71:料理教室
「うわあ、希望者さんがたくさん…」
「良い事じゃないか。どうしてそんな顔をしてるのさ」
慌ただしい日々を過ごし、あっという間に料理教室の開講日となった。
三日前から受講希望者さんの受付は開始していたが…。開始と同時に実習の早いクラスから、一日三回あるどのクラスもすぐに受講希望者さんで一杯になる盛況ぶりに困惑するしかない。
受付などの事務を担当してくれるマリエッタさんも、初日から大盛況でテンパっている。
有料だし、もっと少しずつ受講者さんが増えると想像していたんだけどね…。
「サーラちゃんも手伝いに来てもらって良かっただろう?」
アカザさんの助言で、サーラちゃんもフォローに入ってもらった方が良いと言って下さったのだ。
なんせサーラちゃんは三人娘とリラさんよりニホンンショクに詳しく、料理もちゃんとできる稀有な人材。
「本当に、助言通りにして良かったです」
これで各クラスに一人、アシが入っている算段だ。
これだと先生は調理に専念できる。アシは教室を巡回して手間取っていたり、困ってる方をフォローして回り役割分担出来るのが大きい。
私もこの後、調理実習クラスのフォローに入るんだ。
「ニホンンショクは人気が高いが、教えられる者が少ないからね。当然の結果だよ」
「そうですよ、優さま。こちらは私が手助けに入りますから、そろそろ教室へ向かっては?」
「ありがとうございます、サイラさん。お言葉に甘えさせてもらいますね」
実習クラスへ向かいつつ、交代で休みも取るし、先生を増やした方が良いなと考える。
◇
「では、時間になりましたので始めます。みなさん、宜しくお願いします」
今日の実習クラスの先生はリラさんだ。緊張した面持ちで、授業の開始を告げている。
初めにレシピを読み、流れを頭に入れるスタイルにした。
家庭科の調理実習教室さながらの教室は、みんな真剣でおしゃべりなんかは聞こえてこない。
受講者さん達も、こんなスタイルで料理を教わるのは初だろう。とても緊張もしているようだ。
それでも順調に講義は続いている。
一番最初に疑問の声が上がったのは、いう間でもなくアレだ。
「分量は必ずこの計量カップ、計量スプーンを使って下さい」
「これは必ず使うんですか?」
「はい。誰が作っても同じ味にするには、必ず使う必要があります」
「もしかして、錬金術師の使っている道具ですか?」
「その通りです。ツヨシさまや優さん達には、料理器具として馴染みがあるそうです」
「料理器具として馴染みが…!」
そこで少しざわついたものの、後は使い方が分からず時間がちょっとかかったくらいですんだ。
◇
「んん!どっちもちゃんと似た味になってるわ…!」
「いや、四つ全部だ!」
試食の時、同じ作業テーブルの四人で一つずつ唐揚げを交換するのも決めていた事だ。そして食べてもらって味のバラつきが少ない事を体感してもらった感想が、先程の言葉になる。
「計量カップとスプーンを使う意味。分かってもらえたかな?」
「はい、優さん。これは料理道具としても、とても優秀な道具だったんですね」
質問された方の他にも何人か、計量カップと計量スプーンをしみじみと見つめている。
「目分量で作れるくらになるとか、慣れて味見でこの味になったか判断できるとかになるまでは必ず使う方が良いですよ。間違いがありませんから」
こうして試食まで楽しく終わると、洗い物をして終了となる。みなさんを見送ると、お昼ご飯だ。
◇
事務所にみんな集まり、お昼を摂りながら困った事をメインにあれこれ話す。
事前に入念なシミュレーションをしていたため、どこも特筆するほどの困った事はないそうだ。
シミュレーションは3回。お母さんのお友達や孤児院の子供達に受講者として入ってもらって、一連の流れの練習をしたんだよね。
「そっか。じゃあそこまで急いで、新しい人は増やさなくて大丈夫かな?」
「うん、しばらく様子見てからで良いと思う」
バターチーズスパゲッティを食べ終わったリラさんが、お代わりしつつ答えてくれた。
「私達も慣れてないから捌けないけど、慣れたら捌ける人数しか教室には入れないわけだから。慣れるまでの事だよ」
「そうですよ、優さま。初めての授業ですっごく緊張したもん」
「本当にね」
「一人でなくて良かったわ〜」
さすがにもう、三人娘にも私がオオシロ方伯だと知れている。そんな三人もリラさんも私が選んだ人材。
私の選んだ人達が慣れれば大丈夫と言っているのだ。信じよう。
◇
実習クラスの講師は毎回交代する。ここが一番、精神的に疲れるだろうからね。
今日の午後一番の実習クラスの講師はカーマさん。アシは朝に続いて私。
午後の休憩を挟んで、最後の実習クラスの講師はアマリアさん。アシはまたも私。一番気を揉むクラスなので、アシとして入って様子見しているんだ。
私の心配をよそに一日が終わると、拍子抜けするほど平和に料理教室の初日は終わった。
「みなさん、初日ご苦労さまでした。明日からも宜しくお願いします」
簡単な挨拶を終えると、細やかな食事会でこの教室に関わるすべての職員さん達と無事に初日を終えた労を労い合う。
サイラさんは遅くなると申し訳ないので、料理を取り分けて持って帰って頂くので馬車まで見送った。
「サイラさん、本当にありがとうございました。とても助かりました」
「私も楽しかったですから、気にしないで下さい。
それよりお料理こんなに頂いて、本当に良いんですか?」
「本当にありがとう。料理は多めにあるんで大丈夫です。ご家族で楽しんで下さい」
サイラさんを見送り、食事会の席へ戻るとみんなとの食事を楽しむ。
お休みのローニーさんは、朝一の実習クラスを受講されてた(笑)作り方は三人娘とリラさんに教えてるのを見ていたから覚えたが、料理教室の雰囲気を体験したかったそうだ。
明日があるのでほどほどの時間にお開きにして、最初の一週間をまずみんなで乗り切ろうと心を一つにした夜となった。
お読み下さって有難うございます。
お楽しみ頂けましたら幸いです。
面白かった、良かったなどお気楽に、下の
☆☆☆☆☆
にて★1から★5で評価して下さいね!
続きが気になった方は、ブックマークして下さるとすっごく嬉しいです!
感想や応援メッセージもお待ちしてます!




