67:家族と再会
「うーっ、緊張する…」
アイルと名付けた魔物の馬の上。独り言をつぶやく。
予定より少々遅れているが、旧王都はもうすぐだ。昨日の夜、家族には今日中には家に着くと連絡してある。
「久しぶりでも大丈夫だよ。オオシロさんは優さんの事を目の中に入れても痛くないって可愛がりようだし、それはマーチャさんも同じだ。サーラちゃんもとても懐いているしね。
しばらく離れたくらいでどうにかなる絆じゃないよ」
うん、そうなんだけど…。緊張するものはするのだ。たまにスマホで話してはいたが、直に会うのはまたちょっと違う。
緊張しながらアイルの背に揺られ、街道を進む。
進んでいると、二頭の馬がこちら向きに駆けて来る。
「………!………!」
何やら叫んでいるようだ。だがまだ距離があって聞き取れない。
「…!…えちゃんっ!」
「…え?!サーラちゃんの声?」
さっきより近づいたが、顔はまだちゃんと見えない。だがお姉ちゃんと呼ぶ声は間違いなく私の妹、サーラちゃんの声だ。
目を凝らし、近寄ってくる人物を見つめる。そしてサーラちゃんだと辛うじて目視すると、私からも近づく。
「サーラちゃん!」
近づくとアイルは気を利かせ、伏せをして私を下ろしてくれる。アイルに合う馬具がなく、裸馬なので状況に合わせそうしてくれるようになった。
俺様ではあるが、とても優しい一面も持ち合わせているんだ。
「お姉ちゃん!お姉ちゃんだ!」
同じく馬を下りたサーラちゃんが胸に飛び込んで来た。
「ただいま。迎えに来てくれたの?」
サーラちゃんは頭をぐりぐり胸に押し付けて甘えながら、こくこく頷くという器用な事をして応えてくれた。
「優!」
「優!」
「えっ?!お父さんとお母さんまで来てくれたの?!」
「ああ、一秒でも早く無事な顔が見たかったからな」
「優、お帰りなさい」
「お帰り」
サーラちゃんを抱きしめている私ごとお母さんが私を抱きしめ、さらにお父さんが抱きしめた。
家族との再会は驚きすぎて涙も出なかったし、うじうじする暇もなかった。
みんな、迎えに来てくれてありがとう。
◇
「お父さんと台所に並ぶのは久しぶりだね」
「ああ、そうだな。またこうして並べて嬉しいよ」
お昼を食べて進むか、お昼は抜いて進むか悩んでいた。食べずに進むと、お昼を過ぎた頃に着くだろうと聞いたのだ。
それが思いがけず家族が揃ったので、キャンピングカーで家族水入らずでお昼を摂る事にしたんだ。
アカザさん達が気を使って、そうするように言って下さったからでもある。
「そう言えば、お父さんはパスタがあるのは知ってた?」
「ああ、知ってたよ。あんまり好きじゃないし、お前が冬にいなかったろ。
だから出さなかった」
そういえば冬の保存食だったね。ご尤も。
「昼は何をするんだ?その箱の中身を使うのか?」
「ふっふっふー。じゃーん!」
「おお!海老!まだ生きてるじゃないか!」
そうなのだ。四日目からおがくずを濡らしたり適当な温度管理をした結果、箱詰めして10日以上経ったがまだ生きているのだ!異世界の海老、凄すぎる。
「お父さんは刺し身にして、お母さんとサーラちゃんは海老フライにしようと思うんだけど」
「お姉ちゃん、サーラも刺し身食べてみたい」
「お母さんも食べてみたいわ」
刺し身だけだと食べれないかもしれないから、刺し身とフライの海老尽くし定食を作る事にした。
シンク側で私とお父さんが刺し身と海老フライを。ダイニングテーブルでお母さんとサーラちゃんが付け合せを用意してくれている。
「サーラちゃん、ずいぶん包丁が使えるようになったんだね」
「うん!だってお姉ちゃんみたいに美味しい物いっぱい作れるようになりたいもん!」
「ふふ。こんなこと言ってすごくお手伝いしてくれるから、とても上達したのよ」
「へえ!サーラちゃん偉いね」
こうして色んな話しをしながら準備をしていると、あっという間にお昼ご飯ができあがった。
