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ギリギリ! 俺勇者、39歳!  作者: 綾部 響
3.聖霊神殿へ
24/71

惨状の坩堝

クリークたちと別れた俺は、首を長くして待っているであろうメニーナたちの元へと向かったんだ。

 クリークたちの戦いぶりは、彼らのレベルを考えれば満足のいくものだった。

 今後も頑張れば、どんどん成長していくだろうけど……はてさて。

 なんせ、クリークにソルシエだからなぁ……。

 悪知恵ばっかり働くやんちゃな奴らだから、またどこかで問題でも起こさなきゃいいんだが……。

 とにかく、今は特に問題ない。

 クリークたちの望み通り、次なるステージで試行錯誤してくれれば良いだろう。

 それに俺としても、彼らが気になるからと言って付きっきりで面倒を見る訳にはいかないからな。

 それほど俺も甘くはないし、そこまで暇じゃあ無い。

 ……何だかどこかで笑われてる気配を感じるが、まぁ良いか。


 俺はクリークたちに気付いた事を簡単に告げ、後の事をイルマに任せてそのままプリメロの街へと向かったんだ。

 ……メニーナたちはさぞかし首を長くして待ってるだろうなぁ。




 メニーナたちにプリメロの街で留守番を言いつけて2日。

 長いと言う程の期間ではないが、見知らぬ土地でさぞかし心細くしているだろう。

 そう考えると、俺の足も自然と速くなっていた。


「いま戻ったぞ……って、メニーナッ!?」


 足早に自分のアパートへと戻って来た俺は、部屋に入るなり倒れているメニーナを発見して思わず声を上げて駆け寄っていた!

 近くには、同じようにパルネもぐったりとして倒れている!

 そして部屋の中は、出た時よりも随分と荒れている様だった!


 ……これは。


 もしかすると、物取りでも入って来たか!?

 如何に魔族であり見た目よりも遥かに年を経ているメニーナとパルネであっても、人族から見ればまだ幼い少女にしか見えない。

 それを見越したどこかの誰かが、彼女達2人の寝泊りする部屋に侵入しメニーナたちを襲った……のか!?


「……いや、違うか」


 そんな最悪な考えが頭を過ったんだが、よくよく部屋の中を……そしてメニーナとパルネを観察してその考えが間違っていると気づいたんだ。


 ―――荒らされた様に見える室内は、実は単にゴミが散乱しているだけだった。


 ―――メニーナたちは確かに倒れているが、外傷はなく呼吸も規則正しい。


 ―――それに「うぅん……ゆうしゃさまぁ……」なんて寝言まで口にしている始末だ。


 ―――そこから導き出される答えと言えば……。


「……おい。起きろメニーナ、パルネ」


 俺は床に寝そべっている2人に向けて、出来るだけ感情を抑えて声を掛けたんだ。

 何とか声を抑制しないと、思わず怒鳴っちまいそうだからな。

 そんな俺の声が聞こえたのか、薄っすらと目を開けたメニーナは。


「うぅ―――ん……。ゆうしゃさまぁあ」


 どうやらまだ寝ぼけているみたいだった。

 なんて事は無い、メニーナたちはこの2日間で、見事に俺の部屋をゴミ屋敷に変えてくれたんだ。

 ったく、どんだけ買い物したんだよ。


「……ったく。早く起きるんだ」


 意識を覚醒させたが一向に起きようとしないメニーナに、俺は再度起床を促した。

 これからコンコンと話して聞かせなけりゃあならないのに、彼女達が寝そべったままってのはあり得ないからな。


「……メニーナ? ……パルネ?」


 しばらく2人が起きだすまで待っていたんだが……変だな? 起きる素振りを見せないぞ?

