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ギリギリ! 俺勇者、39歳!  作者: 綾部 響
3.聖霊神殿へ
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一騎打ち

魔王リリアとの話は付いたんだ。

後は、目の前の男を……倒すだけだな。

 殺意をむき出しにして、アヴィドは俺に対して今にも襲い掛かってきそうだ。それはまるで、獲物を目の前にした肉食獣みたいだな。

 それに対して俺は、自然体で漆黒の大剣を正眼に構えて奴の一挙手一投足に注視していた。

 力量差は明白。間違いなく、俺の方が強いだろう。

 それでも、奴にどんな隠し玉があるか分からないんだ。迂闊にツッコむような、若さゆえの無鉄砲さなんて持ち合わせちゃあいない。


「やっちゃえぇっ! ゆうしゃさまぁっ!」


「ゆうしゃさま……。がんばれぇ……」


 俺の背後からはメニーナの熱烈な、そしてパルネの控えめな応援が掛けられている。

 大人としては、ついつい子供たちに格好良いところを見せたくなるもんだが、そんな油断なんて見せる訳にもいかない。

 これは……彼女達にとっても勉強となる筈なんだ。

 何事にも油断せず、慎重に対応する。

 全ての事に対して、この考え方は有効だし大切な行動の取り方だ。


「へっへへぇっ! いっくぜぇっ!」


 無造作とも思える動きで、アヴィドが鉾槍(グレイヴ)を振りかざして接近してきた!

 それと同時に、奴の身体を今までに見た事も無い「気」が包みだしたんだ!

 ……これは……一体!?

 疑問に感じながらも、俺は奴の大上段からの一撃を剣で受け止める!


「ぬうぅっ! 俺の一撃を受け止めるとは、やるなっ!」


 鍔迫り合いを演じながら、奴はありきたりな台詞を吐いた。

 口角を釣り上げて余裕を演出しているが、渾身の一撃を受けても全く動じない俺に焦っている雰囲気が感じられる。

 でも、一合打ち合って俺には分かった。

 奴は……完全に俺よりも格下だ。

 強い事は強いだろう。恐らくはこいつから感じ取った通り、十二魔神将程度の技量は持っていそうだ。

 それでも武器による攻撃力で言えば、多分彼等よりも下回るとハッキリ確信したんだ。

 だけどそれで、俺が油断する様な事はない。

 奴の纏う気配の正体とそこからくるだろう自信を見極めなければ、どこで足を掬われるか分かったもんじゃあ無いからな。


「だっははぁっ! ならば、これを受けられるかぁっ!」


 力で押し込もうとしても微動だにしない俺に、奴は力比べを諦めたんだろう。大きく飛び退くと、奴はデカい声でそう言ってそれっぽい構え(・・・・・・・)を取った! 

 どうやら奴は、とっておきの技でも繰り出そうとしているんだろうな。

 ……でも。


「……ふぅ」


「な……何っ!?」


 わざわざそれに付き合ってやる必要なんてない。

 相手が無防備に技を繰り出すための溜めを作っているんだ。それはそのまま隙に繋がるからな。

 俺は小さく息を吐くと、一気に間合いを詰めて奴に一太刀浴びせかけたんだ!

 俺の剣は狙いを違わずに、奴の胴体を斬り割いた……筈だったんだが。


「……どう言う事だ?」


 俺の攻撃は、確りと奴を捉えたはずだ。剣にも、斬りつけた感触を確かに感じたんだが。


「がっはっはっ! 俺に斬撃は効かないぞっ! 俺の纏っている『気』は生まれつき特別みたいでなぁ! 武器による攻撃は一切受け付けないんだよっ!」


 そんな俺の疑問を、わざわざアヴィドは説明してくれたんだ。ほんと、実は良い奴なんじゃないのか?

 奴の台詞をそのまま鵜呑みにすれば、アヴィドには打撃刺突斬撃の類は通用しないって事だ。それなら、別の攻撃なら有効(・・・・・・・・)って吐露してるんだけどな。


「そして、この一撃を受けきった奴はいねぇっ! 食らって……死ねぇっ!」


 そして奴はまた、さっきの構えを取って溜めを作り出したんだ。

 何やら大技を仕掛けてこようとしているのは、言われるまでもなく分かる。

 本当だったら、アヴィドの奴に付き合ってやる必要なんて無いんだけど……わざわざ自身の秘密を教えてくれたお礼だ。受けてやるか。

 俺は剣を構え、腰を落として奴の技に対して身構えた。

 それを見たアヴィドは、ニイッと邪悪な笑みを浮かべた。それだけみれば、どこか満足そうでもある。


「いっくぞぅっ! ぬああぁっ! 破砕(ノース)っ! 絶裁断(グリヴィ)っ!」


 身を覆っているものとは質の違う「気」を武器に纏わせ、奴は技名を叫びながら斬り掛かって来た!


