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ギリギリ! 俺勇者、39歳!  作者: 綾部 響
6.女王の棲み処
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その先を目指して

魔物との共生ってのは、普通の冒険者の感覚にはないものだ。

それにこの考え方は、色々と形を変えてあるからな。

今後の為にも、そういった事を理解して貰う必要があるな。

 人族と魔物が共存する。そんな聞きなれない事に、クリーク達は今一つ納得出来ないようだった。

 まぁ、普段は倒すべき存在としてしか見る事が出来ないからな。何か事例をもって説明するのが一番手っ取り早いんだがさて……。


「例えば、人が果物を食べてその種を遠くで埋めれば、それは共存となる……でしょうか?」


 なんて考えてたら、イルマが上手い例えを披露してくれた。俺の思いついた事では多分クリーク達を更に混乱させるだけだったかも知れないから、これくらいの話が分かりやすいだろうか。


「そうだな。人と果実と言えば今回の件とはそぐわないと感じるかも知れないけど、確かにそれも共生だ。自力で遠くに種を運ぶ事の出来ない植物の実は、人や動物にその実を食べて貰う事で生存圏を広げ種の存続を図っている。所謂〝持ちつ持たれつ〟の関係な訳だ」


 イルマの話を更に詳しく説明すると、それで漸くクリーク達にも何となく想像出来たんだろう。


「なるほど!」「それなら、分かりますね!」「なるほどねぇ……」


 クリークとダレン、ソルシエは感嘆の声を上げていた。とは言え、クリークがどこまで確りと理解しているのかは疑問だけどな。

 一方でメニーナ達は。


「……うぅん?」


 首を傾げて考え込んでいた。それはルルディアも、表には出さないけどパルネも同じだろうな。

 ただまぁ、ここでこの話だけに時間を使っていても仕方がない。メニーナ達の外の世界に対する経験が圧倒的に少ないなら、それはこれから積んで行けば良い話だしな。


「とにかく、そういった表立って知らされていない事情と言うものが世の中にはあるって話だ。だから、何でも行きつく所まで進めば良いと言う話じゃあないと考えておけ」


「それは、何でも程々にしろって事なのかよ?」


 俺が締め括ろうとした言葉に、クリークが不満気に口にする。まだまだ子供な彼等には、この言い方では誤解を与えるのも仕方が無いか。


「違う。ちゃんと自分たちの力量を考えた上で、冷静に物事を見て判断しろって事だ。今回の事例で言えば、お前たちが最初からこの集落での〝共存〟を事前に知っていれば無理して敢えて『女王の間』へ行こうと言う判断にはならなかったかも知れないって事だ。それによってお前たちの生存率は上がり、この集落にも余計な火種を持ち込まれないで済む。多くの経験を積んでそれを次回に活かす機会も得る事が出来るって話だよ」


「……むぅ」


 無茶や無理でいつでも物事を推し通せるなら、俺だってこんな事は言わない。ただ今回の事で、その先に「死」が待っていると分かれば少しは考えるだろう。

 まだ消化不良のクリークだが、それでもこれ以上の反論はないらしい。


「いいか? 生きるって事は考えるって事だ。別に役割を分けてそれらをイルマやソルシエに任せても良いけど、折角考える事の出来る頭を持ってるんだ。時々は使ってやるのも悪くないだろう?」