「はあ、海鮮の刺し身…。ずいぶん久しぶりだ…」
「んん!お姉ちゃん!海老フライ美味しい!」
「あらやだ。刺し身って美味しいのね!」
お父さんが懐かしいと言い、お母さんとサーラちゃんが美味しいと頬張り…。クーとルーもお父さんからお肉をもらって食べてて、団らんに加わっていて何だか懐かしい。
旅に出る前の、ある日のようにさえ感じる。
◇
お昼の後、私達以外は馬に騎乗したり御者台に乗ったりして親子水入らずのままにして下さっている。おかげでゆっくり話せて有難い。
「そういえば転移者が来ると、それまでになかった大きな問題が起きるって聞いたんだけど。お父さんの時は何があったの?」
そういえばまだ聞いてなかったな。そう思ってふと聞いてみた。
「そうらしいな。俺の時は大寒波をヒーターと温かい加工の毛布作ってどうにか人的被害が減ったのと、集団暴走?っていうのがおきかけたな」
「集団暴走?!よく止められたね」
「止めたというのか、問題を先送りにしただけなんだが…」
「え?どういう事?」
「迷宮と呼ばれている洞窟がな、年々浅い階層に生息するはずのない魔物が浅い階層に現れて弱いのが減って行ってたんだよ」
うえっ。そういうのって、決まった階層に決まった魔物しか出ないはずだよね。
「学者達も、確信はないが恐らく集団暴走の前兆だろうって意見だった」
「うん、それでどうしたの?」
「入り口に注連縄を張ったんだよ」
「まさかの注連縄!」
迷宮はある意味別の世界だろう。こちらの世界とあちらの世界を区切るという意味で、注連縄を正しく使っているとは思うけど…。
「前は入口から見える所に魔物はいなかったが、徐々に見かけるようになって来ている。魔物も弱いのが主だったのが強いのに変わって来ている。
いつまで注連縄で食い止められるか分からん。だから先送りしただけだな」
うーん…。一度詳しく話しを聞ける方に聞いてみるかな…。聞くだけになるかも知れないけどね。
◇
そうこうしていると、キャンピングカーは懐かしい我が家に到着した。見上げると、何とも言えない感慨深い思いが胸に去来する。
「お姉ちゃん!果物の木、ちゃんとお世話しててちょっと大きくなったんだよ!」
サーラちゃんに腕を引かれ、果物の木を見に行く。本当だ。どれもちょっとずつ大きくなっている。
「ビオトープも元気なの!」
おお!ちゃんと育っているようだ。
サーラちゃんに案内され、家の中へ入る。スリッパに履き替えて…。
スリッパで生活しているのは、たぶん我が家だけだろう。それが何だか家に帰って来たと思わせてくれる。
お姉ちゃんは座っててと、サーラちゃんが飲み物やお菓子を用意してくれるのが終わる頃。お父さんとお母さんがダイニングにやって来た。
「クーとルーは簡単に水浴びさせたが、入れるのは毛が乾いてからだな」
「あっ、ごめんね。家に入れる事を考えてなかった」
「いつか手放す事を考えてるって聞いてる。だから手をかけ過ぎないようにしてるって。分かってるから大丈夫だ」
「うん。ありがとう」
「お、そうだ。アカザさん達と女の子達はキャンピングカーに泊まる。ユリシーズとカールは使っていた部屋をそのまま残してあるから、そっちへ戻ったからな」
「良かった。私が家かキャンピングカーに泊まってって言っても、宿を取るって引いてくれなかったんだ」
夜はアカザさん達も一緒にバーベキューをするから、それまでちょっと休むといいと言われた。
部屋へ入り、ぽふんとベッドに倒れ込む。
「…帰って来たんだ…」
しばらくそうしていると、うつらうつらし始める。眠い頭で思う。
「ここで前みたいに生活するのが、やっぱり幸せ…」
帰って来た安心感に包まれながら、私は眠りに落ちた。
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