表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギリギリ! 俺勇者、39歳!  作者: 綾部 響
3.聖霊神殿へ
39/71

女の対決

リリアが正式にルルディアの事を許したことで、場の雰囲気は和やかなものとなっていた。

でも俺はここへ、ルルディアの助命に来た訳じゃあ無いからな。

 デジール族を牛耳っていたアヴィド。その庇護下にあったルルディアの事は不問となった。

 もっとも、専横していたのはアヴィドであって、ルルディアには何の罪も無いんだ。この結果は当然だろうな。

 それでも、ルルディアにはそれなりに思う処があったようだった。

 彼の庇護下にあり、アヴィドがデジール族を支配するのに少なからず手を貸していたという罪悪感がこれまで彼女の枷になっていたんだろうなぁ。

 魔王に無罪放免を言い渡されて、ルルディアの表情にも安堵の色がありありと浮かび上がっていた。


「それで、勇者よ。そなたには、この者らを私に紹介する以外にも要件があるのだろう?」


 安堵の空気が流れる中、魔王リリアは普段とは異なり声を引き締めて俺に問い質してきた。

 それに対して、俺も最低限失礼のないように背筋を伸ばして正対する。


 魔王リリアがメニーナたちに王として接したのは、偏に彼女達が勘違いしない為だ。

 いや、何も本当にメニーナたちがリリアに対して身分を無視した接し方をするなんて思っちゃあいない。

 さっきの彼女達の反応を見る限り魔王はこの世界でも絶大の権力を持っており、それは老若男女問わずに認識する処なんだろう。

 だけどもしも俺との対応が砕けたものだったら、メニーナたちが思い違いをするかも知れない。もしかすると、気安く接するなんて事も考えられる。

 そうなるとリリアの心情は兎も角、他の者に示しがつかないからな。……四天王あたりは大騒ぎしそうだ。

 そんな事が無いように、今はリリアに対して俺も最低限の礼節は弁えないといけないんだ。


「はい、魔王様。実は、新たに同行する事となりましたこのルルディアの為にも、以前作っていただきました『変化の首輪』をもう一度作成願いたいのですが」


 彼女を前にして片膝をつく……なんてわざとらしい事はしないものの、俺は恭しく丁寧な言葉遣いでここに来た目的を口にした。

 最初から危惧していた訳ではなかったけど、これでルルディアも大手を振って俺たちと一緒に行動する事が出来るようになった。

 そこで問題となるのは考えるまでもなく、人界に行った場合の彼女の容姿だ。

 メニーナみたいに角や羽根が生えている訳でもないので、もしも本性がバレてもすぐには騒がれないかも知れない。

 でも彼女の美しい髪や瞳の色は、やっぱり人族のそれと同じとは言い難い。魔族とバレなくとも、見た目から想像出来る年齢とのギャップで余計な問題を引き寄せるかも知れないからな。

