80:異世界の中世もコワイ!
「優嬢、デーティングが白紙になって残念だよ」
「私も、オオシロ方伯ならと賛成でしたのに…」
この世界のデーティングはいまいち覚束なかったので、白紙になっても万が一断られても遺恨を残さないデーティングのルールを諭されてお招きに預かったお茶会。
「お二人とも、何仰ってるんですか。
エリザベーテ妃殿下、ご懐妊おめでとうございます」
以前、エリザベーテ妃殿下と、数日遅れて王太子妃殿下にレッドルチルを差し上げた事がある。
お渡しした日数きっかりズレて、この度、両妃殿下のご懐妊が判明したのだ。
キナル王子ご夫妻にお子が。
次いでキナル王子とデーティングする事となった原因、王太子ご夫妻にお子が。
こうして両妃殿下がご懐妊になられ、第二妃を迎える意味がなくなったのでデーティングは白紙になったんだ。
エリザベーテ妃殿下もお子を望まれていたし、もっとお喜びになられても良いと思うが…?
「ええ、ありがとう」
声は弾んでいらっしゃるのだが、表情は全く分からない…。
先にお祝いを述べた、王太子妃殿下もそうだったが…。
「マスクが気になりまして?」
あんまりにもまじまじと見つめたからだな。エリザベーテ妃殿下に図星を指されてしまった。
「じろじろと見てしまって、申し訳ありません」
地球の貴族女性にも色白であるためにビザードマスクがハイファッションになったり、モレッタが流行った時代があったそうだけど…。
それでも着用は旅行やスポーツの時とか、割と限定的な使われ方だったはず。
「女性が日に当たるのは体に良くないと言われております。妊婦は特に気をつけるようにと、妊娠中は常にマスクを着用するのですわ」
エリザベーテ妃殿下の言葉に、お茶会に集まっていらっしゃるロイヤルファミリーの皆さまが頷かれる。
「お日様に当たらないと…」
「体が弱くなるぞ…」
私もお父さんもぐったりしてしまったわ。
「決まった日が参りましたら、妊婦の間に入りますわ。安静にしますから、大丈夫ですわよ」
そう仰る割に、声が沈みましたよね?!
「そこは何をするお部屋なんでしょう?」
「出産を終えるまで、ただベッドで安静に過ごすのですわ」
「安静って…」
「安静にし過ぎにも程があるだろ……」
物には限度がだなっ。
いや、てゆうか…。
「もしかして、マタニティコルセットとか、普通のコルセットしてます?」
いつも通りのドレス姿に、嫌な予感しかしないぞ?!
「もちろんですわ!マタニティコルセットをしておりましてよ。
嗜みですもの」
いやーっ!!この世界にもマタニティコルセットあるんだ?!
「食事とかはどうなっているんだ?!」
「体力をつけるため、濃い味付けのお肉中心ですわ」
「お父さーん!!!」
異世界の中世もコワイっ!
「うわっ、優っ。言いたい事は分かるが叫ぶな」
◇
キナル王子とのデーティングが白紙になった確認と、白紙になった喜ばしい理由。そのお知らせのお茶会だったが、それどころではなくなった。
妊婦の間とやらは窓も小さく分厚いカーテンまでかかってて薄暗いし、空気が淀んでないか?!
出産も、夫側の親族全員と、宰相さまなど最低五名の立会人が産婆さんとお医者さんの他に集まって見守るって?!
マリー・アントワネットの200人よりましだが、五十歩百歩!妊婦さんにとっても、新生児にとっても最悪な環境でしかなかろう!
昔の妊婦さんの死亡率の高さや、死産の多さ、赤ちゃんの死亡率の高さの一端をまざまざと思い知ったよっ!
いつの時代かは知らないけど、妊娠さんの死亡率が三人に一人とかとにかく高い!
そのせいか、出産に際して遺言を書いたりする事もあったのも頷ける。
ここもそれに近い死亡率なんじゃないのかな?!
「はあ。お父さん…」
「ああ、このまま帰ってはいけないよな…」
私もお父さんもお医者さんではない。それでもいくらかお手伝いやアドバイスできる事はあるだろう。
「なあ、クォーツよ」
「ツヨシ、皆まで言わずとも分かっている。
私も王妃も一人目はすぐに授かったが、悲しい事に死産だった。
時を置いてやっと授かった二人目も死産。
キナルとベーテの間にも夭折した子がある。
王妃は六度の出産のうち、二度死にかけた。
だから少しでも安全に産に臨める環境にできるなら、手を貸してくれまいか」
「分かる範囲で最大限、お力になります」
精一杯の笑顔で、そう申しあげる。
「ああ。力の及ぶ限り、友人の力になろう」
◇
こうして私とお父さんは王都に残る事に。お母さんとサーラちゃんは予定通り、二日後旧王都へ帰る事になった。
「家はアージヨたちが管理してくれてるから大丈夫だけど…。
お店を副店長にお任せしっぱなしだから、先に帰るわ」
「サーラもリラさんが料理教室見てくれてるけど、戻らないと」
「そうだな。本店はアージヨに任せきりでも、まだしばらく回せるだろうが宜しく伝えてくれ」
キャンピングカーはこのまま私とお父さんが使う。
お母さんたちは途中にある町や村に泊まりながら帰るんだ。アカザさんたちは集団暴走を止めた式典やお祝いも終わっているので先に帰ってて、護衛には王家の騎士さん方が付いて下さるって。
私は意識がなかったから出てないよ。まーたあの窮屈なドレス着なくてラッキーだと思っていたが…。
「方伯の意識も戻り、元気になったのだ。席を設けねばな」
「陛下、私の事でしたら…」
「方伯が華やかな場を好まないのは知っておるが、それでは民たちが納得せぬ」
「優、諦めろ」
現代なら当然の事をしたまでですとか何とか断われそうなのに…っ。
これを断れないのも、異世界の中世コワイ…っ!
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