 如何に普段俺に舐めた……いや甘えた行動を取るメニーナでも、流石にこんな失礼な事はしない。

 これはもしかすると、外側から見えない負傷か魔法や薬物による睡眠の可能性もある。

 もっとも、今は普通に人族の子供にしか見えないこの2人を狙って何か意味があるとは思えないんだがな……。


「ゆう……しゃさまぁ……」


「……ゆうしゃ……さま」


 しかし、普段は元気爆発なメニーナの様子が目に見えておかしい。

 それどころか、隣で倒れているパルネも同じような症状だ。……これは。


「……どうしたんだ? ……話せるか?」


 もしかすると、本当に何か異変が起こっているのかも知れない。

 俺は静かに、出来るだけゆっくりとした口調で彼女達に問い掛けた。

 まずはメニーナとパルネの身に何が起こっているのかを知る必要がある。

 その上で、適切な処置を取らなければならないからな。


「お……」


 見ようによっては苦しそうにも見えるメニーナが、何とか言葉を発しようとしている。

 なんてこった……俺もまだまだ洞察力が足りなかったか。

 さっきまで、ただ眠っているだけと決めつけすぐに動き出さなかった自分自身を呆れてしまう。

 彼女達が体に変調をきたしているとすぐに思い至れば、もっと早く違う対処が出来たはずだからな。

 俺はメニーナの口元に耳を寄せて、確りと彼女の声を聞き取ろうとした。

 そして、その口から紡がれたのは。


「お……お腹……空いたぁ……」


「……は?」


 ―――グウウウゥゥ……。


 メニーナの台詞を聞いて、思わず俺が惚けた声を上げたと同時に、俺もよく耳にした事のある音が響き渡った。

 これは……。

 これは俺の腹の中にもおわす……。


 ……クウフク様の声。


「……おい、メニーナ?」


「ゆ……ゆうしゃさまぁ……。おなか空いたぁ……」


 もしも俺の考えが間違いでなければ、メニーナは……いや、恐らくはパルネも空腹で身動きが取れないだけなんだろう。

 だが……腑に落ちない点もある。

 それは、この部屋の散乱状況だ。

 ここにぶちまけられているのは、俺の行きつけでもある雑貨店「コンビニ」で売っている食料品やスナック菓子の包装紙ばかりだ。

 つまり彼女達は、この2日間で大量の食品を食い散らかした事になる。

 それで飢餓に陥るなど、ちょっと考えられない……んだが。


「……おい。確かお前には、俺が出掛ける際に2日分のお金を預けたよな? あれはどうしたんだ?」


 実際には余裕を持たせて少女2人、3日分の金額が詰まった袋を彼女には渡してあったんだ。

 普通に(・・・)彼女達が朝昼晩の食事を摂り、少し無駄遣いする程度なら食べられなくなると言う事にはならない筈だ。

 ……と言う事は、やはり物盗りか何かに!?


「えぇ―――……? あれ―――? あれは、その日の内に無くなっちゃったよぉ―――……?」


「使った……のか? ……あれを? ……全部? ……初日に?」


 だがどうやら、俺の考えは根本から間違っていたみたいだ。

 しかも、俺の想像を遥かに超える豪遊っぷりを発揮して見せたようだった。


「うん―――……。いぃ―――っぱい食べ物買ってねぇ―――……。美味しかったぁ―――……」


 俺は流石に、開いた口が塞がらなかった。

 そりゃあ、初日はさぞかし満足だろう。

 欲しい物を好きなだけ買って食べられたんだからなぁ。


「……それじゃあ、2日目から何も食べてないのか?」


 俺が静かに問い掛けると、メニーナはコクリと頷き返してきた。

 そりゃあどんだけ腹一杯になっても、翌日には腹も減るだろう。

 2日間も飯を食っていないんじゃあ、空腹で動けなくなる……いや、動きたくなくなるのも頷ける話だ。


「はぁ……。とりあえず、何か買って来てやる。暫く待ってろ」


 そう言って再び床の上に彼女を寝かせた俺は、立ち上がって扉へと向かった。

 本当はベッドにでも寝かしつけてやった方が良いんだろうけど、そのベッドの上にも山の様なゴミが積みあがってるからな。

 俺はそのまま部屋を後にして、ホクホク顔であるだろう雑貨屋「コンビニ」に向かって歩き出したんだ。




 雑貨屋「コンビニ」の店主は、殊の外上機嫌だった。

 そりゃあ、一昨日には大物買いの上客がやって来たんだからな。

 しかも彼は、俺がメニーナたちを連れていた事も覚えていた。

 心なしかサービスが向上していた「コンビニ」で、とりあえず3人分(・・・)の食料を少しばかり多めに買って店を後にした。

 いつもは不愛想な臨時職員(バイト)の声も、何となく景気が良さそうに聞こえたがそれもそうだろうなぁ……。


 部屋に戻った俺は、買って帰った食料をテーブルの上に置いた。


「……ご飯だぁっ!」


 それと同時に鼻をスンスンと効かせたメニーナがガバッと起き上がった。気づけばその後ろでは、パルネもスゥっと立ち上がっている。


「……ゆっくり食えよ」


 そんな俺の台詞なんて聞こえていないんだろう、メニーナとパルネは一心不乱にテーブルの上の食料を貪り出したんだ。

 俺も彼女達に取られる前に、自分の食料を確保して食事にする。


 ……はぁ。

 ……こいつ等には戦いやら冒険の前に、まずは生活する為の知識を付けないといけないな。

 ……育成って……難しい。


まさか、あるだけお金を使っちまうとはなぁ……。

計画的に出費を抑えるって事を、まずは彼女達に教えないといけないんだが……。


……そこからかぁ。

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