70:安価で快適な家を希望
「仮設住宅とか組み立て式の家を、できるだけ安価に作る方法はないかな?」
今日は日曜。お父さんがゆっくりできる、唯一の日だ。
「そうだな、聞いた限りの家じゃ落ち着かないだろうしな」
今日はお父さんに開拓村で見た家の事、それをどうにか出来ないか相談している。
「やっぱり安価になら、パネルハウスだよな。補助の金額以内で建てられて、且つ快適な住心地。これが目標だな」
お父さんは頭をがりがり掻きながら、早くも思考を巡らせ始めたようだ。
誰にでも作れて気密性が高く、工費のなるべくかからない物。後、できたら断熱材くらいは入れておきたい。
「内装の壁板と、外壁の板の間にあのコルク状の板根の板を入れた物を一枚のパネルにしてしまって…。
屋根は傾斜のある物の方がこの国には適してるから、天井断熱の方向で………」
今までに色々こちらの素材で、現代日本のような家を作る試作を繰り返していたのかな?お父さんは一瞬沈黙すると、ぶつぶつと小さな声で構想を呟き始めた。
それにしても面白そうな言葉が出て来たな。コルクみたいな板根って、一体どんな物なんだろうか?
「鉄より銅が安いから…。
うん。よし!これで試作を作ってみるか!」
◇
「ほえー、本当に見た目は板根なのに、中はコルクみたい。不思議なざ、材木…?」
「だろう?昔、集団暴走を弱められないかと、かなり植樹されたらしいんだ」
「へえ!結果は?」
「建材にもならないくらい脆くて、ダメだろうってさ」
「ははは。うまく行かないもんだね」
まあ板根の見た目は、防壁になりそうだもんね。試してみたくもなるわ。
お父さんの仕事場で話し合いが終わり、そのままさっそくパネルの試作に取り掛かる。
「この家の断熱材は何を使ってるの?」
「ウールブレスを考えていたが、高すぎたんでな。炭化コルクを使ったよ」
「うお。高級品!」
「今日使うコルクみたいな板根が使えりゃ安くあがったんだが…。この家を建てる時はまだ使える代物になってなかったからな」
「コルクは安かったの?」
「地球とは違って成長も早いし、分布域も広いからあっちより安い」
お父さんは手を動かしながら材料を用意していく。
「このコルクみたいな板根な。普通のコルクの加工や自然乾燥させると使い物にならなくなるんだ」
「さすが異世界の物…」
「だな。色々試して煮たりの工程もせず、採取してすぐに焼板みたいにすると、断熱材としては十分使えるようになったんだ」
確かに表面の皮の方は軽く炙られて、薄っすら焦げ目がついている。
それにしても生木で炙るとか…。日本人の発想にはなさそうだけどな。よくお父さんは、使えるようにする方法を見付けたものだ。
「ある物で形にしたが、パネルはこんなもんでどうだ?」
パネルは900ミリ✕2100ミリ。厚みが約100ミリ。外壁側の下地板に外壁を張る。下地板の縁を3センチくらいの角材で囲み、さらに縦横に角材を入れて4つに分割。そこへ軽く焼いた板根の皮側を、下地板と向かい合わせにして嵌める。最後に内壁を張ると、パネルの完成となった。
「私じゃこの断熱材の入った効果は分からないや。
費用はどうなりそう?」
どきどきしながらお父さんに問いかけてみた。
「ここまでなら普通の家より高い。が、自分で組み立てるなら大工を頼むより安く仕上がるか、トントンくらいに収まるはずだ」
あー、人件費は何より高いからね…。
「じゃあワンルームくらいの小屋が建てれるパーツお願いしても良い?それで説明書見ながら建てられたら、登録申請お願いして良いかな?」
「おいおい、忘れたのか?優が言い出して俺が試作したものは、優名義で登録の約束したろう?」
「覚えてたんだ。お父さんが休みを潰して試作してくれたのに、なんでお父さん名義じゃダメなの?」
「ダメに決まってる。俺は試作を作れない娘の代わりに、試作を作ってるだけだからな!」
そう言ってお父さんは、屈託なくにかっと笑う。そうだよね。親子になる前からそうしてくれていたもんね。
「分かった。じゃあ遠慮なく、私名義で登録するね」
「おう。鋸の礼だ!
それでも気になるなら、毎日旨い日本食食べさせてくれ!」
「了解!近いうちにまた海老が届くから、なにか美味しい物を作るよ」
◇
本日も気配が感じられなくなったローニーさんと、家にいるのに護衛に付いているユリシーズさんをふり返った。サイラさんはお休みだ。
銅を錬金術スキルで部材に錬成しながら話しかける。
「ローニーさん。今日はどうしたんですか?」
事前に作りたい物は伝えておいたし、ホント、どうしたんだろ?
「組み立てる家とお聞きした時も驚きましたけど、断熱材の使われている家が…家が…」
「普通の家より安いって、あり得ない」
「ははは。板根コルクは今のところ、俺以外には利用価値がなくて恐ろしく安いからな。
これには断熱材を入れたが、日本でもこの工法は安く早く建てられる家なんだ」
「日本や日本のあった世界には、驚かされる事がたくさんですね!」
お父さんに答えたのは、カールくんと同じ日に家で働く事になったモリスくん。板根コルクを唯一扱っている商会へ、買付けに行ってくれていたのだ。
「モリスくんは寺子屋の中級課程を修了したんだよね?
お父さんの見習いはどう?」
「すごく目をかけて頂いてて、今は正式に弟子にして頂いてます。
弟が元気になったのも、こうして親方の弟子になれたのも優さまのおかげです!本当にありがとうございます」
「ご縁があったんだ。私のおかげじゃないよ」
そうこうしていると、お父さんの内弟子さんのお二人も加わってパネルが量産されていく。
壁面パネル、床パネル、天井パネル、屋根パネル。それらが順次、必要数出来上がる。銅の部材も出来上がっているよ。
◇
「みんな、ありがとう。ちょっと遅くなったけど、お昼をご馳走するね」
「面白い物を見れた上に、ニホンショクが食べれるんですか?!」
「気持ち程度だが、手当も受け取ってくれ」
だが、これは誰も受け取ろうとはしなかった。
「俺達の生活が良くなる物の試作のお手伝いができた。これに勝る価値はありせん!」
「断熱材の入った家に、田舎の両親や兄弟を住ませてやれるかもしれない。
俺はそれで十分です!」
「優さまのお役に立てた。親方のお役に立てた。
僕はそれで十分です」
「みんな…、ありがとう。恩に着る」
「みんな、本当にありがとう」
お父さんと二人、頭を下げるしかなかった。本当にありがとう。
ちょっと豪華にしたお昼の後。一般の方に一番体力的なものが近いローニーさんとマーズくんが加わって、説明書を見ながら組み立ててもらったよ。
上下や組み立てる番号をパネルや部材に振っておいたのも良かったようだ。
昔からあるという、簡易クレーンと馬を使って一時間もあれば出来上がった。この準備が終わると、後は早かったんだよね。
かかった時間を確認したローニーさんは、物凄く目を剥いてたと付しておく。
「これなら夕方までに作業にかかれば、当日から最低限の生活空間を確保できるね」
「ああ、これで外と変わらない生活をする事はないだろ」
パネルハウスはローニーさんによって大至急書類が整備され、登録にこぎ着けた。
そのおかげで冬までに普及が始まったのは、僥倖の一言に尽きるね。
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