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ギリギリ! 俺勇者、39歳!  作者: 綾部 響
1.秋嵐の古塔
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初体験

圧倒的な攻撃力を見せるメニーナとパルネの進撃は続く。

これじゃあ、俺の目論見は達せられないんだよなぁ。

 ……まいったな。

 とりあえず全5階層からなるこの「トーへの塔」の最上階を目指し、途中で出くわすであろう魔獣たちとの戦闘を見てメニーナとアカパルネの戦闘能力を測ろうと思っていたんだが……。


「たぁっ!」


「……氷魔法(グラス)


 俺の目の前では、まるで遊んでいるかのようなメニーナの振り下ろした剣で「牙猫(ファングキャット)」が見事に真っ二つにされていた。

 そうかと思えばその反対側では、パルネの恐々とはなった氷属性魔法によって、やはりファングキャットが無数の氷礫に貫かれて原形を留めない状態で床に転がっていたんだ。

 彼女達には、まるで全力を出しているみたいには見えない。それどころか息切れ一つ漏らさず、汗の一滴さえ零していない。


「ゆうしゃさま、これで良かった?」


「ゆ……ゆうしゃさま、変じゃ……無かったですか?」


 ファングキャットも、決して強いと言える魔獣じゃない。あえて言うならこの塔に挑むレベルの者なら、単騎での戦闘は避けるほどだろうか。

 今のクリークやダレンだって、苦戦とまではいかなくても倒すのにはそれなりに時間が掛る筈だ。

 それをこの2人は、まるで手こずるような事も無く倒して見せたんだ。


「あ……ああ。2人とも、凄いぞ」


 これじゃあ、メニーナたちの能力査定にさえなりゃしない。

 こんな事なら安全策なんて取らずに、もう少し先の地下迷宮なり塔や古城で腕試しをさせるんだったなぁ。

 もしもこのままこの塔の攻略に変化がなければ早々にここから去っても良かったんだが、ここから先……4階と5階には|これまでとは少し違う・・・・・・・・・・・が出てくるんだ。


