彼女ができたんだ
こちらは百物語六十六話になります。
山ン本怪談百物語↓
https://ncode.syosetu.com/s8993f/
感想やご意見もお待ちしております!
「俺、彼女ができたんだ」
友人のSから楽しそうな声で電話がかかってきた。
「へぇ、よかったじゃん。今度俺にも紹介してくれよ」
モテないことで有名だったSに、やっと彼女ができたらしい。最初は冗談かと思っていたが、詳しく話を聞いてみるとそうじゃないらしい。
「今日は部屋で2人っきりなんだ。よければ遊びに来いよ!」
俺は仲の良い友人のTとKに声をかけると、一緒にSの住むマンションへ遊びに行くことにした。
「Sの彼女ってどんな子かなぁ」
マンションへ向かう間も、俺たちの話題はそればっかりだ。
「おい、S!みんなで来てやったぞ!」
マンションへ到着すると、俺たちはすぐにSの部屋へ向かった。
「おう、よく来てくれたな」
Sが笑顔で俺たちを出迎えた。いつも通りのヒゲ面にボロボロの部屋着。まるで女っ気を感じないいつものSだ。
「えっと…彼女さんは…?」
Sは近くに置かれていたゴミ袋を整理しながら、照れくさそうに話を始めた。
「いやぁ、奥の部屋にいるんだけどさぁ…みんなくるって話したら恥ずかしがっちゃって…」
Sはそう言うと、奥の寝室を指さした。
「ちょっとでいいからさぁ。俺たちにも挨拶させてくれよ」
俺たちの言葉にSは少し困ったような表情を見せたが、しばらくすると俺たちを寝室の扉の前へ連れて行ってくれた。
「ちょっとだけだぞ?おーい…」
Sが寝室の扉をノックした後、ゆっくりと扉を開いた。
「あの、すみません…俺たちSの友達で…えっ?」
部屋に入った瞬間、部屋の奥に設置されている一人用のソファに座る女性を見つけた。
「友達が来てくれたんだ。ちょっとくらい挨拶してもいいだろ?」
Sが女性に向かって声をかけているが、女性は反応するどころか微動だにしていない。
「ちょっと恥ずかしがり屋なんだよ。あんまり気にしないでくれ」
Sは女性に近づくと、女性の肩へゆっくりと手を置いた。
しかし、そんなことよりも…
「おいS…彼女さん…どうして帽子とサングラスつけてんの…?」
俺たちは女性の「身なり」が気になって仕方がなかった。女性は帽子とサングラス、そして大きなマスクをつけており、ほとんど肌が見えない長袖シャツと長ズボンという格好だったのだ。
「部屋の中なんだからさぁ、帽子くらいは…」
そう言ってみたが、女性は何も答えない。反応もない。
「恥ずかしがり屋なんだよ。気にしないでくれ」
Sが女性の頭に手を置いた瞬間、サングラスが少しだけずれてしまった。
「えっ?」
その時、俺たちは見てしまった。
サングラスの奥にあるはずの目がなかったのだ。
なんというか、あるはずの「瞳」がなかったのだ。
「お、おい…その人…」
そのことをSに説明しようとしたのだが…
「恥ずかしがり屋なんだよ。気にしないでくれ」
Sは虚ろな目で先程から同じ言葉を呟いている。
そして…
ガコンっ!
今度は女性の右腕が床に落ちた。
「あぁ、気にしないでくれ。彼女恥ずかしがり屋なんだ」
普通ではなかった。
薄々気づいてはいたが、女性は「人間」ではなかった。
「なぁ…その彼女とはどこで知り合ったんだ…?」
「んんっ?デパートの廃墟だけど?」
ガチャンっ!
Sがそう言った瞬間「マネキン人形」の首が床に向かって転げ落ちていった。
「お前…冗談はやめろよっ!?」
「おいおいなんじゃそりゃ…」
あまりの衝撃に、俺たちはその場から一歩も動くことができない。一方、Sはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていた。
「気にしないでくれ。彼女恥ずかし…」
Sが再び同じことを言い始めた途端、思いもよらぬことが俺たちの目の前で起こった。
「うわぁ!?」
マネキン人形の左腕が突然動き出したかと思えば、Sの右腕をいきなり力強く掴んだのだ。
慌てた俺たちは、急いでSの部屋から飛び出していった。
「気にしないでくれ…彼女…恥ずかしがり屋なんだ…」
これを最後に、Sは行方不明になってしまった。
あれから数年経ったけど、未だにSは見つかっていない…
どうも 作者の山ン本です。
今年の投稿はこれで最後になりそうです。
仕事が忙しくて大変な時もありましたが、色々なお話を書くことができました!
来年もたくさん怪談を書いていく予定なので、よろしくお願いします!