78:勝利を手に
戦いの火蓋は、青い竜さんのマックスの猛吹雪の息によって切られた。
聞いていた通り、竜さんの後方にはほとんど影響がなくて安心する。
下降も上昇も、あまり羽撃かないでとお願いした。なので、羽撃きの影響もあまりない。
青い竜さんが、迷宮の入口から離れる。
次の竜さんが入口に着くまでの僅かな間。奥からブレスに耐えて生き延びるか、攻撃が届かなかったのだろう魔物が飛び出して、クレーターに落下して行く。
落ちた衝撃や、次々上から落ちてくる魔物の下敷きになってさらにその数を減らす。
〘さすがに壁に着くまでに、全部屠るのは無理かな〙
そう言ってシルバーが、クレーターの底へ降りて行く。
途中でジャンプすると、舞い踊るかのように魔物を狩ってゆくのが圧巻だ。
バチバチッ。
ごおっ。
びききっ。
シルバーの攻撃に遭わなかった魔物。それ等はクレーターの淵に沿って埋めておいた、青空天井の威力の雷、炎、氷の罠にかかってさらに数を減らす。
壁に辿り着けたのは、20匹もいないだろう。
そして魔物たちは壁沿いに走り、堀へ入り始めた。
「この数なら行ける!皆、一匹ずつ確実に仕留めよ!」
「おお!」
クレーターの深さに円環状の山脈の高さを合わせた高所から、一斉に攻撃が開始された。
上空ではすでに竜さんたちが、飛翔する魔物を物理で倒している。
◇
「10G…っ」
鈍重な魔物なら、そのまま攻撃しても攻撃は当たる。
だが、俊敏な魔物はそうは行かない。
そこで重力操作ができないかと、ぶっつけ本番でやってみたが…。
できたのは良いが、魔力がごっそり減る。
初めこそこんな事をしなくても倒せていたが、時間が経つほど出てくる魔物が強くなって対策が必要になったんだ。
今日、もう何本目か分からないマジックハイポーションを飲んで魔力切れを回避する。
みんなの攻撃で倒せたが、もう新手が…。あれを一撃で倒すには…。
「はあっ、はあっ。絶対零度」
魔物が凍ると、すかさずユリシーズさんがシルバー925の粒を核に使って大きさと威力を嵩上げした土の槍で粉砕してくれる。
他の堀にこの魔物が行くと、かなり手間取っているようだ。
コンボとは言え、さっさと倒せるのは驚異的ではある。
いつの間にか増えた冒険者さんたちも、増援の正規軍の方たちももうフラフラだ。
お父さんやアカザさんなど、何人かは倒れて後方へ運ばれているし。
〘優…、あぶな…〙
〘…カマイタチ…っ〙
クーとルーは、クレーターをある程度登っても落ちない魔物を全部落として守り続けてくれている。
とっくに日は登った。今、何時になっているんだろう?いつまで続くんだろう?
[む。一番強い気配。あれが最後か?]
目は霞むし、竜さんの声もぼんやりとしか理解できないな…。
「し…しょぅ…っ」
あれ?空が見える。
ああ、今日も空は青くて綺麗だなー…。
◇
◇ ◇
◇◇ ◇
◇◇◇ ◇
んあ?ここ、どこだろう?
何かしてて、とても疲れてた気がするんだけど。勘違いだったのかな?
何もないし、誰も何もいないな。
あ、でも温かくて気持ち良いや。
うあ?!急にひんやりした!!びっくりしたなあ。えー、でもやっぱり誰もいないし、何もないじゃん。何なんだ?
ふあぁあ…。何か妙に疲れてて眠いな。ちょっと寝よっかな。
◇
◇ ◇
◇◇ ◇
◇◇◇ ◇
うんーっ。気持よく寝てるのに。誰?起こそうとしてるの。
◇
◇ ◇
◇◇ ◇
◇◇◇ ◇
『………』
もーっ。また誰か起こそうとしてるーっ。起こさないでよ。
◇
◇ ◇
◇◇ ◇
◇◇◇ ◇
『………、………?』
うぬー?誰?
待てよ?知ってる声、かも?
でも眠い。まだ寝かせてて。
◇
◇ ◇
◇◇ ◇
◇◇◇ ◇
『………、…。……』
いつもの声、だ。
何かされてる?撫でられてるのかな?
へへ。気持ち良いな。
◇
◇ ◇
◇◇ ◇
◇◇◇ ◇
『師匠。そろそろ目を覚まして?
頼むから…、死なないでくれ』
この声。この呼び方。
ユリシーズさん、だ。
私ね、お父さんが。お母さんが。サーラちゃんが。
他にも大切な人がたくたんできたこの国を守りたかったんだ。
ああ、そっか。大切な人はたくさんいるけど、ユリシーズさんがいるから守りたかったんだ。
ユリシーズさんがいつも通り暮らせる、何気ない日々を。
恐いって思ってたのに、いつの間にかー…。
◇◇◇ ◇
◇◇ ◇
◇ ◇
◇
「…ふ……ぅ…」
「師匠…?」
焦点がなかなか合わず、しばらくぼーっとしてしまった。
そうしている内にユリシーズさんに手を取られ、ぎゅっと握られる。
「くらくら、する…」
「うん、うん。火の竜と最後の魔物の戦いが始まってすぐ、飛んできた物が頭に当たって三ヶ月も意識がなかったから…。
体力も筋力もないんだと思う」
「三ヶ月…。三ヶ月…?」
声が酷く掠れてしゃべりにくいな。
「大丈夫。師匠のおかげだ。
三ヶ月前のあの日。集団暴走はクレーターで防ぎきれたよ」
「良かった…」
「うん。
オオシロさんたちを呼びに行くけど、先に何か飲む?腹減ってない?」
「いるかの時に飲んだカシス。冷たいの」
「分かった。待ってて」
ユリシーズさんは握っていた手をそっとベッドへ下ろすと、カシスを入れに行ってくれた。
一人になり、じわじわ喜びが胸に湧き上がるのを感じる。
「最後、見れなかったのはザンネン。
見れなかったけど、防げたんだ」
実感はない。だけど、今はそれで良いや。
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