表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギリギリ! 俺勇者、39歳!  作者: 綾部 響
5.犬猿の遭遇
47/71

妙案の呪法

メニーナ達とクリーク達の仲裁方法は決まった。

それだけじゃあなく、今回のこれは双方に良い経験となるだろう。

そこで問題となるのが……。

 とりあえず、クリーク達とメニーナ達による力比べ対決を行う事は決定した。

 双方には、1日の猶予を置いて実施する事を伝えている。彼等彼女等はこの期間を利用して、それなりに準備を整える筈だ。

 と言ってもそれは、クリーク達に限るんだろうなぁ……。メニーナ達の性格を考えれば、事前準備を怠らないようにするってのは少し考えづらいもんな。

 本当ならば、そういう事は俺が教えてやらないといけない。でも、今回はあえて何も口出ししないと決めている。

 そう言った全体的な経験にも違いがある事を、双方に分からせないといけないからな。


「これ程早く来訪して貰えるとは思わなかったぞ、勇者」


 そして俺は、相談と準備の為に魔界の魔王城へと来ていた。

 俺の目の前には今、玉座に座り鷹揚に俺の事を迎えている魔王リリアがいる。偽りなく歓迎している雰囲気に、湛えられた笑みは和やかそのものだ。


「頻繁に時間を割いてしまってすまないな。思いも依らなかったアクシデントに見舞われて相談に乗って欲しかったんだ」


 温かく迎え入れられているとはいえ、こう何度も顔を出すのは流石に気が引けた。

 互いに重要な事案に対しているとはいえ、片や冒険者として後進の指導に当たっている俺と、片や魔王として魔界の政務を熟しているリリアを比べれば、どちらが多忙なのかは言うまでもない。

 だから俺の返事も、どこか恐縮したものとなっちまったんだが。


「そのように気を揉まないで欲しい、勇者よ。以前にも言ったが、何時でもこの城を訪れてわ……私に会いに来てくれても問題ないのだから」


 俺の言葉を聞いたリリアは、まるで捲し立てるように返してきた。一気に台詞を言い切ったからだろうか、その顔は少し赤くなっている。

 いや、そこまで必死に話さなくてもいいのに。


「感謝する、リリア。実はメニーナたちと例の人界側のメンバーが遭遇したんだが、その時に揉め事を起こしてな。互いの蟠りを解消させる為に、討伐対決をさせる事にしたんだ」


 それでも俺が本題に入ると、彼女はすぐに真顔となって聞き入ってくれた。この辺りの切り替えは流石と言うべきだろうか。


「……ふむ。つまり其方は、双方を監視……と言うよりも、見守る方法が無いか模索していると言う訳だな?」


 そして、一を聞いて十を知る……リリアはそれが出来る優れた女性でもあるんだ。

 今回俺が此処へ来た理由は、正に魔王リリアの発言通り。クリーク達とメニーナ達を同時に見澄ます術を得る為だった。


「俺1人では、どちらか一方しか見る事が出来ないからな。同時に双方の行動を把握出来るアイテムか、もしくは人員を借り受ける事が出来るだろうか?」


 残念ながら、人界で俺が頼る事の出来る人材はいない……いないんだ! 可能性のあるマルシャンは店があるから、こんな事を依頼するのも難しいからな。

 しかし、この魔王城には人員は豊富にいる。……もっとも、その大半を俺が屠ってしまってモウシワケアリマセン。

 でも、リリアは魔王だからな。十二魔神将以外にも優れた人員は手配出来るだろう。


「そ……それならば、私が……!」


「なりませんぞ、魔王様」


 俺の要望に嬉々としてすぐさま応えようとした魔王リリアの出鼻を、この部屋の壁際で控えていた側近であり四天王の一人「魔天王ナダ」が制止した。普段とは違い、今回はこの部屋に四天王の面々も同席している。