「ぬううっ!」


 振り下ろされる巨大なグレイヴを、俺は下方から斬り上げた大剣で迎撃した!


「きゃあっ!」


「うわっ!」


 耳を(つんざ)く大音響が周囲を震わし、メニーナたちや壁際の男たち、避難している女性たちに悲鳴が起こる。

 それと同時に、俺の剣にはさっきとは比べ物にならない圧力が加えられていたんだ!

 なるほど、奴が自信満々で繰り出した訳だ。この技の攻撃力だけなら、とっておきとして使っても問題ないからな。


「こ……こいつっ!? この技を受けきるだとっ!?」


 だがまぁ、俺を怯ませるほどじゃあないな。逆に怯んだのがアヴィドの奴だってのは、皮肉以外の何物でもないか。


「せいっ!」


 完全に奴の攻撃を受けきった俺は、そのまま奴を横に薙いだんだ! 

 本当だったらアヴィドの胸には、横に深く一筋の斬痕が刻まれていたはずだ。

 でも奴が明言した通り、どうやら武器による(・・・・・)普通の攻撃(・・・・・)はこいつには効かないみたいだな。傷の一つもついちゃいない。


 ―――じゃあ、武器以外の攻撃なら……どうなんだ?


「言ったろう? 俺にゃあ、斬撃は効かない……って、お前?」


「……星雷(バラク・アステリ)


「ぎゃあぁっ!」


 何やら啖呵を切ろうとしていたアヴィドに俺は人差し指を向け、そのまま雷の魔法を放った。

 勇者のみが使える(・・・・・・・・)雷属性の魔法の殆どには、詠唱は不要だ。

 それに、雷の速度で放たれる魔法を視認できる者も多くない。

 指先から放たれた雷の初級魔法を受けて、奴は図体同様にデカい悲鳴を上げたんだ。これで……ハッキリしたな。


「き……貴様はっ! それほどの強さを持ちながら、魔法も使えるのかぁっ!?」


 フラリとグラつきながら、奴は驚きを持って質問して来た。まぁ、それもそうだろうなぁ。


 実のところ、武器と魔法を同時に扱える者はそう多くない。高いレベルになれば、それは顕著に現れる。

 勇者である俺や、職業(クラス)として上級職である魔法剣士、そして十二魔神将以上の者たちならそれも可能なんだが、近接戦闘を収めた者は魔法が使えないってのが一般的だ。それは、この魔界でも同じなんだろう。

 特殊攻撃や特別な技能が魔法に酷似している事はあるだろうけど、厳密に戦士が魔法を扱えるケースはかなり少ないだろうな。


「やはり、剣は効かなくとも魔法は通じるみたいだな」


 奴の疑問には答えず、俺は事実だけを突き付けてやった。それに対して、アヴィドからの返答はない。

 でも、奴の表情を見ればそれが図星だって事は分かる。絵に描いたようにギクリとした顔を浮かべてやがるからなぁ。


「でも安心しろ。お前を魔法で消し炭にする……なんて事はしないから」


 俺が殊更に嫌らしい顔をしてそう告げると、途端に奴は恐れたような顔になった。……いや、俺ってそんなに怖い顔してるのか? 悪党が怯えるほど?


「お前は……剣でケリをつけてやる」


 冷や汗を浮かべていたアヴィドが、俺の言葉を聞いて安堵したのか笑みを浮かべた。と言っても、恐怖を含んだ薄ら笑いなんだけどな。


「はっははっ! 剣は効かないと証明してやっただろう! お前ぇは……馬鹿か?」


 あ……馬鹿に馬鹿呼ばわりされるのって、想像以上に腹立つなぁ。

 当たり前の話だが、普通の斬撃(・・・・・)で応戦する訳ないだろう。


「馬鹿はお前だ。普通の攻撃をする訳がないだろう? ……特別に、お前には使ってやろう。『……我が名に措いて、一時の魔力をその身に宿す許可を与える』」


 俺は必要以上に相手を小馬鹿にした顔、声音を作り、そのまま準備に移った(・・・・・・)

 俺が呪文に入りソッと手にした大剣に触れると、巨大な黒剣に淡い光がともり出す。


「……閻帝の息吹、焔姫の吐息、灼熱の炎弾となり我が敵を押し包め……蒼炎連弾魔法(フライアム)


 続けて俺は、炎系上級魔法の呪文を唱えた。それを受けて、手にした大剣の刀身に蒼い炎が顕現する。


「て……てめえっ! そ……そりゃなんだっ!? 何だよ、その青い炎はっ!?」


 俺の剣に現れた異変を見て、アヴィドの奴が恐れたように問い掛けて来たんだ。


奴は俺よりも弱い。

しかし、厄介な能力を持っている事も確かだ。

なら……こっちも、少し力って奴を見せてやるか。

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