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第3話 暗殺者

3 暗殺者



 小さなノックの音がした。


「シルヴィア、起きている?」


 部屋に入って来たのは親友のジルだった。シルヴィアと同じく15歳。

 ザジは手鏡を枕元のテーブルに置いた。そして身体を起こそうとしたら


「そのままでいいよ」


 心配そうにジルが近づいて来た。

 ジルはベッド脇で両膝をついてシルヴィアの右手を両手で包んだ。


「大丈夫?」


 シルヴィアはうなずいた。


「さっき鏡で見たけど、あたしひどい顔してるのね」

 シルヴィアは笑った。


 やつれたシルヴィアの顔を見てジルは目に大粒の涙をためた。こぼれた涙を右手の甲で拭った。


 ジルの頬にシルヴィアの左手が伸びる。


「どうしたの? 震えてるじゃない」


「廊下でクラーク先生が医者の先生と話していたの。ううん、話の内容は分からなかったけど深刻そうな顔をしてたから、あたしシルヴィアのことが心配で……」


「ありがとう。心配してくれて。でも胸の痛みも少なくなったし、咳も治まったからたぶん大丈夫だと思う」


「本当に?」


「うん。もう部屋に戻ったほうがいいよ。消灯の時間はとうに過ぎたでしょ」


「それじゃ、明日の朝また来るね」


 ジルがドアを閉めるとシルヴィアは寝返りをうって枕に顔をうずめた。


「ジルごめん、あたしがいなくなっても元気でいてね……」







 深夜。

 月あかりが窓から部屋を照らした。

 ベットの脇の椅子に座っている人物がいた。

 ヘレン・クラーク先生。この寄宿舎の舎監の女先生だった。じっとベットのシルヴィアを伺っている様子。

 ときおりシルヴィアの額に乗せた濡れタオルを交換していた。


 ジルが出て行った後、シルヴィアの体調は悪くなった。みるみる生気が失われていた。呼吸が荒くなってときおり起きる胸の痛みが激しくなった。全身汗まみれだった。


 シルヴィアは頭がボーとして意識が薄れてきた。


 クラーク先生が立ち上がった。

 窓まで行くとほんの少しだけ扉を開けた。外気とともに蜂が一匹飛び込んで来た。


 ブーン、ブーンと部屋の中を旋回した。


 クラーク先生は蜂には見向きもしなかった。


 乱暴にシルヴィアの毛布をめくった。シルヴィアの寝間着の胸元を広げると肌を露出させた。


「ここよ。さあ、殺りなさい!」



 蜂がシルヴィアの胸の上にホバリングした。お尻を曲げて針を突き出した。

 蜂はシルヴィアに向かった。



     ✩



 一週間前、ヘレン・クラーク先生は寄宿舎の厨房に出向いた。シェフにシルヴィアのスープに栄養剤を混ぜるように伝えて薬の袋を手渡した。


「あの子の父親からの差し入れなの。みんなに贔屓してると思われるとまずいからこっそり飲ませたいのよ、頼むわね」


「あっ、はい。わかりました」

 クラーク先生に気があったシェフのマークは頬を赤らめた。



 その夜、シルヴィアは咳をした。

 熱があることをジルはクラーク先生に報告した。

 シルヴィアは寄宿舎の一番奥にある部屋に隔離された。



「栄養剤効かなかったなぁ。もっと早く呑ませてあげたらよかったかも……」

 厨房でシェフのマークが栄養剤の袋を棚の奥に入れた。



     ✩



 蜂の毒針がシルヴィアの肌を刺そうとした瞬間、何かがものすごい勢いで飛んで来て蜂にぶつかった!


 蜂はぶっ飛んで壁に強打した。


 だが落ちない。


 蜂の胴体を押さえていたのは、フンコロガシだった。


 フンコロガシの怪力が蜂の胴体を締めつけた。


 グシャッ!


 蜂もろともフンコロガシは床に落ちた。フンコロガシは蜂を離した。体を向き直すとクラーク先生が怒りで震えていた。


「コイツ、なんだ! なんで邪魔をしやがる!」


 ものすごい形相でフンコロガシを睨んだ。


「踏み潰してやる!」



《やめといたほうがいいよ》



 クラーク先生はキョロキョロした。

 ハッと天井を見上げる。



 ユラユラ、ユラユラ。



 天井の空間がゆがむ。

 突如、その空間から人間の足が出てきた。

 胴体、頭と出現してゆっくり床に降りた。


 黒いフード付きのマントを着た人間だ。深く被ったフードで顔が隠れていた。


「何者だ、お前!」


 フードを後ろにやると、金髪巻き毛の少女の顔が現れた。

 ステッキをクラーク先生に向けた。


「魔女?」


「かもね」


 少女はいたずらっぽくウインクをした。


 ガシッ!