「ナ……ナダ。しか……しかしだな」


「魔王様、動く、駄目。魔王様、魔界の統治者」


 重鎮であるナダに宥められ、それでも反論を試みようとしたリリアだったけど、そこへ静かだが重い声で「闇黒魔天王ザラーム」が言葉少なく追い打ちをかけた。

 ダラダラと正論を述べられるよりも、簡潔に言い切られてはリリアもすぐに言い返す事なんて出来ない。


「つまりさぁ。そこの勇者と一緒にそのガキ共を見守る人員が確保出来りゃあ良いって話よね? もしくは、そう出来る手段があれば……」


「おおっ! それなら、この俺様が同行してやるぜっ、おらぁっ! 俺様にかかりゃあ、そのチビッ子たちに傷一つ負わす事はないぜっ、こらぁっ!」


 言い淀んでしまった魔王の代わりに、控えていた「陰影魔天王ウムブラ」が何か提案をしようと話している処へ「混沌魔天王ハオス」が暑苦しく割って入って来た。

 この4人、以前と違い好意的なのは有難いんだが、どうにも堅苦しいんだよなぁ……。ハオスに至っては鬱陶しいし。


「ちょっと、煩いよハオス。まずはあたいの話を聞きな」


「あぁん? 何で俺様がお前の話を聞かなきゃいけないんだ、くらぁっ!」


「二人、静かに。特に、ハオス」


「双方とも、弁えるである。ここは、魔王様の御前であるぞ」


 このところ出番……と言うか活躍出来なかったのが不満なのか、4人はここぞとばかりに発言し主張している。

 行動を起こせるなら、この際子供のお守でも何でもしようって魂胆なのかもな。


「だ……だから、お主たちが出張るくらいならば私が……」


「なりません」「それ、駄目」「ちょおっとそれは……」「無理だっつてんだろぉがようっ!」


 そこへリリアが再度のアタックを試みたんだけど、これは4人同時の防御に阻まれて見事に撃沈してしまっていた。

 最側近の4人にダメだしされちまっては、流石の魔王リリアも無理を通す事は難しいみたいだな。


「それよりもウムブラ。さっきは何だか、他の案もあったみたいだが……」


 このままじゃあ、延々と「誰が行くか」で揉めそうだ。俺としては協力してくれるなら誰が来ても問題無いんだけど、この4人じゃあ最後まで隠密行動を取れなさそうだしなぁ……俺の主観だけど。


「……ああ、そうそう。魔王様、この際そこの勇者に『魔役の呪法(マズニ)』を習得させては如何でしょうか?」


「……『魔役の呪法』?」


「……なるほどな。今回の用途には、正に『魔役の呪法』がピッタリか……」


 ウムブラの口にした言葉に疑問を呈した俺だったが、それは見事にスルーされていた。「魔役の呪法」と言う提案を受けて、リリアは少し考えに耽っていたんだ。

 少なくとも、人界ではこの「魔役の呪法(マズニ)」と言う技法に聞き覚えはない。でも話の流れから考えれば、何か監視に向いている魔法や技術なんだろう。

 それを俺に習得させてくれるって言うんだから、ここは是非とも覚えて帰りたいものなんだが。

 それでも、リリアがここまで悩むって事は、もしかすると結構なリスクが考えられるのかも知れないな。


「……今回は、勇者に『魔役の呪法』を覚えて貰おう。低位で簡単な魔法だから、上手くいけば1日で覚えられるだろうしな」


 でも口を開いたリリアから出て来たのは、何とも肩透かしを食う台詞だった。

 簡単でリスクもなさそうなら、何でリリアは少しばかりでも悩んだんだ?


「ナダよ。初級魔法書がどこかにあったはずだな? それをすぐに用意せよ」


「はっ!」


 そんな俺の疑問を差し置いてリリアはナダにそう命じ、それを受けたナダは短く承諾するとそのままこの場から消え失せた。


「なんだってんだよぉ、くそが。せっかく俺様が出張ってやろうって思ったのによぅ、ぼけがぁ」


 今回の件に解決策が見えた事をハオスも分かったんだろう、さっきまでの威勢は消えてブツブツと愚痴っている。……ったく、本当に口が悪いな。


「黙りなよ、ハオス。魔王様が動かれないで済んだんだから、これで良いでしょう?」


「最善の策」


 そんなハオスを、ウムブラとザラームが窘める。他に妙案もないから、ハオスもそれについて何か反論すると言う事はなかった。


「……勇者よ。今回の件にうってつけの魔法がある。其方には『魔役の呪法(マズニ)』を覚えてもらおうと思っている。それほど難しい魔法ではないが、使用には少し練習が必要だろうから、ここで修練すると良い」


 どこか蚊帳の外に追いやられ気味だった俺に向けて、改めてリリアが説明してくれた。とは言え、そもそもその「魔役の呪法」なる魔法の事を俺は知らないからな。


「その……『魔役の呪法』ってのは、どんな魔法なんだ?」


 だから俺は、至極根本的な質問を彼女へと返したんだ。



どうやら「魔役の呪法」ってのはかなり初歩の魔法みたいだな。

でも、疑問に思う事は幾つかある。

だから俺は、その事をリリアへ問い掛けたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