69:料理教室の準備
「わあ。空調効いてるし、きれいで清潔」
「そうだろう。料理の教室だからな。空調は強く効くようにしてあるし、清潔感を重視した内装にしたからな」
今日はお父さんにお願いしていた、料理教室の内見に来ている。
まだ設備が入っていないので、ガランとしていてとても広い。その広いスペースにこちらの建物にしては多く取られた窓から光が差し込み、室内を明るく照らしている。そのため、壁のナチュラブラウンの板が輝いているのだ。床の水に強いモルタルの白も、目に眩しい程の光を反射している。
「ありがとう、お父さん。ここなら生徒さん達、気持ち良く実習ができるよ」
「可愛い娘の料理教室だ。成功するように腕を振るったさ」
「うん。お父さん。本当にありがとう」
一階には実習室の他、受講希望者さんの受付や事務所が。二階は見るだけの方向けの教室が二つ。
お父さんが手掛けただけあり、日本で使っても恥ずかしくない物になっている。さすがお父さん!
内部を見終わると、外へ出て来た。荷物の積み下ろしのためにだろうか。庭も広めで、40フィートのコンテナハウスが余裕を持って設置できる広さがある。
キッチンは各部屋にはいらないとの事で、一階に一つだけ。
コンテナを重ねて作る二階と三階は、個室と通路のみ。土魔法でトイレとお風呂スペースを外部に付け足す。
このためのコンテナハウスも発注して、すでに納品されている。
「じゃあ社員寮作るかな」
「おう。それが出来たら、トイレなんかの設備は入れるよ」
「うん。宜しくお願いします」
お父さんに答えながらコンテナハウスを積み上げ、一階は倉庫の裏へ繋がる通路を作る。作った通路の上へ、上階のトイレとお風呂スペースの部分を作ってしまえば社員寮の完成。
「なるほど。こりゃ早くできて良いな」
「でしょ?隙間風がないのと、火事にならないのも利点かな」
◇
少し話しをして後はお父さんにお任せし、家路につく。
馬車に乗り込む段になって、ローニーさんとサイラさんがいた事を思い出したよ。あんまりにもしゃべらないし気配がないから、すっかりお二人の存在を忘れてたわ。
「二人とも、どうしたんですか?」
「いえ…、何だかもう……」
「色々すごすぎて……」
呆気にとられていたらしい。特に土魔法の建造物部分。何でだろう?
「土の家なんてと思っていましたが、あれが作れる土魔法の使い手が増えれば田舎の家も格段に良くなります」
「新しい村は家もずいぶんましですが、古い村や開拓村などは昔ながらの掘っ立て小屋がまだまだ主流ですからね」
「えっ?!あの荒屋!開拓村では標準なの?!
それに古い村でも?!」
「家を建てる事は中々できませんからね。修理して修理して受け継ぎますので、古い建物が多いんですよ」
「開拓村もそこを治める方から補助が出るとはいえ、元が貧しい方がほとんどです。
ですから町では普通の建て方の家を建てれる財産がある方が少ないので…。どうしても、安く作れる古い家になりがちです」
そっか。その辺は現代日本より、遥かに大変なんだ。
仮設住宅とか組み立てタイプの家を参考に、もっと住心地の良い安価な家が作れないかお父さんに相談してみよう。
いくらなんでも、あれは酷い代物だよ。
◇
家に着くと、今度は料理をレクチャーだ。
そうそう。リラさんも料理教室で働きたいって事で、紅き剣を辞められた。
なんでも料理が面白くなってしまい、そっちの方へ進みたくなったって。
ちなみにユリシーズさんは、魔法の弟子兼護衛としてまだ付いている。
カールくんは厩務員の仕事に戻ったけど、サーラちゃんの遊び相手の仕事が増えた。
マーズくんは先に孤児院を出た仲良しさんとの約束の日までまだまだ時間があるそうで、家に寄宿してるんだ。といっても、カールくんの部屋に一緒にいるんだけどね。
話しを戻そう。
今から料理組と美文字組に別れて面倒をみる。
美文字組はローニーさん、サイラさん、サーラちゃんと、カールくんを加えた四人。
「じゃあ美文字組は今言った事をして下さい。分からなければカールくんに聞いてみて」
下にクラゲみたいな生き物の皮を敷いてみたので、硬い机の上で直に書くより書きやすいでしょ。
みんなが書き始めたのを確認して、今度は料理にかかる。
「こっちは6月のメニューの練習にかかりましょう」
「お願いします」×7
料理組は三人娘でしょ。それにリラさん、ユリシーズさん、マーズくん、アカザさんの7人。
家のキッチンとダイニングじゃ狭いから、青空教室である。
オリーブオイルの他に、綿実油、菜種油、大豆油の三種類の油が安価で出回っているのでとても有難い。
お父さんのニホンンショク食堂でも人気の鶏の唐揚げ、生姜焼きの二品を今日はレクチャー。
料理教室では一ヶ月単位で、月曜から土曜まで毎日違う物を教える。次の月はまた違う六品を月曜から土曜まで教え、次の月はまた別のというふうにする予定だ。
料理教室のオープンまでに十二品、せめて十品覚えてもらう予定のうちの二品。さて、どうなるかな?
◇
「んんーんっ!美味しいです!」
「鶏が柔らかくて…!味が染みてて…!美味し〜いっ!」
「ちゃんと中まで火が通ってる…!」
え…っ?!普通通るでしょう?!
「油の温度の見極め方が分かったから、程よく揚げれたもんね」
「いつもは衣が真っ黒で、中は生のままだもんねぇ…」
あー、もしかして…。焚火とか、薪を使うコンロでしてて火加減が難しかったのもあるのかな…?
味付けも計量の概念がなく、目分量だったしね………。
計量カップも計量スプーンも商業者ギルドで発注したら普通に受理されたから、あるはずだよね???
なんで使わないのかなー?
「生姜焼きも、まさにツヨシさまの作った物の味…!」
「これを家で作れたら………」
「今日見ていた限りでは、ちゃんと計量カップと計量スプーンを使えばかなりお父さんの味に近い味を誰でも作れそうですけど?」
「計量カップ?」
「計量スプーン???」
え?何でそこで小首を傾げる?!
現物を持って来て、ローニーさんとサイラさに見てもらった。
「うーん、どこかで見た物ですが…」
「あ!分かりました!
それは錬金術師の使う、特殊な道具ですよ」
二つの世界の違い、再びいっ!
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