68:あれもこれも
昨日は家族にアカザさん達、ユリシーズさん、カールくん、マーズくん、新人冒険者の女の子三人組。それにお父さんとお母さんの内弟子さん達と、大勢でバーベキューを堪能したよ。
その後遅くまで家族で尽きぬお土産話しをして、夜更しもしておおいに楽しんだ。
その翌日。
「ローニーさんとサイラさん…。
お早うございます」
10時からキャンピングカーを掃除して魔道具ギルドへ返却へ向かおうと、まだ着替えてもいない時間にローニーさんとサイラさんがやって来た。
始業時間の9時少し前だから、そこまで早い時間ってわけでもないが…。
「優嬢、ご無事で何よりです。お帰りなさい」
「ご無事で安心しました。お帰りなさい」
「ただいま。えっと?今日は??」
まだ帰った挨拶にも伺っていないし、何も約束はなかったはずなんだけど?
「もちろん、仕事です。今日からまた優さまの下へと、辞令も出ております」
「お帰りを待っていた書類も溜まってますから」
「待って、待った。まだやる事が」
「合間にできる事から少しでも進めるようにと、エバーソンさまから言付かっております」
エバーソンさんの鬼ぃぃいっ!!
◇
「優さん、ローニーとサイラはどうしたんだい?」
「今日からもう私と一緒に仕事だそうです。気にせず、キャンピングカーの掃除しちゃいましょう」
キャンピングカーの掃除をしながら問われた事に答えると、ローニーさんとサイラさんはカリカリとペンを走らせ草稿を書き上げてゆく。
キャンピングカーの掃除が終わり、魔道具ギルドへ返却へ向う。
その間、ローニーさんとサイラさんは草稿を清書しているそうだ。
魔道具ギルドへ着くと、使い心地や不便な所、改善案をまとめたレポートを提出しつつ多岐に渡って色んな話しをしたよ。
帰って来たご挨拶に始まり、かなり時間がかかった。
「摩耗以外は問題はないようですね」
「はい。とても快適で安全でした」
これには全員頷いている。
「キャンピングカーですが、次のタイプが仕上がってますよ。
二階建ての、二階が寝室タイプです。軽量化と全体的な高さを抑えて何とか、大型馬の一部が惹ける重さがありますが…」
「えっ?!作ったんですか?!」
「それはもちろんです!そういったタイプもあるとお聞きしていたんですから!」
やった!キャンピングカーのプレゼンの時に、話だけはしてたんだ。重量の関係で、旅に出る前は試作も実現してなかったんだよね。
魔道具ギルドの私の筆頭専属担当のマリーナさんに連れられ、さっそく二階建てキャンピングカーを見せて頂く。
「私やお父さんにはちょっと天井が低いですが、二階建てになった分広さはありますね」
「優さまもツヨシさまも、お背が高くていらっしゃいますからね」
この国の男性は、だいたいの方が165センチないくらいなんだ。173センチある私も、174センチというお父さん(たぶん172センチくらいだと思うんだけどね)にはちょっと天井が低い。それでも頭をぶつけるほとではないが。
「三人以上で使うなら、やっぱりこの広さはいるかな」
ダイニングのソファーベッドを使ってると、キッチンが使えないからね。スペース的にはもったいないが、ダイニングキッチンは独立してる方がやっぱり良いと旅の間に何度も痛感した。
「魔物の馬は軍に優先的に回されてましたが、少しずつ一般にも回ってきてます。そちらでしたら楽に牽けるんですけどね」
なんと!魔物の馬ならいるよ!魔物の馬は、普通の大型馬の二倍から三倍の重量を楽に牽けてスピードもあるんだそうだ。ただ気性が荒く、なかなか調教ができないので、調教できるとまず軍へまわす。それで余ると一般へ回って来ていたそうだ。
「じゃあ近いうちにアイルを連れてきますので、馬具を宜しくお願いします」
魔物馬アイルの事を話し、馬具の制作も引き受けて下さる事になった。
さくら号の返却やらなんだのも終わっているので、今日はこれで帰れる。
さくら号、たくさんお世話になったね。ありがとう。
心の中でさくら号にお礼を言い、魔道具ギルドを後にした。
◇
「ただいま。ローニーさん、サイラさ…」
「優嬢!!!」
「カールくんとマーズくんが!!!」
「えっ?!何?どうかした?」
ただいまと言い終わらないうちにお二人に叫ばれて驚いた。
「優嬢の手ほどきを受けて、付けペンでの筆記が上達したと!」
「私達よりきれいな文字!!これはお聞きしてませんよ!!!」
そんなに重要だったの?
