魔法使いメメキュア~ブラックパーティにいる為、凄いんです肌荒れが~
百年の封印から目覚めた世界最強のモンスター・大魔王ゼルガーザ。
ゼルガーザの元で訓練され統制の取れた比類なき軍隊となったモンスターたちは、アヴァトラハン王国へ侵攻を開始した。
王国の危機に、誇り高き勇者たちがパーティを組み立ち上がった。
私の名はメメキュア、職業は魔法使い。
勇者ゴル、武闘家タッサンのパーティに参加し大魔王ゼルガーザ討伐の過酷な旅に出た。
そんな私の目下の悩みは『肌荒れ』である。
本当に凄いんです、肌荒れが。
私は魔法学校を卒業したばかりの20歳の女子。
在学中に、いくつものパーティの入団試験を受けたが、悉く落とされ唯一受かったのがゴルさんのパーティだけだった。自分で言うのも悲しくなるが成績は学年最下位、雇ってもらえるだけでも有難い話だと諦めに近い状態で、契約を結んだ。
しかし「さては、この人たちヤバイ奴らだ」
と、気づくのに三秒も必要なかった。
ゴルさんは「ロイヤルファミリーの一員になって権力を握る」という野望を持っている。
その為、大魔王を倒し名を上げて、誰でも良いので王族の娘と結婚しよう企むヤバイ奴である。
タッサンさんは「ステゴロで世界一最強の男になる」という野望を持っている。
気合と根性で全て解決しようとする脳まで筋肉でできているヤバイ奴である。
私といえば、2年間も魔法学校に通って使えるようになった攻撃魔法は火属性の『ファイヤー』のみ。どう考えても魔法の才能がない。
私は私で十分ヤバイ奴ではある。
ヤバイ奴の集まりである、このパーティの一番の問題は「戦闘環境」である。
戦闘中の作戦が『捨て身でガンガンぶちかます!』のみ。
チームでの連携などなく、出たとこ勝負で各々で戦う。
一方、モンスターたちといえば訓練を積み統制も取れ戦術に長けた見事な攻撃を仕掛けてくる。
その為、パーティの勝率はわずか10パーセントほど。大抵命からがら逃げて終わってしまうのでレベルアップもままならない。
しかも炎天下の中でも嵐の中でも野営しながら連日徹夜してでも戦い続ける。
極度の肉体疲労とストレス、高脂肪、高コレステロールの偏った食事……そして私の問題ではあるが、唯一使える攻撃魔法の「ファイヤー」は火属性なので当然熱い。高熱を間近で受け続ける肌は、更に乾燥し潤いなどなくなっていく。
肌荒れに必要な要素、全てを満たす生活を送り続けた結果、肌はボロボロになっていた。
思春期の時より大きなニキビができた日、もはや耐えきれなくなった私は「週に1日は休みませんか?」と、切り出しそうになった事がある。
そんな時「王国の危機に休むのか?」と、私の中の強くて格好良い私が問いかけてくる。
少なくとも王国より認可の降りているパーティに参加し報酬を頂いている。
私は世界を救う責任がある。肌荒れごときで愚痴ってどうする。
これでいい、自分の事などどうでもいい。
そう言い聞かせ私は今日も戦地に向かう。
だが、何故だろう。
肌の調子が悪い時に限って好きな人が現れるのが私の人生だ。
私は回復系の魔法が使えない。
その為パーティで使う薬草、聖水などは薬屋で購入している。正確には自腹で買わされているが、これしきの事は気にしなくなった。
ある日、ウタエリ村にある薬屋に訪れた。
そこに彼はいた。
名はアゼーファ、22歳。
どう見ても私より肌が白く綺麗だ、そして国宝級のイケメンなのだ。
荒れた肌を見られたくないと、私はずっと俯きながら薬草を購入した。
どう見ても不審者である。
しかしアゼーファさんは、そんな私に、
「これ良かったら使ってみてください」
と、スキンケアのサンプルをくれた。
アゼーファさんは「モンスターと戦う女性たちの肌を守りたい」と独自に調合した洗顔、化粧水、乳液などを製造しているそうだ。
しかも無料でプレゼント。
何だ、このとんでもないイケメン。
「王国の為に戦いに明け暮れて痛めた肌……誇り高く美しい肌です。でも元の肌はもっと美しいというのは見ればわかります」
私は異性から優しくされた事が久しぶりだった為、おかしなテンションになってしまった。
「戦場でいつ死ぬかわかりません。ただ私はいつでも誇り高く美しくありたいと思っています」
何を言っているのか自分でもわからないが、私は完全に乙女になってしまった。
「メメキュアさんの肌に合うスキンケア化粧品、作らせてもらえませんか?」
アゼーファさんの紳士的な穏やかな口調に、肌と心が潤っていくような気がした。
私は必死に涙を堪えながら
