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ギリギリ! 俺勇者、39歳!  作者: 綾部 響
3.聖霊神殿へ
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不服な決着。そして……

メニーナとルルディアの決闘は伯仲していた!

実力が拮抗する2人の戦いは、そう簡単に着きそうにないって思われたんだが……。

 メニーナとルルディア、2人の激闘は続いている。

 もっとも、俺から見ればまだまだ粗削りな上に未熟ではあるんだがな。……それでも。


「う……うおっ!?」


「きゃあっ!」


 周囲でこの戦いを見つめている者たちにしてみれば、十分にレベルの高い戦いではあった。

 双方の攻撃が発する風圧や衝撃は周囲に伝播し、備え置かれた食卓や椅子を破壊した。

 その余波は周辺の者たちをも襲い、中には傷を負う者さえ出る始末だ。

 やれやれ……。あの年齢でこれだけの技量を持っているのは大したもんだけど、それでもこの辺りが今の精いっぱいってところか。

 もっと技術が身に付けば、余計な力を四散させる事なんて無いんだけどな。


 殆ど互角の戦いを繰り広げているメニーナとルルディアだったが、それも永遠と言う訳にはいかない。

 元々それほど体力がついている訳ではないのに、ペース配分もなく全力で戦い続けているんだ。限界は、すぐそこにあった。

 疲労、呼吸の乱れ、集中力の欠如……。

 これらが齎すものは……。


「きゃああぁぁっ!? いったああぁぁいぃっ!」


 メニーナの金切り声に近い悲鳴が轟く!

 ルルディアの突きが、メニーナの左肩を捉えた!

 当たり前の話だが、メニーナもルルディアもまだまだ子供の体躯をしている。

 それでも、2人の使う武器は大人でも普通に扱う大きさだ。

 だから鎖骨の下、腕の付け根に深々と食い込んだ穂先は、メニーナの腕を引き千切らんばかりだった。

 余程の激痛なのだろう、肩から大量の出血をし口からも一条の血を滴らせ双眸から大粒の涙を流し、彼女はそれでもルルディアを睨みつけていた。

 痛い時は痛いと叫ぶところなんかは子供らしいけど、肩に槍を食いこませても怯まない姿は普段の幼さを感じさせなかった。

 ああ見えて、ちゃんと戦士としても自覚があったのか。

 なんて感心していると。


「うっっっあああぁぁっ!」


 今度はルルディアの悲鳴が響き渡ったんだ!

 攻撃を受けた状態で、それでもメニーナは右手の剣を振り上げてルルディアを攻撃した。

 ルルディアもそれを躱そうと身を捩ったんだが、メニーナに攻撃を当てた事で気を抜いたんだろうな。一瞬避けるのが遅れたんだ。

 その結果、ルルディアも左腕を肩から斬られた。

 怒りと苦しみから繰り出されたメニーナの一撃は、一刀の下にルルディアの左腕を切断する! 彼女の華奢な腕が床の上へと転がった。

 それと同時に、攻撃の弾みで千切れかけてたメニーナの左腕も床へと落ちる。

 奇しくも、双方ともに左腕を失う結果となったんだ!

 でも、恐るべきは魔族の血……いや、その中に連綿と受け継がれて来た精神力か。

 人族の子供ならば腕を落とされれば……例え斬られただけだとしても、多分痛みに恐怖し泣き叫び転げまわるだろう。


「う……うううぅっ!」


「ふぅっ……ふぅっ……!」


 しかしメニーナとルルディアは腕の付け根から大量の血を噴き出させながら、目を真っ赤にして号泣し、それでも武器を構えて相手を睨み戦う姿勢を崩していない。

 まるで手負いの獣となったみたいに、敵意だけを相手に向けて今にも飛び掛からんばかりだった。

 このまま放っておいたら、多分どちらも命を落とすだろうな。


「……それまでだ!」


「ゆ……ゆうしゃさま!?」


「な……っ!?」


 だから俺は、双方の間に割って入ったんだ。

 2人からは驚きの声が上がったんだが、それと同時に安堵の雰囲気も微かに感じ取れた。

 いや、俺が割って入った事で戦意が失せたって事だろうな。


「このまま2人が戦い続ければ、どっちも死ぬぞ。理由は……分かるな?」


 こんな話をしている間にも、彼女達の傷口からは血が噴き出し続けている。

 このままでは出血多量で意識を失うだけじゃなく、そのまま命だって落としちまうだろうな。

 俺の話で、メニーナの方は納得顔とはいかないものの既に戦意を喪失している。ルルディアもこれ以上戦えないと言う事は理解してくれたんだろう、反論はなかった。

 そうこうしている間にも、メニーナとルルディア双方の顔色はどんどん悪くなっていく。

 このままだと、本当に2人とも死んじまうな。

 俺は2人の落ちている腕を拾い上げ、それぞれに手渡し。


「自分で持って、傷口に当ててろ」


 そう告げた。

 ハッキリ言ってこれは少し酷い対応かも知れないが、今後は戦いの中でこういう事が頻繁に起こって来るはずだ。今の内から経験していても良いだろう。

 彼女達はやや困惑した表情で俺の言われた通りにしていた。

 斬り落とされた自分の腕を持って……ってのは、気持ちの良いもんじゃあないのは分かるが、まぁ我慢してろ。


「……万物の生命に癒しを齎す聖霊の奇跡よ、今ここに顕現し、この者の生命に祝福を与え賜え……奇跡の秘術(ミーラ・クルム)