 と言う訳でここに来た目的は、ルルディアの為に既にメニーナたちが持っている「変化の首輪」を魔王リリアから授かる為だったんだ。


「ふむ……なるほど。確かに、そこのルルディアにも『変化の首輪』は必要だろうな。……しかし」


 その事を俺が彼女へ説明すると、魔王リリアは少し考えこんだが理解を示してくれた。

 当面、行動の大半は人界で行われるだろう。

 今はまだ、その時じゃあ無い(・・・・・・・・)からな。魔族と人族の余計ないざこざ(・・・・)は避けたい処なんだ。

 俺の意見に概ね賛成だと思ったんだけど、リリアの言葉尻には何か懸念があるみたいだった。


「……魔法(エーテル)石が足らないのですか?」


 リリアが言い淀む理由として最も考えられるのは、やっぱり材料の不足だろうか。

 この「変化の首輪」の主となる材料は、魔界では生成出来ない「魔法石」が必要なんだ。これが無いと、いくらリリアでも目的の物を作り出す事は出来ないからな。


「……いや、そんな事は。……あ、そうそう。確かに魔法石が不足していたような……」


 俺の質問に、リリアはどこかシドロモドロとなって返答した。

 やっぱり、魔法石が足りなくなっていたか。

 前回俺が持ってきたのは少量だったからな。メニーナとパルネの分を作っちまったら、追加で製作するには不足していたんだろう。


「それでは、早速人界へと戻って魔法(エーテル)石を用立てに……」


「……ふむ。実は、その事で相談したいのだが時間を作れるだろうか?」


 俺は早急に人界で魔法石を手に入れて来るって言おうとしたんだが、リリアにそれを遮られちまった。

 もっともそれは否定や拒否じゃあ無くて、これからの予定に関する話があるみたいだ。もしもリリアに何か懸念があるんなら、話をして擦り合わせる必要がある。


「ええ、構いません。それで、どう言った事でしょう?」


 俺はその場で、リリアに相談内容を訊ねた。

 リリアからの用談だからな。可能な限り早急に聞いてやりたい。

 ……って思ったんだが。


「いや……その……。出来れば、2人だけで話せないだろうか? メニーナたちには別室を用意するので、そこで休んでいてもらうとして……だ」


 どうやら、ここでは話せない内容みたいだった。でも、そんな事もあるかも知れないな。

 彼女は魔界を統治する魔王であり、様々な治世に関する難問も出てくるだろう。

 それに俺たちは、それぞれ人界魔界を代表する存在だと言っても過言じゃあない。

 そんな2人が会談するんだ。中には例えメニーナたちにも聞かれたくない事だってあるだろう。


「ならメニーナ、パルネ、ルルディア。お前たちは別室で……」


「えぇ―――っ!? 何で私たちが他の部屋で待ってなきゃいけないのぉ―――!?」


 俺がリリアの提案に承諾しようとすると、それまで行儀よく静かにしていたメニーナが突然大声を上げて不平を鳴らしたんだ。

 驚いて俺が彼女の方を見ると、不満だったのはメニーナだけじゃあ無かったみたいだ。パルネとルルディアも、不服顔で魔王リリアの方を見ている。

 ……って言うか、睨みつけている?

 さっきまでは殊勝な態度だったってのに、一体どうしたってんだ?


「お……おい、お前たち。一体、どうした……」


「……魔王様。私たちもその『魔法石』と言うものに興味があります。もしも宜しければ、後学の為にその話の内容を傍でお聞きする無礼をお許し願えないでしょうか?」


 ビックリした俺が彼女達を宥めようとするも、その言葉を遮ってルルディアが魔王に要望を伝えたんだ。

 その口調こそ慇懃なものなんだけど、彼女の発する雰囲気はとても友好的なものじゃあ無かった。……一体、どうしちまったんだ?


「……いや、悪いが今回は遠慮して貰えないだろうか? これはその……私とゆ……勇者の、2人だけの話なのでな」


「……魔王様?」


 それに対して、リリアもキッパリと拒否表明をする。それに俺は、思わず彼女の方へと顔を向けていたんだ。

 普段のリリアならば、彼女達のこんな要求なんて笑って許可していただろう。それがどう言った訳か、今回はハッキリと同席を認めないなんてなぁ……。

 本当だったらこのリリアの言により、この話はこれまで……となる筈だ。

 なんせ、ルルディアの提案に魔王が否を突き付けたんだ。これに文句をつける事が出来る奴もまぁいないだろう。

 ……って思ってたんだけど。


「……それなら……私たちがここを離れますので……この『魔王の間』で話をして下さい」


 何とあのアカパルネが、魔王に食い下がる発言をしたんだ! 普段は口数も少なく感情の抑揚も少ない彼女にして、この行動は驚きに値する!


「むぅ……」


 そして、このパルネの言葉には少なからず有効なものが含まれていたみたいだ。あの魔王リリアが口籠っちまうんだからな。

 そんな場面を見るのもまぁ珍しい事なんだけど、それにしたってなんでメニーナたちはここまでリリアに食い下がるんだ?

 なんて事を考えていたら、何だか不穏な空気を感じ取ったんだ。

 何だ……これ……?

 殺意じゃあない……。でも、好意でもないな……?

 ふと気づくと、その気配を発しているのは誰でもない……リリア、メニーナ、パルネ、ルルディア。

 玉座に座るリリアと、高座の下にいるメニーナたちの間で、まるで火花でも散らす様な視線のやり取りが行われていたんだ!


「ふふ……」


「あはは……」


 双方、互いの目を睨みつけて決して離さない! でも、その口からは笑いが漏れ出している! よく見れば、全員薄っすらと笑みさえ浮かべているじゃあ無いか!


 怖い! ……怖すぎる!


 何だか良く分からない対立の渦中に巻き込まれて、俺は声も出せずにただアワアワとするだけしか出来なかったんだ……。


な……なんだ、この空気は!?

まるで……戦場にでもいる様な……!?

いや……それよりもピリピリとした空気が、この場に重く沈殿していたんだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