79:もう一つの戦い
「優…!意識が戻って良かった!」
「お母さん。いつも心配かけてごめんなさい」
「優。意識が戻らないままじゃ、いずれ餓死するんじゃないかと…。
集団暴走を止められても、お前が死んでしまうならやっぱり行かせるんじゃなかったと…!
何がなんでも止めなかった自分を…っ」
「お父さん、ストップ。
お父さんは何も悪くないって断言できるよ」
それは私の責任だ。
三ヶ月も意識がなくなる怪我を負ったけどさ。戦いの最中で死んでいようと、怪我して意識が戻らないまま死んでいようと、だ。
行かなくちゃいかない、行くと決めたのは私で、どんな結果も私に付随するものだ。
「私の方こそ、ごめんなさい。
自ら危険に飛び込み、お父さんまで巻き込んで…、ごめんなさい」
今更ながら、気付く。お父さんが本当に本当に、無事で良かった。
ユリシーズさんからお父さんたちが来るまでの間に、あの戦いで私を含め重症者は出たものの死者は無かったと教えてもらったよ。
死者がいなくて本当に良かった…!
集団暴走を止めたいって志を同じくしてくれた方達でも、お亡くなりになっていたら責任なんて取れなかったよ…っ。
「お姉ちゃん!本当に目が覚めてる!」
そうこうしていると、サーラちゃんが部屋に飛び込んで来た。クーとルーも一緒だ。
「サーラちゃん。昨日の夜、サーラちゃんがずっと付いててくれたんだってね。ありがとう。
それに心配かけてごめんね」
「いっぱいっ、心配したっんだから!わあああぁんっ」
動かし始めると、それなりに動くようになった手でサーラちゃんの頭を撫でる。
妹にこんなに心配かけるお姉ちゃんでごめんね。
「クー、ルー。戦いの時、最後まで守ってくれてありがとう」
体格も大きくなっているが、中身もちょっと成長したのかな?ベッドの下で大人しくお座りをしていたクーとルーに声をかけると、やっとベッドの上に飛び上がって来た二匹。
〘約束したもん〙
〘したもん。でも、約束守れなかったの…〙
どうやら二匹にとって、無傷である事が約束に含まれていたようだ。
「何言ってるの。約束守ってくれたよ。
だからこうして、クーにもルーにもまた触れるよ」
〘うん〙
ぺろっ、ぺろっ。
〘優〙
べろっ、べろっ。
「クー、ルー…。ほっぺた取れるってば」
二匹に頬を舐められているうちに、またトロトロと眠ったらしい。
意識が戻ったばかりだから、無理はさせるまいとそのまま寝かせてくれたそうだ。
その後も三日、起きては眠りを繰り返した。
◇
「陛下、直々のお見舞いをありがとうございます。
また、日々陛下の医術団の長、ヘイエルバート・サフォランド卿を差し向けて下さり、ありがとうこざいました」
様子をみながら普通に生活して問題ないと判断された、意識が戻ってから六日目。国王陛下直々にお見舞いに来て下さったのにはびっくりだ。
「座って楽にしたままで良い。ああ、喋り方も楽な喋り方でかまわんよ。まだ疲れやすくはあるそうだな?」
お礼を述べ、ソファーに座ると陛下はお話しを続けられた。
「それは当たり前の事。あの迷宮は最大規模の一つ。それに準じて集団暴走も最大規模と予想されておった。
それを食い止めた女傑に、最高の治療は当たり前。
方伯には衷心より感謝する。そなたのおかげで、一人の民も犠牲にならずにすんだ。これ程の偉業に、言葉では表せる礼も見つからぬ。
重ねて礼を申そう。そなたの働き、衷心より感謝する」
ここはアマリス城の一角。止めさせて頂いているキャンピングカーの中。
戦いの後、一昼夜眠って目覚めたお父さんは私の容態を見て取ると、陛下に即座にヘイエルバート卿による治療をお願いしたそうだ。
その願いは、陛下も快く許可して下さったって。