「算盤が計算道具だったと言うのも聞いてませんよ!」
「ワックスというのも聞いてませんよね?!」
「ローニー、サイラ。
師匠を揺さぶるな」
ユリシーズさんが通常通りの低い声でお二人を止めてくれて助かった。
アカザさん達は依頼完了の報告へ冒険者ギルドへ向かうので別れてここにはおらず、遅いお昼をサーラちゃん、ユリシーズさん、三人娘、カールくん、マーズくん、ローニーさんにサイラさんの大人数で頂いた。
食事の間話題に登った物にも、ちょくちょく「それ聞いてません!」と叫ばれつつだったけど。
◇
「お父さんに見繕ってもらった、倉庫の改修が終わったら始めるつもりです」
料理教室の話には、首を捻っているローニーさんとサイラさん。
少し前に合流したアカザさん達も首を捻っている。いや、三人娘以外の全員が首を捻っていると言うのが正しい。
「お父さんと私が登録している料理レシピの、有料の寺子屋です」
「料理の寺子屋!」
「面白そうですね!」
三人娘を勧誘したのはこのためだ。私が事前に料理をレクチャーして、それを料理教室で先生として生徒さんに教えてもらう。
料理のお店を持つにも三人は資金がない。そのため先生をして、資金を貯めないかと提案したのだ。住むところはコンテナハウスを提供するので、あまりお金は使わなくてすむのもメリットだろう。屋台くらいの資金なら、すぐ貯まると思う。
「私も料理の寺子屋ができたら行きます」
「私も!何度作ってもツヨシさまが作られた味にはならなかったので、教われるなら有難いです」
「旅の間も、レシピを見ながら作ってもお父さんの味にならないと聞きました。直に教われば、文章では分からない事も伝わるでしょう」
受講料+材料費で実際に作るコース。後、受講料だけで調理はしない、見学コースを作る予定だ。
経理や仕入れ、護衛の方も置くつもり。
「料理教室はやってみないとどうなるか分かりませんけどね」
「きっとすぐに二つ目、三つ目と手掛けますよ!」
「何人か行きそうな方の心当たりもありますよ」
「そうなの?」
「近所の料理上手な方には作り方を教わりに行けますが、ツヨシさまや優嬢にとなるとちょっと気後れしますからね」
「有料でも、教わる価値があります!」
ここまでじっと話しを聞いていたサーラちゃんが、おもむろに口を開いた。
「お姉ちゃん。サーラ、寺子屋卒業したら、料理教室で働きたい」
「えええっ?!なんで?」
「お父さんとお姉ちゃんの作るご飯の味を、たくさんの人がお家で食べれるお手伝いなんて嬉しいもん!」
瓢箪から駒だろうか。こうしてサーラちゃんの、少し先の進む方向が決まった。
「アタシも、優さんの料理の教室の守衛になろうかね」
「えええ?!どうしてですか?!冒険者稼業は?!」
なんでアカザさんが?!
「年々体力が落ちて来ていてね。冬には風邪をひく事も増えてて、そろそろ潮時かと思いながら続けて来ていたんだよ」
「アネキ…」
「リーダー」
「リーダー…」
アカザさんは少し寂しそうに笑いながら、言葉を続ける。
「この三人がさらに上を目指すなら、私は抜けた方が良い」
アカザさんはアカギさん達をしっかり見つめ、きっぱりと言い切った。
この件はアカザさん達紅き剣だけで場を設けて話し合い、アカザさんとリラさんが抜ける事に決まったと後日お聞きした。
そんな事もあったが、この日はローニーさんとサイラさんの質問攻めと書類に追われて午後を終えた。
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