 そう言って俺は、この反省会を切り上げようとした。どうせ彼らの事だ。ここで話した事なんか、多分数日後には殆ど覚えちゃいないだろう。


「ひでぇ! それじゃあまるで、俺が何も考えてないみたいじゃんか!」


「……ん? そう言ったから、それで合ってるぞ」


 最後にこのやり取りで、その場にはそれまでとは違う和んだ笑いが起こったんだ。




 その後は、今後の方針についてそれぞれの意見を聞いた。それぞれってのは、クリーク達とメニーナ達の事だな

「ジャイアントアントの巣」では共闘を見せた双方だったけど、戻ってくればその関係も元通りって事みたいだ。

 特にクリークとメニーナの意地の張り合いは顕著で。


「お前には負けないからな!」


「あんたなんか、相手にならないんだから!」


 と、いつの時代でもある定番のやり取りをしていた。

 もっともどちらも、当分の間はこのオルミガの集落に留まって巨蟻族(ジャイアントアント)を相手に経験を積んでいく事になるみたいだけどな。




 それから3日が経過した。その間、俺もこの集落に留まりクリーク達の面倒を見ていた。

 と言っても、それは何もわざわざあいつ等に付いて行ってあれこれと指導する訳じゃあ無く。


「……で、どうだった? 今日のあいつ等の様子は?」


 彼らが取った行動や戦闘の様子を、イルマから逐一報告を受ける為だ。

 そんな事をしなくとも、彼女には遠距離通話が可能な「通信石」を渡してある。これがあれば、余程の事が無い限りイルマから報告を聞きアドバイスを与える事も可能な訳だが。


「ええ、先生。先生の話が余程効果的だったのか、クリーク達も1つのクエストを熟す際にその内容の意味を考えて、それを行動に移すようになっていると思います」


「へぇ……。なら、柄にも無く説教をした甲斐もあったって事かな?」


 俺がイルマの話に肩を竦めて一言洩らすと、彼女はクスっと笑って更に続けた。


「それに、メニーナ達の存在が良い影響になっているみたいですよ? 変に勝ち負けじゃなく、少しでも成長しようって頑張ってます。……勿論、私もですけど」


「そうか。そりゃあ、良い傾向だな。……まぁ、本当ならメニーナ達と一緒に行動してくれれば、俺がここで油を売る必要も無いんだけどなぁ」


 俺がこの集落に留まり続けている理由がそれだ。

 イルマには「通信石」を渡してある以上に、クリーク達の監督役としての効果を期待している。そして彼女は、見事にその役目を熟してくれているんだ。

 正直な話、彼女はかなりの逸材だと言える。この年齢でこの役目を任せる事が出来るなんて、以前の俺のパーティメンバーである「轟炎の重戦士」〝ライアン〟、「暁の聖女」〝マリア〟、「世界の真理」〝エマイラ〟、そして「龍虎王」〝ロン〟であっても無理だったろう。

 クリーク達にはこのイルマがいるが、メニーナ達にはいない。だからその代わりを俺がするしかないって寸法だ。

 いつまでも過保護に見守るつもりは無いが、今は彼女達も本当に駆け出しだからな。強さがあっても、いつ足元を掬われるか知れたもんじゃない。

 俺はここでこの数日、メニーナ達を「使い魔」で見守っていたんだ。

 でもそれも、もう必要ないかも知れない。かなり動き方も分かって来たみたいだし、何よりも準備の大切さを痛感しているみたいだからな。


「私は……先生に近くで見ていただける方が……嬉しいですけど」


 俺の愚痴のような独り言に、イルマがやや顔を上気させて返してきた。彼女がそう言ってくれるのは先生冥利に尽きるってもんだが、俺もここでいつまでものんびりしている訳にはいかないからなぁ。


「ゆうしゃさまあぁっ! たっだいまあぁっ! ……って、あれ? イルマお姉ちゃん?」


 その時、俺の部屋の扉をノックする事も無く、元気いっぱいのメニーナが飛び込んできた。


「ちょっと、メニーナ。ちゃんとノックしなきゃダメじゃない。あ……おとうさん、イルマお姉さん、ただ今戻りました」


「……ただいま帰りました」


 無論、その後にはルルディアとパルネが付いてきていた。彼女達も、今日のクエストは終了したみたいだな。……まぁ、知っていたんだけどね。


「おかえりなさいメニーナちゃん、パルネちゃん、ルルディアちゃん。今日も無事で何よりだわ」


 そんな3人に向けて、イルマは優しい笑みを浮かべて答えていた。その様子は、本当に姉と妹たちと言った風情だ。……まぁ実際は、圧倒的にメニーナたちの方が年上な訳だが。


「……それで? 今日はどうだった? 何か収穫はあったのか?」


「べっつにぃ? いつもと一緒だよ。……ねぇ?」


「……そうねぇ」「……うん」


 そこで俺が彼女達に今日の成果を訪ねた訳だが、返って来た答えは……これだった。


「……な?」


「ふふふ……」


 こいつ等の経験と年齢……精神的なだが、それらを考えれば毎日何か発見があってもおかしくはない。そして、恐らくは何かしらの経験を積んでいる筈なんだ。

 それでもメニーナ達にはその何が経験なのか、どういった事が今後の役に立ち応用していくべき事なのかが分かっちゃいない。これじゃあ、俺が目を離すとまたこの間のような無茶をしでかしかねない。

 俺がイルマに目で合図を送ると、彼女は可笑しそうに笑って返してきた。まぁ、如何にもメニーナ達らしいと言えばそうなんだけどな。


 それでも、俺が四六時中監督するのも明日で終わりだな。メニーナ達の立ち居振る舞いに問題があるって訳じゃあ無く、そろそろ敵として巨蟻族は役不足だ。そしてそれは、クリーク達も同様だな。

 本人たちの思惑は聞いちゃいないが、当面は同じエリアで似たようなクエストを熟していくなら、イルマもいるし何かと様子を知りやすいからな。


 この時までは、俺も軽く考えていた。


 ……まさか、あんな事が起こるなんて思いも依らなかったんだ。


クリーク達とメニーナ達は、そろそろ次の場所を目指すみたいだ。

この次の場所では、一体どんなことをやらかしてくれるのやら……。

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