83:散歩と遊覧散策
「ああ…、気持ち良い……」
ゆっくり歩いているのは、王宮にある巨大温室。珍しい木や植物をたくさん集めているのが、各国王家のステータスの一つなんだ。
そのため大変立派で巨大な温室が、シュシェーナ王国にも設えられている。
今は外を散歩出来る気候ではない。そんな中、両妃殿下のお散歩にも良い場所だ。地球のより性能が良いんじゃないかというサスペンションが開発されてて良かったわ。
ここまでお連れする事が出来るんだから。
シュシェーナ王国の温室は、規模も集められている木や植物の種類の多さもさることながら、大変有名にしている木がある。
「何度見ても凄いダブルツリー…」
地球にも"カゾルツォのダブルツリー"っていうのがあるが、ここにあるのもまさにそれだろう。
シュシェーナの木は桑みたいな木の上に、シマトリネコみたいな木が生えている。
「方伯も私たちのお散歩に付き合って下さる時間以外は、お忙しくお過ごしですものね」
「こちらで地球の神話など聞かせて頂くのが楽しみでしたのに、今日で最後ですのね…」
私は妃殿下方のご出産が終わるまでの間、王宮で古代言語の本の翻訳、算盤、付けペンの使い方などをレクチャー、ネイチャーテクノロジーという視点での物作りを紹介している。
パワーストーンの依頼ももちろん来るので、とても忙しい。
夜はハンニバルやアレキサンドロス大王の話を頼まれるので、この時間しか神話なんかのお二人が好むお話をする時間はないんだ。
お名前はもう候補ができてるよ。・と、ダブルハイフンがいっぱい使われた長いフルネームの男の子と女の子のお名前だ。
例えば元が、Yuu Asiya Oosiroだとユウ・アシヤ・オオシロ。
Yuu Asiya-Oosiroだとユウ・アシヤ=オオシロと翻訳されるといった法則は生きているみたい。
私の名前のローマ字表記を補足すると、Asiya-Oosiroがより正確。なのでこれで統一している。
手書きだからダブルハイフンも簡単だが、スマホやパソだと半角記号の=で代用される綴りだ。
話を戻して…。あ、料理とか、こちらの事に明るい物はお父さんが担っているよ。
「今日の産婆さんの見立てでは、そろそろご出産なんです。ほとんど揺れない馬車でここまで30分とはいえ、移動は控えないと」
さすがに移動は控え、軽いストレッチだけにして頂こうと思うんだわ。
「そうですわね」
順調に日々が過ぎ、お二人して大きくなったお腹を、中にいる赤ちゃんに思いを馳せて愛おしそうに撫でておられる。
そもそも妊娠期間が地球と同じかどうかが分からない。私もそこまでは分からない。
なのでそれは完全に産婆さん頼みになっているんだ。
「神話は昨日でお話して下さっていた物は終わりなのですよね?
日本はデーティングがないとの事ですが、どうやってご縁を繋ぐのか聞きたいわ」
「私も気になっていたの。聞きたいわ」
昨日の最後にそんな事を言ったな。気になっていらっしゃったのか。
「日本の恋愛ですか。
日本だと、デーティングの最後の段から始まる感じかな?
この人が好き、この人とお付き合いしたいという意中の方に好意を伝えて、お互いにお付き合いする事に同意してから男女として親しくなっていきます。
デーティングのようにいつの間にか進行しませんし、二人、三人同時進行もしません。お付き合いは一人とだけします」
「…えっ」
ん?後ろの割と近くからも声がしたぞ。
「あれ?ユリシーズさん、どうしたの?」
ユリシーズさんは私の体調が戻ってから、鈍った体を鍛え直すって軍の鍛錬に加えてもらっている。今はまだ訓練の時間のはずだよね?
「あ、ああ…。ブルヴィが来たから。呼びに来たんだ」
「今度はブルヴィか…」
意識が戻ってしばらくして、フェンリルのシルバーや各色の竜さんがやって来るようになったんだ。
異種だがユリシーズさん共々自分より上位とか、最上位の個体認定されたっぽい。
それは困るが、助かった事もある。ベビーアルパカの織物の調達だ。私たちを北の国まで運んでくれたんだ。おかげで旅路は二日かからなかった。
普通は最短コースを最速で進めても、冬は片道三ヶ月以上はかかるらしい。
シルバーはシルバーで、お母さんから狩りを教われないクーとルーに狩りを教えてくれているので有り難いのだが…。
「まあ、ブルヴィが?」
「方伯、ロード・ユリシーズ。どうぞ急いで行って下さいませ」
ロード・ユリシーズの理由?私が意識がない間に、ユリシーズさんはデューク、つまり公爵の称号を賜っていたのだ。なので呼びかけはロードが付くようになっている。
あの時参戦した、他の冒険者さんたちもだよ。自由に生きたい人が多い冒険者さんの事なので、称号と年金を賜るだけで領地はないって。デュークはSランク冒険者でも、特に功績のあった方にしか与えられない称号だそうだ。
私は呼びなれなくて、ほとんどロードを付け忘れてるけどね…。
「はい、妃殿下方。御前失礼いたします」
気は進まないが、行くしかないんだよね………。
◇
[これはどう?]
[む。もそもそして心地悪い]
ブルヴィたちは30分も騎乗してあげると、満足して帰ってゆく。
しかし、そのまま背中に乗るとこちらの体がズタズタになる。なんせ竜の鱗だ。恐ろしく切れ味が良い。
そこで安全に乗れる鞍を模索しているが、なかなかフィットする物が見いだせない。
結界を張って乗っても、掴まり続けるのが無理ゲーでしかない。
「ユリシーズさん、今回も諦めましょう」
「うっ」
ユリシーズさんは青い顔色で呻く。だが覚悟を決め、ハンググライダーのハーネスに入ると結界を張る。
「行ってきます…」
「…ッ」
ブルヴィは結果を張った私とユリシーズさんを、そっと左右の腕に分けて掴む。そしてばさりと飛び上がる。
ヒィィィ。結界のおかげで風圧とかたいていは平気。恐いのは、何かの弾みでぎゅっと握られるとか落とされる事!
いつか楽しくなる事を信じて、恐怖の遊覧散策へ行ってくるよ。
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