 クラーク先生は後ろから羽交い締めされた。

 巨大化したフンコロガシの足が胴体に絡みついた。さらに締めつけた。


「ぎゃああああ!」

 苦悶の表情。顔が紅潮した。


 大きく開いた口から何かが出てきた。全裸の小人だった。

 舌を蹴って床に飛び降りた。


 するとクラーク先生は気絶した。

 フンコロガシはクラーク先生を丁寧に床に寝かせると、元の小さな姿に戻った。



「ふーん、お前が操っていたのね」


 巻き毛の少女は興味深そうに小人を見た。


「うるさい、あとあと……」


 小人は少女とフンコロガシを無視して床に座り込んだ。

 右手に握った光る物体を床に置くと何やら呟いた。


 すると小さな玉がグングン大きくなった。直径15センチの水晶玉が誕生した。



「大賢者アカバ様。申し訳ございません。今回の暗殺任務は失敗に終わりました」

 小人が水晶玉に語りかけた。


「ば、ばか者! ワシの名前を呼ぶな!」


「えっ、大賢者アカバ様ですよね?」


 執務室のテーブルで水晶玉を見ていたアカバは頭をかかえた。

(何言ってんだコイツ。敵に情報を与えてどうする)


 大賢者アカバの周りには七人の賢者がいた。みんなお互いの顔を見合わせていた。誰がこんな無能な刺客を差し向けたのかと。

 みんなの視線が丸テーブルの対面に陣取る少年に向いた。


 冷たい視線に気づいた少年は頬を染めてうつむいた。

 大賢者アカバの孫ゼックだ。


(いかんいかん、孫かわいさに大事な任務をまかせたのはさすがにまずかった。でもあのキラキラした瞳で懇願されると断れる道理はない。かわいいのー、うちの孫は……)


 ニヤニヤしたアカバは、ふと我に返った。

 水晶玉に目をやると、青いつぶらな瞳がこちらを覗いていた。


「えっ?」


「ふーん、みんなで8人いるんだ」

 少女の瞳がぱちくりした。


 少女は右手で小人を指でつまんで左手で水晶玉を持ち上げていた。


「バカな! この水晶玉は【青印の契約】をした我らロータス王国賢者ギルドのメンバーしか見ることができないはずだ」


「あらロータス王国の賢者さん達だったのね」


 大賢者アカバはしまったと、口に手をあてた。


 周りの冷たい視線が大賢者アカバに向けられた。


「ええい、コビよ何しておる。そんな小娘と戯れている場合か」


「えっ、命令はシルヴィアの暗殺でしたよね。この魔女を殺っちゃってもいいんですか?」

 小人がそーと少女を見た。

 ニコニコ笑っていた。


「そうだ」


「でも……」


 少女はつまんだ小人の頭を指でなでなでして笑った。

 小人もつられてヘラヘラ笑った。


「何をしておる! その魔女を始末しなさい!」


 ドン!


 大賢者アカバは握りこぶしでテーブルを叩いた。


「わかりました。こんなこと契約に入ってなかったけど仕方ないか……」

 小人のコビは魔女の少女の手のひらから床に飛び降りた。

 そして指をポキホキ鳴らして首を左右に傾けた。


「おりゃー!」


 全身に気合いを入れると体にまとわったオーラが光った。

 グングンと体が大きくなって、天井まで頭がつきそうになった。

 ただの小人ではなく筋肉隆々の格闘家のような姿に変身した。それと共に両腕には手甲に皮のグローブ(拳に金属の突起が付属)、腰には皮のパンツのベルトに山刀が鞘ごとぶら下がっていた。







「むむむ、どこじゃここは?」


 大賢者アカバは見知らぬ風景に戸惑った。先ほどまでの寄宿舎の部屋ではなく、いつの間にか地平線の見える大地の姿が水晶玉に写った。


 しかも夜中ではなくさんさんと太陽が輝いていた。

 その大地の真ん中にポツリと巨大化したコビが立っていた。


「どうなってやがる。まぼろしを見せられているのか?」


 コビは360度、周りを見渡した。

 すると地平線の一点に何かが見えた。

 まだ点ぐらいにしかない見えないそれは、徐々に大きくなってきた。


  ゆっくりとゆっくりと砂煙をあげながら近づいて来た。


 コビはほうけたように見ていた。


 正体は馬に乗った人間だった。


 ついにコビの側までにやって来た。


 頭にバンダナを巻いた若い男がマントをひるがえして馬から降りてコビに近づいた。


「誰だお前は!」


「俺の名はディン」

 ディンはバンダナを外した。

 銀髪が風になびいた。


「お前と闘うのは俺だ」































































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