62:3人娘
「優さん!落ちないようにしてやれなくて、本当にすまなかった!」
「あれで助けられるのは不可能だと思う。私も後ろが崖だと分かってたのに、条件反射で後ろへ飛んで逃げたのが悪かったんです」
アカザさん達とは翌日、麓で落ち合った。
山でルートを見失ったら、本来下らない。上でアカザさん達と合流するのが正しい。
流れの急な川とか、越えられない障害に遭遇してもと来た道を戻ろうとする。斜面や崖は、下れても上に戻れないのも普通だ。だから闇雲に下らず、高いところからルートを探したりするために必ず登るのが正しい。
他にも理由はあるが、本が一冊書けるので詳しく語るのは止めておく。
私達の場合はクーがアカザさん達の所まで登り、麓までの案内を。
私の身体能力を熟知したルーが、私の通れるルートを選んで麓まで安全なルートを教えてくれるので登らなかった。
私基準なのはユリシーズさんの身体能力に合わせると、私には無理なルートもあるからだ。
そしてアカザさん達がユリシーズさんと一緒に来なかったのは、パニックになっていて一緒に私の所まで行くのは危険とユリシーズさんが判断したためだ。
一般人でまだ子供のカールくんとマーズくんもいたので、二人を連れて崖を下るわけにもいかない。
そんな経緯はあったが無事に再会し、旅を続けた。
◇
「そう言えば、エビフライはまだしてなかったな」
私達は海から離れる最後の町に着いていた。そこで海老を見て、まだエビフライを作っていなかったと思い至る。
ここから旧王都まで、何もなければ休みを除いて8日。日本でなら海老をおがくずに乗せて、18度で温度管理しながら運べば、確か7日から10日は生きたまま運べたはず。可能なら、生きたまま運んでお土産にしたい。
「海老はそのまま袋に入れて、3日は跳ね回ってるよ。安いし、食料の一部に持ち歩く事もある代物だよ」
「それは…、生命力が強いですね」
海老の強い生命力に賭けよう!究極は、凍らせちゃえば生は無理でも運べるんだし。
温度も何とかなる。華氏度の温度計があるのだ。摂氏計でなかったので少々慣れないが、温度計があるのには違いない。
トロ箱とおかくずを探して用意すると、海老を買う。
「海老を下さい。数は200尾お願いします」
小さな港は大童だ。
海老をしっかり海水につけ、トロ箱に半分ほどおかくずを入れた上に海老を並べる。そして上からおかくずをかける。
ちなみにこの手間の分の料金もお支払いするよ。普通はしない手間なのだから、当然の料金だ。
私も手伝いながら気付いたのだが…。車海老みたいなのと、大正海老みたいな種類がごちゃまぜになっているのが何ともはや…。
こちらでは伊勢海老とロブスター、それ以外としか分けないらしい…。う、ううーん。細かくわけようよー。
◇
「頂いていいんですか?!」
「手間賃の他に、食事分くらいの金子までくれたんだ!これくらいさせてもらわにゃ、海の男が廃るってもんだ!」
「とても立派な伊勢海老が20尾ですよ?!」
1キロどころか、下手したら2キロ超えてそうなんだけど?!
用意がなく、大人数に食事を振る舞うのに時間がかかる。料理を振る舞う代わりに、食事代は上乗せしただけだよ?!
「日本では高級らしいが、ここでは庶民の味だからな。遠慮なく!」
……、これは。バレてる感じ?
「ありがとうございます。それじゃ有難く頂きますね」
海老がどれも20センチを越える大きな物で、多めに用意したトロ箱を全部使った。
そのため、どうキャンピングカーに入れるかとあれこれしつつ港に留まっていると、みなさんが伊勢海老を持って来て下さったのだ。
あれこれしてみて、キャンピングカーの下の収納庫に納まった。ただ袋に入れて3日生きてるなら、冷暗所のここならもう少し大丈夫。…だと思いたい。
みなさんにお礼を言うと、北の方へ向ってキャンピングカーを走らせる。今日は移動日なので、少しでも進んでおきたい。
一日二食の人達が食事を摂る時間帯になった頃。少し先で、様子のおかしい女の子の三人組が見える。
「どうしたんでしょう?ひどく嘔吐してるように見えますけど…」
「助けがいるかも知れないね。行ってみようかね」
近付くほど、緊急事態と分かる。一刻の猶予もないだろう。
「これは…!みんなにキュアポーションを飲ませるんだ!急ぐんだよ!」
3人とも、食事の途中でその状態に陥ったらしい。
お皿や料理、鍋がひっくり返り、喉や胸を押さえてもがき苦しんでいる。
「飲んで!キュアポーションだよ!」
二人がかりで一人の女の子にキュアポーションを飲ませる。転がっている肉から嫌な気配がするが、それが原因なのだろうか?
しばらくすると女の子達は落ち着き、体力の消耗のためか眠り始めた。
「新人冒険者のようだね。食費を浮かせるのに、自分たちで採取したか狩ったかした毒のある物を誤って口にしたのかね…」
「お肉から嫌な感じがします。たぶんそれだと思います」
「これは、鳥肉のようだね…。この辺りで毒のある鳥…。ウズラモドキかね。
やれやれ、これは毒のないうずらと見分けが難しいから、素人が手を出すモンじゃないんだ。それに手を出すって事は、他所から来た子達かね?」
そこはヨーロッパに似なくても…。ヨーロッパに限らないが、実は毒を持つ鳥は地球にもいる。
聖魔法でなんとなく、食べれるか食べれないか分かるようになって良かった。知らなければ私も、狩りで獲れたら食べてたもん。
◇
吐瀉物だらけの服と体なので、女の子達には申し訳ないがタープの下で眠ってもらった。
起きて体を洗ってから中で休んでもらうよ。それまでは外でごめん。
一時間もすると、みんな目を覚ました。順番にお風呂に入ってもらい、別の服に着替えてもらった。
食べた物を聞いてみると、この子達は他の国の出身で、やはり無毒のうずらだと思ってどうやらウズラモドキを食べたそうだ。
行き先はすぐ先の村らしいので、そこまで一緒に旅をする事にした。村に着くまでアカザさんがこの辺りの毒のある植物や生き物を教えるって。
「行き先にどんな毒のある物があるかは調べるように、ギルドで教わらなかったかい?」
「すみません。この国は毒のある物は少ないって聞いてて…」
「少なくてもないわけじゃないんだ。いつも気を付けてないと、自分の命に関わるんだよ」
「はい。今回の事でよく分かりました」
「ただ次の村で依頼完了報告したら、その後は料理を出す店をするつもりなんです…」
「私達、冒険者は向いてないみたいなので…。好きな料理を仕事にしようかって…」
ほうほう。ちょっと考えてる事を話してみようかな。
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