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第4話 コビ

4 コビ




「ディン? 銀髪……もしやこの間騒ぎになった【銀狼の傭兵】ではないのか?」

 大賢者アカバは序列二位の賢者のサートル・ヴラドに目をやった。


「はっ。さようでごさいます。北の国境警備隊の隊長に手傷を負わせて逃げた男に間違いありません」


「ふむふむ、じゃが追撃隊を向かわせたと聞いたが……」


「……」

 サートルの整った顔が僅かにゆがんだ。


「全員亡き者にされたとの報告を受けています」


「全員とは何人じゃ」


「50人程度かと。生き残った兵士はいません」


「なんじゃとー! むむむ、やはり共和国の手の者か、罠にはまって伏兵の軍団に襲われたか……」


「いえ」

 サートルの隣りの賢者が声をあげた。序列五位のナタリーだった。


「私の情報によると北の国境沿いの大平原で闘いがあった模様ですが、中隊ともども医療部隊が現場に到着したおりには敵兵の姿はなかったとのことです。50人もの兵士を葬る大戦力ならば中隊との一戦があるものと思われましたが……」


「ん、どういうことだ?」


「大平原くまなく斥候の騎馬隊を走らせましたが、そのような軍団はいなかったとの報告を受けています」


「……」

 大賢者アカバの口がへの字口になった。


「さらに医療部隊が死体の軍創を調べたところすべて同一の剣による傷が原因で死に至ったとの報告が……」


 執務室の賢者達がざわめいた。

 大賢者の孫ゼックは青ざめた顔をしていた。


「まさか、まさかなのか?」

 大賢者アカバの視線がサートルに向けられた。すました表情のサートルが目を閉じてうなづいた。


「はい。あの男【銀狼の傭兵】はただ者ではないかと……」


「ふうむ」

 大賢者アカバは自慢のあごひげを触った。


「だとしてもコビは強いぞ」



     ✩



 数十年前、山奥の村で赤ん坊が突然消えた事件があった。

 母親が目をはなした隙に忽然と二階の部屋からいなくなった。

 階下のへの出入口は階段しかなくそれも家族が陣取るテーブルの側だったので、見知らぬ人が出入りするのは不可能だった。


 二階の部屋は空の揺りかごと開いた窓があった。足場などもなくどうやって赤ん坊を連れ去ったか謎だった。


 村人達は赤ん坊を探したが、結局手がかりは何も見つからなかった。




 半年後、山深い場所で蜂蜜とりの村人が一際大きな蜂の巣を発見した。

 村に持ち帰って中を調べてみると蜂蜜に包まれた赤ん坊がすやすやと眠っていた。


 忽然と消えた赤ん坊だった。

 それがコビだった。



 コビの成長は遅かった。三歳になっても背は低く村の子ども達にからかわれた。

 ただどういうわけか、コビをからかう子どもは蜂に刺されるはめになった。


「痛っ!」

 