「でも、最後まで何が起こるか分からないからな。決して気を緩めるんじゃあないぞ」


 そう……。ここで圧倒的な力を見せているメニーナとパルネが、未だ経験した事のない攻撃。上階の魔物は、それを積極的に使ってくるはずだ。

 勿論、悪質で厄介なものと言う程じゃあない。だからこそ、クリークたちにも攻略出来たんだからな。

 それでも、初めて今までになかった攻撃を受ければ勝手が違い戸惑うもんだ。


「はぁい」


「……はい」


 俺の注意喚起にも、調子に乗っているメニーナは緊張感を漲らせる様な事は無く生返事で、あのパルネさえおびえた感じは伺えない。

 彼女たちはきっと、ここまでの戦闘でこの塔のレベルって奴を勝手に判断しちまったんだな。

 これは、まずい兆候だ。

 魔獣や敵の巣喰う場所と言うのは、大抵が奥に進むほど強くなる。

 入り口付近の敵に楽勝だからと言って、そこを攻略出来るかどうかと言えばそんな事は無いんだ。

 勿論その逆もありうる訳だが、そんな事は本当に稀だ。今のメニーナとパルネには、その判断が付かないんだな。

 そう言った慎重に行動するって事を、この上の階層での戦闘で気付いてくれれば良いんだが……。

 俺は2人を促して、更に上へと続く階段へと向かったんだ。




 4階での戦闘でも、残念ながらメニーナとパルネが苦戦する様な事は一切なかった。

 圧倒的過ぎる2人の攻撃力では、戦闘と呼ぶにもおこがましい一方的な戦いが行われるだけだったんだ。

 しかも、実際に魔物との戦闘はたったの1回だけだったからなぁ。

 戦いで気分が高揚した2人の気勢を感じて、殆どの魔物どもは近寄ってすら来なかった。

 これじゃあ、2人の戦いぶりを観察するどころじゃあないよな。

 と言う訳で、何ともあっさりと俺たちは最上階へと向かう階段を上っていた。


「ねぇねぇ、ゆうしゃさまぁ。次で最後なんだよね?」


「あ……ああ。そうだな」


 階段を進みながら、メニーナは俺にそんな事を問い掛けて来た。

 その声音には、完全に「冒険」と言うものを舐め切っている雰囲気すらある。

 でもそれに対して、今は俺が何かを言ってやる事も出来ない。

 実際彼女たちは冒険……危険を冒している気持ちなんて抱いていないんだろうからな。


「何だか、簡単だったよねぇ。ね、パルネ?」


「……うん」


 それを立証するようにメニーナがパルネに話しかけ、パルネはコクコクと頷いて同意していた。

 ……ダメだ。これじゃあ、ダメなんだ。

 そうは言っても、だからって俺が相手してやる訳にもいかない。

 それなら、わざわざこのトーへの塔になんて来る必要ないし、彼女達の経験にもならないからな。

 折角この塔で経験を積ませようってんだから、せめて冒険に緊張感を持てる事態があって欲しいんだが……。

 ただこの最上階にいる「奴」なら、少しはメニーナたちも焦りを覚えてくれるに違いない。

 俺は懇願する気持ちを抱きつつ、彼女達と共に最上階へと到達したんだ。




 ついに到着したトーへの塔最上階。

 主たる目的は、ここにある「到達の証」を持ち帰る事にある。

 そうする事でこの塔を攻略したと言う証明にもなるし、ある程度の纏まった資金が手に入るんだ。

 まぁ、今の彼女達にお金が早急に必要ではないんだけどな。

 長老がメニーナとパルネに持たせた宝石は、換金すれば結構な額になる。

 魔界の通貨は人界で使えないけど、宝石の類は十分にお金に出来るからな。

 他の新人冒険者みたいに、是が非でも欲しいものじゃあ無いんだ。

 目標として「到達の証」を設定していても、本当の狙いは戦いの経験だ。

 そして俺たちの前に、巨大な怪物が出現した! 

 でもそれこそが、俺の探していた魔獣でもあったんだ!


 ―――鱗翅(りんし)族死蝶 デスパピヨン。


 巨大な4枚の羽根を持つ、大きな蛾の化け物だ。

 駆け出し冒険者には格好の得物となる芋虫の魔獣「キャタピラー」の成虫体であり、この塔では最強の魔獣でもある所謂ボス的な存在だ。


「うわぁ……。大きな蝶々」


「違うよ、メニーナ……。あれは……蛾だよ」


 だけどそんな魔獣を前にしても2人に慌てた様子もなく、普段と変わりない落ち着きようだった。

 意外だったのはパルネの方で、俺はもっと怯えるかと思っていたんだが……全然そんな事ないな。

 デスパピヨンを見上げながら、メニーナとパルネはそんな軽口を叩きあっていたんだ。

 でもこいつは、空を飛ぶただデカいだけの怪物じゃあない。実はこいつには、厄介な能力(・・・・・)があるんだ。


「それじゃあ、ゆうしゃさま!」


 ただ見合っていても埒はあかない。こいつを倒す事で、道は開けるんだからな。


「ああ、やってみろ」


「うん! ……パルネ!」


 だから俺は、背中を押すように強い言葉を投げ掛けた。

 それを聞いたメニーナは元気よく返事をして駆け出し、それと同時に相棒のパルネにも合図を送る。

 パルネの方はそんなメニーナに返答せず、強く頷き彼女に続いたんだ。


 戦闘は、メニーナと死蝶との接敵で始まった。

 後衛であるパルネは、どうしたってまずはメニーナの動きをトレースするところから始まるし、メニーナが突っ込んじまったら先制攻撃も儘ならないんだから仕方ないよな。

 でもそれを見て、俺は実は安堵していた。

 空中を舞うデスパピヨンを相手に、さすがのメニーナも1撃で仕留める事なんて出来ない。強撃を振るうタイミングを得られないんだから、それも当然だよな。

 だけど、それこそが俺の望む構図だったんだ。

 あっさりと決着がついちまっては、彼女達の体験になりゃしないからな。


「もうっ、こんにゃろっ! 降りてきなさいっての!」


 上昇と下降を繰り返しメニーナを牽制する死蝶を相手に、メニーナはピョンピョンと飛び回って剣を振り回し、何とか奴を地面に叩きつけようと躍起になっている。それで結局、パルネも手を出せないでいた。

 それぞれ個々の能力が高過ぎて、メニーナには周囲を見る眼を養い仲間に頼ると言う事が出来ていない。

 そうこうする内に、いよいよ俺の期待していた瞬間が訪れた!


「な……なに、これ!? ……粉!? もう、何なの……って……」


 デスパピヨンを中空から引き摺り下ろせなかったメニーナは、至近距離で奴の「鱗粉」をもろに浴び……驚きの声を上げたと思ったらその場に倒れこんだ!


 俺が期待していた、怪物の使用する「特殊攻撃」だ!

 それは、メニーナたちが初めて体験する事だったんだ!


デスパピヨンの特殊攻撃で、メニーナは睡眠状態に陥った!

敵の固有攻撃を受けるのは、彼女達もこれが初めてだろう。

さて……2人はこのピンチをどうするのかな?

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