「痛み入ります」
とだけ応え、頭を下げた。
そしてアゼーファさんからもらったスキンケア化粧品を使い続けた所、お世辞でなく肌の調子が少しずつ良くなった。
私は嬉しくなり何かと理由をつけてアゼーファさんの薬屋に立ち寄るようになった。
何よりただ話すだけで安らぎとドキドキの気持ちを同時に感じさせてくれる人がこの世界にいた事に驚きを隠せなかった。
パーティに入った時点で死ぬ覚悟はできていた。
ただ今は死ぬのが怖い、死にたくない。
「魔法使いを辞めようか」
……私の中の腑抜けの私がつぶやく。
そんなある日、アゼーファさんが何の利益にもならないのにスキンケア商品を作り続ける本当の理由を話てくれた。
「大魔王ゼルガーザが復活して最初に襲われた村に僕はいました。そして唯一生き残ってしまったんです」
少し悲しそうな表情を浮かべていた。
「腕力はない魔法も使えない、そんな僕ではモンスターと戦う事ができません。だからせめて戦う人たちを支える、それが自分の戦い方だと思ったんです」
私はアゼーファさんの気持ちに応えなければいけないと思った。
「奪われた平和を取り戻す」と決めて魔法学校に入学した、あの日の気持ちが、消えかけそうになった情熱が再び目覚めた。
大魔王ゼルガーザを倒す為に、まずはこのパーティの戦闘環境を改善しなければいけない。
私は誰と戦っているのかよくわからなくなったが、これしきの事は気にしていられない。
私はゴルさんとタッサンさんに戦闘環境の改善を熱量多めで訴えた。
「モンスターたちは訓練され統制の取れた組織です。それに対して捨て身でガンガンぶちかます!などという非効率的な戦い方はやめるべきです!三人の長所を活かし、また短所は補うような戦術を考えて戦うべきです!」
こいつ何言いだした?的な表情で私を見るゴルさんとタッサンさん。
怯まずに私は続けた。
「ゴルさんは格好良いという理由だけで長さが2メートルはある大剣を持っていますが、使いこなせていません。普通の剣を使うほうが遥かに戦いやすいと思います。タッサンさんは、素手で闘うだけでなく、モンスターの種類によっては鉄の爪やヌンチャクなども使い臨機応変に戦う方が良いと思います!」
そして私の活かし方だ。
「火属性の魔法を活かす為には、ダンジョンにいる光に弱いモンスター、森にいる火に弱いモンスターと戦うようにすればいいと思います!」
私は決して紫外線から肌を守る為に、ダンジョンや森を選んでいる事は口に出さないようにした。
「はぁ?二度としゃべんな」
と、ゴルさんが2メートルの剣を抜き、剣先を私の首元に向ける。
「な・ん・や?」
と、タッサンさんが拳をボキボキと鳴らしている。
これは正義の味方のリアクションではない。
狂気に満ちた勇者と武闘家だ、一筋縄ではいかないとは私とて想定していた。
そこで、恐ろしくシンプルな話にした。
「噂で聞いたんですが、魔王城の近くまでたどり着いたパーティが出てきたそうです。このままだと先を越されます。お二人の野望はその時点で終わります。それでいいのですか?」
この説得が一番効果があった。
野望の為なら、どんな手を使ってでも大魔王を倒すと決めていた2人だ。
全員で意見を出し合い、早期のレベルアップを図る戦略を考えた。
ゴルさんとタッサンさんは元々勇者、武闘家としてポテンシャルはアホみたいに高い。
恐らくモンスターたちもちょっと引くくらい高い。
パーティとして連携の取れた戦いをすれば最強のパーティになれると私は信じて疑わなかった。
そして戦闘環境の改善により今まで倒せなかったモンスターたちも倒せるようになった。
3人は着実にレベルアップしていった。
そして肌荒れの根本的問題であった戦闘環境の改善により肌も綺麗になっていった。
大魔王ゼルガーザと戦えるレベルまでたどり着いた私たちは、遂に魔王城へ向かう事を決意する。
もしかすると生きては帰って来れないかもしれない……。
最後にアゼーファさんに会いたいと、出発前に薬屋に立ち寄った。
「肌、綺麗になりましたね。メメキュアさん」
いつものように紳士的な穏やかな口調で、アゼーファさんが言った。
私は人生で一番の笑顔になれた。
大魔王ゼルガーザを倒すまでは、肌荒れとの長い戦いも続くだろう。
でも私は決して負けない。
奪われた平和を取り戻すのだ。
そしてまたアゼーファさんに会いにこよう、もっと綺麗になって。
終
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