ヘイエルバート卿は、王城からすぐに迷宮まで駆けつけて下さったそうだよ。
しばらくして生活には不便がある迷宮を離れることとなった。容態も安定している。で、旧王都より王都が近いので、ヒーリングを受けながらアマリス城へ運ばれて今に至っているまでが聞かされた話の一部。
「招聘以降も、何かとオオシロ方伯に教わっておりましたからね。
それが役に立ちました」
王都に招聘された時、病気や菌に関してのヒーリング方法をお見せした事がある。
その後、スマホでだが手足が千切れた際の縫合をヒーリングでする方法や、脳挫傷といった脳へのダメージへのヒーリングをお教えしたりもしていたのだ。
「そうだな。それに異世界から来た女性の方伯が集団暴走を止める事にも、生きる事にも頑張っておったのだ。
我らも内部の敵を破る戦いに負けられぬと、奮起させられたな」
「内部の敵?」
「これはさすがに、キナルからも聞いておらぬか?」
「はい」
政治向きの話は一切聞いていない。深く頷いてお答えする。
◇
「戦争を仕掛ける代わりに宮廷に人を潜り込ませて国の乗っ取り、または崩壊を仕組んでいたんですか?」
「うむ。我が国は戦争ではかの国より強いが、情報戦には一歩劣る。そのため誰がスパイか、なかなか掴めなんだ。
やっとスパイは掴めたが、今度は証拠を掴むのにさらに苦労させられた」
忍者の桂男の術みたいな物があるのにも、そんな企みが進行していたのにも驚くばかりだ。
「王太子の第二妃候補が尽くこのスパイに絡め取られた一派の令嬢ばかりで、そちらも神経を使わねばならなんだ」
うあ?!そんな人をタワナアンナ張りに権力を持つこの国の王妃になんて迎える訳にいかないわ。
タワナアンナが何かって?
古代ヒッタイト帝国の王妃の事で、王が戦争で不在などの場合、タワナアンナは王に変わって政治を執る。そういう権力を持った王妃だよ。
黒ではあっても証拠がない。もちろん縁を持つわけにはいかないな…。
しかし、そんな上層部にスパイは食い込んでいたのか。すごい腕利き…。
「そんな陰謀を知らないキナルの支持者たちまで、キナルに第二妃をと言い始めた時にはさすがに頭が痛くなったな」
「それで事前に探りもなく、話が来たのか」
「そう言う事だ。
おかげでツヨシの機嫌は損ねたが、方伯ならこちらから頼んででも妃にもらいたいからな。そちらは進めさせた」
「俺がマーチャから教えてもらったデーティングとかなり違って、随分焦ったぞ!」
「私の知ってるデーティングとも違ってました…」
そもそも王族や貴族にデーティングがあると思わなかったよ!
「ああ、夜共に寝る事か?
他の大陸の話だが、異国より嫁いで来た妃が寝る前に王にホットミルクを差し上げたのだ。
妃の国ではそれは当たり前のもてなし。だが王の国では乳とはいえ、神官以外の者が牛の何かを他者に与えるのは何人だろうと斬首の行為。
それがもとで両国は戦争になったとある。
他にもいくつかあるぞ。
そのため、いきなりの処刑や刑罰を与える事を禁止した一年のデーティング期間を設け、折り合いをつけたりする機会を持つ事を多くの宗教が取り入れて推奨しておる」
デーティング自体は西洋人の転移者さんが持ち込んだって。
それをこの世界に合わせてアレンジしたものが、庶民から王族まで行われているそうだ。
最後の一線は越えない事と、本来なら処刑、処罰を与える事をされても先ずは話合いで和解が絶対のルールって…。
いや、本当に知ってるデーティングとかなりちがーうっ。
そんな事で戦争になるのは避けたいと思うのはおかしいか?と尋ねられた。
戦争になるよりマシかもなあ…………。
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