77:戦闘開始
あっつーいぃ…。それに重いぃ……。
寝返りを打とうとしてできず、あれっと目を開けるとクーとルーが私にのしかかって眠っていた。
「クー、ルー…」
私とお父さんは一般人で、普段から鍛えている軍人さんたちとは違う。しかも明け方から馬を飛ばした後、コツコツと 円環状の山脈を作っていた私。けっこうヘロヘロだったのがバレてしまった。
お父さんはお父さんで馬を飛ばしてここに着いて、さらに里を歩いて突っ切ったからね。少々堪えているみたいだ。
なので日が落ちるまでは大丈夫なら、それまで休むよう厳命されてしまったんだよね。誰にかって?将軍さま、アッシュ卿にユリシーズさんに…。
まあ、皆からだよ。
確かにあのままでは役に立たないので、後ろ髪を引かれる思いだが休ませて頂いていたのだ。他の人たちは交代で休んでいる。
で、休ませて頂いているうちにクーとルーは着いたようだ。のしかかられても気付かないくらい、ぐっすり眠り込んでいたらしい。
〘優、大丈夫?〙
〘恐くない?〙
「半分恐くて、半分恐くないかな」
起き出したクーとルーが、そんな事を聞いてくる。
地球には集団暴走がないからか?そんな感じ。
集団獣害っていうイメージもしてみたが…。それでもいまいちだったんだよな。
〘クー、ずっとそばにいるからね〙
〘ルーもずっとそばにいるの。でね、イーッパイがんばる〙
「ありがとう。クー、ルー。大好きだよ」
しばらくクーとルーと戯れると、外へ向う。今どうなっているのか、状況を確認したい。
だが部屋のドアを開けると、リビングにはお父さんはじめ、みんな集まっていた。
「優も起きたか」
「お父さんも起きたところ?」
「ああ、ずいぶん眠ったな」
「明け方前から活動してたからね」
「だな。
この後だが、食事を済ませて装備をととのえてから、将軍のところへ集まってくれって事だ。遅くても、日が沈み切ったら集合が終わるようにとさ」
「分かった」
私とお父さんは日本人の性なのか、お風呂にも入っておきたい。
初夏の日中に、それも日向で活動したのでかなり汗をかいて体がベタベタするのが気持ち悪いんだ。
髪の長い私からお風呂に入る事になり、その間にお父さんがご飯を作ってくれる事になった。
メニューはごろごろお肉と野菜のチャーハン、サラダ、具だくさんみそ汁。
シャワーを浴びると、お父さんと交代してご飯作りを引き継ぐ。
お風呂から上がったお父さんも加わり、皆で食事をすませる。
「お父さん、防具なんて持ってたんだ?!」
食事が終わって、みんなが装備をととのえ始めて驚いた。
「この世界だからな。戦わないにしても、防具くらいはないと。
優はそれで終わりか?」
「うん」
お父さんはじめ、皆が私の事を頭から爪先まで視線を走らせて眺める。
防刃に優れているのに、子羊の皮みたいに柔らかな魔物の素材で作った上下。陸自の方の服をイメージして作った物だ。
それにしっかりしたブーツ。本当は革靴にするんだが、解けにくいのでベルルッティ結びにしたちょうょ結びをブーツの中に入れ込んである。
防具は何もつけていない。
「軽装過ぎるだろ…」
言われてみれば、魔法使いのナハルさんも軽鎧をいつも身に着けているな。
二度見したお父さんが一言もらした言葉に、返す言葉もないわ。
「いや、だって慣れない物着けてる方がさ」
「分かった分かった。今更言っても始まらん」
「師匠、マントも無理?このマントは衝撃を緩和する素材なんだ」
「ありがとう。気持ちだけもらっておくね。
マントを捌きながら動き回る自信がないや」
ユリシーズさんが予備のマントを出してくれたが、身に着けているだけで暑さでバテそうな事もあり受け取らなかった。
こうして身支度を終え、将軍さまの下へ。
◇
「では私達は、この堀を担当すれば良いんですね」
「うむ。ここが一番楽かと思われますからな」
与えられたのは、迷宮の入口から考えられる、出てくる一番大きな魔物が一匹入る程度の短い堀の一つ。一番東に位置している。
魔力は少しも無駄にしないよう、魔道具の明かりが点っている。もう少しして、真っ暗になっても大丈夫だろう。
竜さんの要望で、迷宮の入口には四箇所明かりがつけられている最中だ。
夜に事が起こると、夜目が利かないから目印に良いって。
「ご武運と、ご無事であれ」
「ありがとうございます。
みなさまにもご武運があり、ご無事でありますよう」
ここへ来るまでに話していたので、将軍さまたちは最後にそれだけ仰ると戻って行かれた。
その後ろ姿を見送ると、アッシュ卿と、治療魔法の得意な方と、支援魔法が得意な方も含めた九人で座って一点を見つめる。
◇
どのくらしそうしていたのかは分からない。
ただ、耳が痛くなるほど静かな時間が過ぎた。
[来るぞ]
月が真上に上がりそうな頃だったろう。青い竜さんの言葉が頭に響いた。
「クー、ルー!吠えてみんなに知らせて!」
アオーォオっ。
こうして集団暴走を食い止める戦いが幕を開けた。
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