朝、お味噌汁を飲む二人は
コロナ前の設定です。
味噌汁にはそれぞれ家庭の味があって、落ち着く味は人によって違うものだと思う。
「あー……うま。やっぱ朝は味噌汁だわあ、最高。落ち着く。これ毎日飲みたい。あ、おかわりある?」
目の前の男には、きっとどんな味でも関係無いんだろう。などと取り留めもなく考えるのは、寝不足のせいか。ヘラヘラ笑う男をジト目で見やる。
「塩分取り過ぎるよ」
「まだ若いから大丈夫ですぅ。だってうまいんだもん」
美味いに決まってる。わざわざ出汁を取ったんだから。いつもこんな味噌汁出てくると思うなよ。粉末使うに決まってる。
味噌汁を注ぎながら、昨日の夜を思い出す。
金曜の深夜25時。家で映画2本を見終えて寝ようと思った時、スマホが鳴って飛び上がった。ホラー映画の続きかと慄き、恐る恐る画面を見てまた心臓が飛び跳ねた。
「あ、もしもし?ごめん、こんな時間に。えーっと、ほんとごめんなんだけど、今日泊めてくれない?」
「は?」
ものすごく動揺した。断るという選択肢を思いつかないくらいには。
いそいそと部屋を片付け、来客用の布団を出し、眉を描いて色付きリップを塗った自分に、今なら言いたい。馬鹿なのかと。
幼い頃から家族ぐるみで仲が良く、所謂幼馴染というやつだ。小学生の頃はそれなりに遊んだが、中学になると時々になり、高校は別だったので家族イベントの時くらいにしか会わなくなった。
ぐんと背が伸びたあいつは急に男っぽくなって、話しかけ辛くて、私は素っ気ない態度を取るようになってしまったのに、あいつはヘラヘラしながらこちらの領域にずかずかと入り込んで来た。
春、同じ大学だったのには驚いた。何が悲しくてリア充の幼馴染を間近で見なきゃならんのかと思っていたのに、何が面白いのかやたら絡んで来るようになった。
そこで、これだ。
「ごめん。お前くらいしか頼れなくてさ。サークルの飲み会?連れてかれて。何とか飲まずに躱したけど、気づいたらこんな時間で……」
「……おつかれ。布団ひいたし、寝たら?」
「……うん。ありがとー」
ヘラヘラしてそうで、実は真面目で気遣い屋なこの男の疲れた顔に、他に何も言えなかった。
「マジで美味しかった。ごちそーさま」
「もうそんなとこやめなよ。こんなこと、何度もあっても困るし」
茶碗を下げながら、赤らむ顔を隠す。
「あと、毎日食べたいとか言うと、いつか本気にされて困るよ」
「困らないよ。俺、本気だもん」
振り返った目に映った男は、真剣な顔をしていた。
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