 蜂の毒のせいでみるみる刺された腕が腫れた。

 そんなことがなんども続くようになると、コビは不気味がられるようになって友達はできなかった。


 青年になったコビは村の娘に恋をした。しかし、コビの周りに飛びまくる蜂を不気味に思われて振られた。

 翌日、娘は自室のベッドで亡くなっているのを発見された。医者は原因不明の突然死と結論づけた。床には一匹の蜂が死んでいた。


 その後コビは村を出て首都のハミルトンをめざした。



 ハミルトンに住んで半年たった夜、酒場で二人組に目をつけられたコビは、人気の少ない場所で襲われた。

 だが二人組は蜂の襲撃を受けて返り討ちにあった。


「お前らのボスのところに案内しろ! 落とし前つけてやる」

 蜂に刺されて顔を腫らした二人組は、すごすごと案内した。


 ボスは隠れ家にいると下水道を歩かされた。


 迷路のような下水道を歩きまくってついた先が行き止まりの壁だった。

 二人組のひとりが壁の煉瓦を手で押し込むと壁がドアのように開いた。


「なるほど用心深いな……」


 二人が先に入ったのを見届けると、コビも続いた。中に入ると通路とその先に扉があった。



「なんだこりゃ!」



 部屋に入ったコビは仰天した。

 湯気が充満していたからだ。床一面は大理石のタイルで、部屋中央の円形の大浴場から流れる湯で濡れていた。


 大浴場には人がいた。湯気の向こうでコビをじっと見ていた。


 コビは案内人の二人の気配がなくなっていることに気がついた。

 首をひねりながらコビは大浴場に近づいた。


「女か?」


「私は男です」


 女かと見間違えるほど綺麗な男だった。肩までの長髪が伸びていた。


「私に何やら話があるんでしょ? だったらそんなとこに突っ立っないで一緒に湯に浸かりながら話しましょう」


 コビは躊躇したが奥にある脱衣場で裸になって大浴場に戻ってきた。

 コビの上半身は筋肉隆々だった。

 湯に入ると距離をとって男と向かいあった。


「はじめまして。私の名はサートル・ヴラド。大賢者アカバ様に使える七賢者のひとりです」


「あのチンピラ達のボスが賢者だと、冗談いうな」


「本当です。これは一部の人間しか知らないことですが、ロータス王国賢者ギルド第二位の地位にある私のもう一つの顔は、裏社会の組織【双頭の蛇】のドンなのです」


「……」


「と言っても亡くなった父の後を継いだだけですがね」

 サートルは華奢な肩をすぼめた。


「そんなこと俺にとってどうでもいいことだ。とりあえず俺を襲わせたのはお前だな。だったらきちんと落とし前をつけさせてもらおうじゃないか」


「本気ですか? 私が怖くないのですか」

 サートルの目が細められた。


「怖くねーさ。俺には奥の手があるからな」


「毒蜂のことですか?」


「そうさ。お前の部下のように顔を腫らすだけだとは思うなよ。いつでも殺せる力が俺にはある。その美しい顔が醜くゆがんでこの世からおさらばさせることはたやすいぜ」



 サートルの顔の近くを蜂が一匹、羽音を残して飛んで行った。その蜂をサートルは目で追った。



「それは困りましたね。私にはまだやらなければならないことがあるので」


「知ったことか」


 突如、ヌルっとしたものがコビの腹部に触れた。コビが湯船を見ると黒い影が見えた。複数の影が湯船の中を縦横無尽に動きまくっていた。


「ひえっ、何かいやがる!」


「私の友達ですよ」


 湯船から姿を現したのは蛇の頭部だった。

 鎌首を持ち上げてコビを睨んだ。

 二匹、三匹の蛇がコビの逃げ場をおさえていた。



 シャアアアアアアー!


 

 蛇が口を大きく開けると、コビの頭部を飲み込めるほどの大きさになった。

 その口がコビに近づいた。

 

「ひい!」


 コビは慌てて蛇に背中を向けて湯船から飛び出た。

 振り返ると三匹の蛇はサートルの両腕と首に巻き付いていた。

 

「【蛇使い】がお前の能力か⁉ おれの【蜂使い】と同等の能力者というわけか」

 コビは蒼い顔をして床に尻もちをついた。


「いえいえ、私にはあなたのような能力はありません。この子たちは私の分身なのです」

 サートルは蛇を体から外すと湯船の中から立ち上がってコビに背中を見せた。

 なだらかにカーブした美しい背中めがけて、三匹の蛇が湯船から飛びかかった!


 すっと、サートルの背中に蛇たちがのみ込まれていく。

 蛇の姿が完全になくなると、サートルの背中にタトゥー(入れ墨)が現れた。


 錆びた剣に巻き付いた一匹の蛇は双頭だった。

 背中のタトゥーは裏社会の組織【双頭の蛇】の紋章だった。



 
































































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