66:馬追いと牛追い
「ではこれより、魔物の馬を主に狙った馬追いと牛追いを始める。
くれぐれも無茶をして、怪我のないように!以上」
バーベキューを切り上げるきっかけになった雨はすっかりあがっている。天気は曇りだが、一日活動するにはちょうど良いかもしれない。
普段は日本みたいに蒸し暑くはないが、気温も上がり始めている時期だ。流石に今日は雨上がりという事もあり、ちょっと蒸しているよ。
「むーっ。じっとしているだけで汗が出るー」
「暑がりだとは知っているけど、本当に暑そうね…」
ナハルさんが隣で苦笑いしている。
「暑いよー。暑さが籠もらないようにだぼだぼのTシャツ着てますけど、それでも暑い…」
キャンピングカーの中へ入り、空調の送風口の前に陣取る。そしてTシャツの下から冷たい空気を取り込んで涼む。うーん、涼しい。
今日はユリシーズさんとアカザさん、アカギさんは馬追いのお手伝いへ。この三人は馬の扱いが上手いのだ。クーとルーはもちろんここへ参加。
リラさんとカールくん、マーズくんは後方支援。主に怪我をした方の治療をするためだ。
私とナハルさんは、追い込まれて来た馬達や牛達を土魔法の柵で捕獲する担当。
3人娘は軽食やお昼、飲み物を作っている。
勢子組はさっき馬達や牛達が良く水を飲みに来ているという河原へ向けて出発したので、しばらくは待機だ。その間にグラニテの3回目の混ぜる作業や軽食を用意しちゃお。
グラニテは果汁と、砂糖で作った薄いシロップがあれば作れるフランスの冷菓だよ。
ちょっと涼んでからウィンナーボートみたいな物や、堅パンをスライスした物にチーズやレタスやお肉を乗せるだけの簡単な物を作っていく。
『優さん、今馬を追い始めたよ』
一時間ほど作業していると、リラさんから連絡があった。外へ出て待っていると、ほどなく馬達がこちらへ向って来るのや勢子の人達の声が聞こえて来た。クーとルーの、勇ましい吠声も聞こえて来たよ。
「うまく囲いに向ってますね。このまま全部、すんなり入ってくれたら良いな」
「そうね。あ、先頭は入り始めたわね」
しばらく見ていると、クーとルーが追っているのは話しに聞いていた賢い馬みたい。その馬のあたりの馬から、囲いの方から逸れて行ってしまう。
勢子をしている軍人さん達は、一糸乱れぬ動きで逸れた馬達の対処に向かうが囲いに向かわせられないでいる。
「ああぁ、入らないか…。ナハルさん、あれ土魔法で囲っちゃいますね」
「私は本来の囲みの方をするわ」
ナハルさんと背中合わせでそれぞれ土魔法を放つ。
私は事前にイメージしていたので、囲えの一言で直径1キロほどの円形の土壁の囲いが出来上がった。馬が大きいので跳躍力も蹴る力も強いと思われる。そのため、高さも壁の厚みも馬を囲う物とは思えない代物だ。
「ふう。ちゃんと囲えたし、囲いの壁に巻き込まれた方もいなくて良かった」
「こっちも入り口の封鎖できたわ。って、相変わらず作れるサイズがおかしい…」
ナハルさんは違う意味で疲れたようだが、できる物はできるので笑ってやり過ごす。
◇
「捕獲希望の50頭にはやはり一度の追込みでは足りませんので、予定通り二度目を行います」
「分かりました。あ、みなさんに軽食つまんで、水分補給してから行ってもらって下さい」
「かたじけない。ありがたく皆に食べてから行ってもらいます」
成果を伝えに来て下さったトヴァルさんから簡単にこの後の段取りなどをお聞きした。怪我人の有無もね。馬達の蹴った土に混ざっていた小石でかすり傷を負った方が2名だけとお聞きし、ほっとする。
みなさん軽食をつまんで水分補給する15分程度の休憩を取ると、別の河原へ向かわれた。
今度は魔物の牛、30頭強が追い立てられて来たのを捕獲。お昼を挟んで3回目は、また魔物の馬が追い立てられて来たんだ。これは途中で他の群れも追い立てる事に成功して、40頭近く捕獲できたんだよ!
クーとルーが大活躍してお手伝いしたそうだ。
囲いに入れられた馬や牛達は落ち着き次第、各牧場に割り振られて引き取られて行った。
ただ一頭を残して、だけどね!
「君も落ち着いて、引き取られた先で幸せになってもらいたいな」
階段をつけて壁の上に上がり、中の馬を見ながら呟く。飼われたからといって、必ず幸せになるとは限らないが。
[ふん!こんな狭い中で、ハーレムも養えぬわ!]
「ぎ…、ぎゃー!馬がしゃべった?!!」
思わず後ろへ後退り、しっかりユリシーズさんに抱き止められてしまった。
「師匠!!危ない!!」
クーとルーがしゃべった時より、母竜や子竜がしゃべった時より驚いた。フェンリルや竜はゲームの中や小説の中でしゃべる事もあったから、まだ受けとめられた。しかし、しゃべる馬なんて見た事も聞いた事もない!
「ユリシーズさん!馬、馬がしゃべったっ!」
「…。さすがに、しゃべる馬がいるのは聞いた事がないな…」
馬がしゃべったと叫ぶと、ユリシーズさんも目を丸くして驚いている。下ではアカザさん達もえっ?!なんて言っているのが聞こえた。
◇
[じゃあどうしてしゃべれるのか分からないんだ?]
[仲間たちにもここまでしゃべれる者もおらぬし、知らん]
ユニコーンとか、他のしゃべれる馬種の血でも入っててしゃべれるのかな?このコも古代語でしゃべっているしさ。
下に降り、壁の一部に開口部を設けて色々しゃべってみた。だがしゃべれる理由は分からないままだ。
[うむ。ここまで俺としゃべれる者は他におらん。面白そうだから、主なら背に乗せてやらんでもない]
…。しゃべれる人間がいると分かった以上、他の人には懐いてくれないかもしれないなぁ…。
[ハーレムは持たせてあげられないけど、冬にエサに困らないようにするし、食べてみて好みの果物や野菜はなるべくあげられるようにするよ。それで良い?]
ハーレムがないとはどういう事だと騒がしかったが、厩舎を見せると何とか理解してくれた。
[あんなところで生きるなら、ハーレムは無理だな…。ふんっ。ハーレムは我慢してやろう。代わりに冬のエサと望む食べ物を与える約束、努努忘れるな]
[エサは絶対に大丈夫。ただ、時期が外れるとあげられない食べ物もあると思う。その時はあるもので許して]
[ないものは仕方ない。それで良かろう]
こうしてこの馬は、私がもらい受ける事となった。残していても暴れ馬にしかならない可能性もあるし、建物や今日のお礼としては安いがどうぞと言って下さったよ。
お金での報酬はいらない!
◇
「わーい!子馬。可愛い」
そしてやっと念願の子馬との触れ合いだ。アカダさんの牧場に割り振られた中にいる子馬と触れ合う。私としてはこれが一番嬉しい報酬だ。
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