76:準備完了
「ゆ、優ー?!どこだー!!?」
あ、お父さんたちが着いたようだ。
「おとーさーんっ。ここ、ここだよ!」
円環状の山脈の上で手を振りながら、大声をあげる。
「一旦休憩に降りるから、今いる所で待っててーっ」
円環状の山脈の上でこまめに休憩はしていたが、朝ごはんにお弁当を食べてから何も食べていない。そろそろお昼らしく、とてもお腹が空いている。
お父さんたちにも休憩が必要だろう。
円環状の山脈の上を歩きながら、お父さんたちを探す。そして姿を捉えると、階段を作って近くへ降りてゆく。
「円環状の山脈ですら、かなりの規模になってるな」
座って休んでいたお父さんがこちらを見上げながら、素直な感想を投げかけて来た。
「竜さんが動ける大きさにしたからさ。考えていたより、深くて大きくなったんだよ」
一度地面に降りてしまうより、何かに捕まってでもホバリングする方が交代がスムーズに出来るんだとさ。洞窟の中にブレスを叩き込むにも、洞窟の前は窪んでいる方が都合が良いって。それは分からなくもない。
立ったままだと、洞窟の位置はとても低い所になる。だからといって、べたっと寝転がって、洞窟に向けてブレスを吐き出すのはといえば…。態勢を整えるのも、ブレスを吐くのも大変だろう。
「机上と現実の違いだな」
「本当にそうだね。
ところでクーとルーは?」
集団暴走を止めようなんて無茶な事をやろうとしているのだ。クーとルーが本能で逃げたとしても、それは致し方ない事だと思う。
その時だ。お父さんたちの背後、かなり後方から凄い気配が勢いよく近づいて来た。
私、お父さん、ユリシーズさん、アカザさん、アカギさん、ナハルさんは即座に臨戦態勢をとったよ。
〘ちび共の言う、"優"とやらがおるのはここか?〙
でかい…!坂の下から姿を表したそれ。たぶんフェンリルの成体だ!魔物の馬、アイルより一回りは大きいかもしれない。
艷やかな銀灰色の体毛に覆われた精悍な生き物は、目を奪われるほど美しい生き物だった。
〘ん?ここにはおらんのか?〙
「いるよ、私が優だよ。
あんまりにも綺麗で見惚れてたんだ。ごめんね」
〘恐れる事もなく、綺麗とは…。
ちび共の言う通り、変わった人間だな〙
変わった人間だとは心外だ。でもね、本当に美しいよ!
「う、えーっと。どうして私を探していたの?」
ちょっとショックを受けたが、さっさと話を進めよう。
〘ああ、そうそう。集団暴走を止めようなどと、面白そうな事をすると聞いてな。混ざりにきたのだ〙
銀灰色のフェンリルはニタリとした笑みを浮かべ、巨大な円環状の山脈を目上げた。
思ってもいない強力な戦力だ!本当に戦ってくれるの?!
〘戦うさ。あれが起こると森も野も落ち着かんらしく、食うに困る事もあるらしいからな〙
今でも縄張りから獲物が減っていて、獲物にありつけない日も多いというのにと銀灰色のフェンリルはぼやく。
「縄張りを変えたりしないの?」
〘雌ならより子育てのしやすい縄張りを探す事もあるが、雄はほぼしない〙
集団暴走でも縄張りを変えないって事は、ほぼ変えないんだろうなと思う。変えないなら、私達みたいな酔狂な人間と行動を共にするのもありなのかも。
「そっか。じゃあしばらくの間、宜しくね」
〘うん。
そうだ。ちび共からの伝言があったな。寝て元気になったら、必ず行くから、と〙
クー!ルー!逃げても気にしないのに…。むしろ逃げて欲しいくらいだよ!
クーとルーが元気になったら来る事が分かり、ちょっと泣きそうになってしまった。今泣くくらいなら、クーとルーも一緒に戦って、生き残って泣くんだ…!
◇
銀灰色のフェンリルをフェンリルと呼ぶと、クーとルーも反応するかもしれない。そんな訳で便宜上、シルバーと呼ばせてもらう事にした。
シルバーに、クーとルーが狩ってお土産にとくれて貯まっていた獲物をあげる。
言わずもがな、ワイルドな食事風景になるだろう。
よってシルバーと離れた所にコンテナハウスを出し、遅くなったお昼を摂る。
お昼が終わる頃、何とアッシュ卿を含む正規軍100人が到着した。
「私は能力としては魔法騎兵が最良だが、それでは父の後を継げないからね。
とは言え、魔法騎兵との御前試合などでは負けなし。この力をここへ持って来るのは至極当然だろう?」
「当然って、そんな王族のお一人が…」
「本当に護るべきは、現国王陛下のご一家。私はご一家と国民を護る側だよ」
この国の王族の有り様は知らない。だからそれ以上、何も言わない事に決めた。
軍の指揮をとる将軍さまに、挨拶とやろうとしている事を伝えに伺った。食事を終えたシルバーに、バサリと上空を舞う竜さんにも軍が大混乱に陥りつつで大変だったよ。
でもさ、みんな竜とフェンリルが一緒に集団暴走に立ち向かってくれると分かると、凄く士気が上がったんだ。
「さあ、絶対に止めるために準備しちゃいましょう」
「おおーっ!!!」
思ったより人が集まり、物資も届いた。
私たちは円環状の山脈や円環状の山脈から続く堀。延焼を考えて、辺りを先に焼き払ったりの準備を終えてその時を待ったのだった。
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