 俺が呪文を発すると同時に、周囲には眩い光が溢れた。

 その光に包まれたメニーナとルルディアの腕は即座にくっ付き、見る間に傷も癒え痕も残っていなかった。


「ゆうしゃさまぁ……」


「……すごい」


 それだけではなく。

 悪かった2人の顔色は見る間に良くなり、健康状態と何ら変わらない血色となった。

 彼女達は驚いているけど、まぁ勇者の使う回復呪文なんだからこれくらいは出来ないとな。


「メニーナちゃぁん……。良かったよぉ……」


 そしてそこへ、これまで頑張って静観していたパルネが駆け寄りメニーナに抱き付いた。

 きっと彼女は、戦いの間も必死で我慢していたんだろうなぁ……参戦する事を。

 一方のルルディアはと言えば、再生された腕を確認するようにグッパッと手を開き閉じしていた。

 自分の腕とは言え、やはり瞬時に治った事には驚きを隠せないんだろう。


 厳密に言えば、わざわざ斬れ落ちた腕を繋げる……なんて面倒な事をする必要はなかったんだけどな。

 俺の使った最上位回復魔法「奇跡の秘術(ミーラ・クルム)」は、被術者の命さえ繫ぎ止められていれば欠損部分すらも再生しちまうんだから。

 でも、目の前にさっきまでくっ付いていた腕があるのにそのまま新たに再生されたら……混乱するだろ? きっと、処分にも困るだろうしなぁ。

 だから、今回はこれで問題無いんだ。


 だけど、俺が割って入った事で有耶無耶になった事もある。

 それは……勝敗の行方だ。


「……今回は、引き分けって事で良いかな?」


 俺はメニーナとルルディアへ向けて目線を送りながらそう告げた。

 技量も互角だったし、負った手傷だって同等だった。

 あのまま戦い続けても双方倒れていただろうし、勝者なんて居ないってのが俺の感想だしな。

 2人からは、異論は聞こえなかった。……まぁ、聞こえなかっただけで。


「……負けてないもん」


 メニーナは俺に聞こえないくらい小さい声で反論していた。……いや、聞こえてるんだけどな。

 一方のルルディアは声こそ出していないが、俯きそっぽを向いてとても納得した様子はないな。

 それでも彼女達は、俺の決定に異を唱えはしなかった……んだが。


「ちょ……ちょっと待ってください。それじゃあコイツ(・・・)は、どうなるんですか!?」


 文句をつけて来たのは、それまで壁に張り付いていた男たちの内の1人だった。

 気付けばこの男だけじゃなく壁際にいた男たち全員、そして退避していた女性たちもやって来て男たちと同じようにルルディアをきつい目で見つめていた。

 なるほど……。こいつ等はアヴィドの娘だったルルディアを、奴同様に許せないって事なんだな。

 さっきの決闘でメニーナが勝てば良し。もしもルルディアが勝っても、その後の俺との闘いで命を落とすと思っていたんだろう。

 でも俺が引き分けを宣言しちまったもんだから、彼女の処遇も宙に浮いたままって事になる訳だ。


「……なぁ。お前は、本当にアヴィドの娘なのか?」


 俺はルルディアに向けて問い掛けた。彼女の思考や面立ちは、とてもあの粗野なアヴィドの実子とは思えなかったからな。


「……違う。……私は、奴によって攫われた子供の……1人」


 表情に変化を見せず、彼女はゆっくりと答えた。

 アヴィドの奴は、本当にクソ野郎だったんだなぁ。デジール族とは別の所でも、大なり小なり酷い事をして来たみたいだ。


「元の住んでいた土地は? 覚えているのか?」


 もしも素性を覚えているなら、そこへ返してやりたい。

 多分、その方が彼女にとっても幸せだ……なんて考えたんだが。


「……覚えていない。私には……どこにも行く所がない。そして、ここでも恨まれている……。だから……死んだ方が良かったんだ」


 そして彼女は、本音の一端をポツリと漏らしたんだ。



双方引き分け……と明言したんだけど、これに異を唱えたのはデジール族の民たちだった。

このままじゃあルルディアの処分は宙に浮き、ここに居続ければ迫害を受けるしかなくなっちまうだろうなぁ。

となると……だ。

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