………はい?」
まさかの『ツンデレ』で人生の危機。
ユリシーズ様がツンデレだろうがヤンデレだろうが、私は一切気にしません!
「いや、そういうことではないのですよ」
「はぁ?」
「『ツンデレ』✕『ツンデレ』は、何の生産性もないんですよ⁉ キャラ殺しの設定なんですっ!」
キャラ殺しの設定……まぁ、そう言われると確かに?
って! ちっがーう!
危うくアリアに感化されるところでした。
私たちは生身の人間なのです。
それぞれにしっかりとしたルーツがあって、きちんと自分の意思を持っているのです。
「えぇ? イザベル様が真面目なことを言った……」
何故に驚愕な顔をするのですか。
何故に私の額に手をあてて熱の確認などするのですか。
アリアの手を掴んで、ポイッと投げ捨てました。
「もうっ! あんまり酷いとクビにしますわよ!」
「はいはーい」
全く。
アリアはいっつも返事が軽いんだから。
ユリシーズ様の態度が少しだけ軟化した日から半月、全くもってユリシーズ様にお会いする機会に恵まれませんでした。
「どうしましょう⁉」
なにかにつけて出すようになったお手紙は、返事が二行程度に増えはしましたが、内容としては『手紙を受け取った。そうか、良かったな』だけですが。
それでも、あのときの『そうか』という三文字よりはかなり前進です。
……前進していると思いたいです。
「再来週は王城での夜会がありますから、ユリシーズ様も出席されるのでは?」
王城での夜会は全員参加が基本です。
ユリシーズ様たちのような騎士団所属の貴族は、交代交代に参加したり、立場などによっては警備の任務は休まれます。
「今回は交互で参加されるはずよ」
だって、 私のエスコートしなくて良くなるんですもの。
警備の任務と交互での参加の場合は、エスコートする暇がないので、王城での待ち合わせになります。
私はお父様とお母様と一緒に、王城に向かうことになるでしょう。
「あんらぁ? お嬢様、なんだかネガティブになってますねぇ?」
「っ…………だって」
あの素敵な笑顔を見せてくださった日以来、お逢いできていないから、ユリシーズ様の中に芽生えた『何か』は、きっと消えてしまっているはずです。
また諸悪の根源を見るような目で睨まれてしまうのですわ……。
「えー? えっと、お気を確かに?」
「何よ! そんな雑な慰めなんていらないわよ!」
「あらぁ、また見事にツンしちゃって」
「煩いわよ!」
「はいはい、すんませんすんません」
もうっ! ほんとうに、アリアの適当な謝罪にはイライラしてしまいますわっ!
19時更新成功っっ!
明日もきっと19時に更新します!
【追記・改】
諸事情により、更新が出来なくなりました。
更新は明日、朝10時と夕方の19時に更新します!